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十六話 何この柵怖い

 怖がってしがみついたままのミーシャを(なだ)めるのにしばらく時間がかかった。

 というか、首締まってたから。

 普通の人だったら死んでるよ。


 落ち着いたミーシャは私から降りて、ポイズンバイパーをしげしげと見ている。

 おもむろに手を近づけようとしたので、間に蔓を割り込ませた。

 ミーシャが振り返る。

 私は首を横に振って、溶けた草木を指差した。

 毒あるんだよ、その巨大ヘビ。


「毒のこと心配してるの? それなら平気だよ。ポイズンバイパーの鱗には毒はないから」


 あ、そうなんだ。

 確かに棘の蔓も溶けた様子はない。

 まあ、蔓が折れたり傷ついたりしたことは一度もないんだけどね。

 というか、このヘビに詳しいんだったら聞けばよかった。


「どうにかして持って帰れないかな。でも、私じゃ解体できないし。このままじゃバッグにも入らないよね」


 ミーシャがポイズンバイパーを見ながら呟いている。

 バッグって、腰にある小さなポーチみたいなやつかな?

 うん、どう見ても入らないね。


「村に戻ってすぐに村長に相談すれば、平気かな」


 何が平気なのだろうか。

 さっきからミーシャの独り言の意味がいまいち理解できない。

 私が頭を捻っていると、ミーシャがタタタと小走りで近寄ってきた。


「お花さん。あの、わたし、急いで村に戻りたいんだけど、連れてってくれる?」


 おずおずと上目遣いで尋ねてくるミーシャ。

 うっ、これは反則だ。

 まあ、元々連れてくつもりだったから、断るつもりはない。

 それに、私も村に行きたいしね。

 私は返事代わりに背を向けてしゃがむ。


「ありがとう、お花さん!」


 それからミーシャを乗せてしばらく移動すると、ようやく森を抜け出した。

 森から少し距離をあけたところに木製の柵が見える。

 ようやく……ようやく着いたよ!


「お花さん、このまま柵沿いに右に進んで。そっちに門があるから」


 ミーシャの誘導に従って右へ進路を変え、左手に並ぶ柵を見ながら進む。

 柵は丸太を縄で縛ったような造りで、蔓を伸ばした私よりわずかに高い位置までのびている。

 うーん。

 さっきのポイズンバイパーとかだったら乗り越えそうなんだけど。

 大丈夫なのかな?


「この柵はね、魔物除け結界の境界に沿って作られてるの。だから、魔物は柵を越えて入ってこられないんだよ」


 私の視線に気づいたのか、ミーシャが解説してくれる。

 へえ、結界なんてものもあるんだ。

 魔法の一種なのかな?

 ……触ったらどうなるんだろう。

 ちょっと気になる。


 興味に駆られて、花の蔓を一本、柵の上へそーっと伸ばしてみる。

 先端が柵の上を通り過ぎようとしたところで、バチっという音が鳴り、青い光が弾けた。

 うぎゃっ!

 反射的に蔓を引っ込める。

 蕾の先を確認するが、何ともない。

 あ、あれ?


「だ、大丈夫!?」


 慌てた様子で背中から心配してくれるミーシャに、無事だと蔓を見せてあげる。


「わ、何ともないの? お花さん、強いんだね! 弱い魔物だと焼け焦げちゃうのに!」


 ……何それ怖い。

 ミーシャいわく、魔物(モンスター)の強さによって結界の効果はまちまちらしい。

 強さって……またアバウトな。

 何か基準でもあるんだろうか。


 曲線を描くように続く柵を眺めながら、またしばらく移動する。

 やがて柵の先に木でできた建造物が見えてきた。

 あれが門かな?


 柵より一回り大きな門に近づく。

 なんか騒がしいな。

 門の上を見上げると、見張り台のようなものから私を指差している男性がいた。

 頭にうさ耳が生えているその男性は、何度か後ろを振り返り必死の形相で叫んでいる。


「あ、門番のおじさんだ!」


 背中のミーシャが大きく手を振る。

 呼応するように門番さんが声を大きくする。

 おかげで内容が聞き取れるようになった。


「ミーシャだ! ミーシャが、魔物に、捕まっているんだ!」


 ――うん?

 なんか勘違いしてないか、あの人?

 何となく嫌な感じがするので門から離れたところで歩みを止める。

 重い音とともに木の門が上へとスライドして開き、中から剣と盾で武装した人が三人現れた。

 種族は違うようだけど、全員獣人だ。

 私を見るとぎょっとした顔をしたが、すぐに盾を構える。

 この村の兵士といったところかな。


「ミーシャ、今助けるからな!」

「おい、怪我はないか!?」

「くっ、何だこの魔物は! ミーシャを放せ!」


 口々に叫ぶ獣人の人たち。

 わー。

 完全に敵だと思われてるー。

 仕方がないといえば仕方がないけど。

 えっと、とりあえず泣いていい?


「ま、待って、みんな! お花さんは悪い魔物じゃないの! わたしを助けてくれたの!」


 うう。

 ミーシャ、庇ってくれてありがとう……!


「な、何を言って――」

「お花さん、降ろして」


 先頭の人が喋りだそうとするのを遮り、ミーシャが頼んでくる。

 足代わりの棘の蔓を曲げて地面に降りる。

 ついでに蔓はしまっておく。

 腰を屈めてあげると、ミーシャは背中から飛び降りて私の隣に並んだ。

 こうして並ぶとほとんど背丈は変わらないんだね。


「ほら、大丈夫でしょ。お花さんは優しいんだよ!」


 何故か胸を張って言い放つミーシャ。

 兵士三人組は間抜けたようにポカンと口を開けていた。

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