最終話 お花さんはのんびり過ごしたい
大変申し訳ございません。
先日の予約投稿ができていなかったようで、本日は二話連続で投稿しております。
こちらは二話目となりますので、ご注意ください。
それから数日、バタバタした日々が続いた。
まずはエステルさんの部屋の掃除……の前に、荷物の片付けを行った。
リルカが指名依頼の報酬で貰ったという品の数々――像や絵画など――は全て商業ギルドへ持ち込み売り払った。
またリルカが個人で集めていた魔道具は、必要なものは書斎へ、いらないものは同じく売りにいった。
そのときのリルカはこれまでに見たことのないほど絶望の表情を浮かべていたが、エステルさんに、
「いや、さすがにこれは使わないだろう……」
と言われて泣く泣く手放していた。
魔道具は例のドワーフさんの店へと持ち込み、ついでに腕輪を三つ頼んでおいた。
片付けが済むと空いた二つの部屋の掃除、さらにエステルさんの部屋用の家具や日用品の買い出しに行った。
そして王都に戻ってきてから数日後、ようやくエステルさんの部屋が完成したのだった。
エステルさんは満足そうに頷いた後、ずっとベッドを共用していたリルカにお礼を言っていたが、リルカが少し寂しそうにしていたのはきっと気のせいじゃないだろう。
そしてその数日後、エステルさんが冒険者登録を行った。
理由は簡単、お金がないからだ。
エステルさんが持っていたお金は古すぎて現在は使えず、それまでは私たちが出していたが、さすがにそろそろ自分で稼ぐと言い出したのだ。
私としては面倒事は避けたいからこのままでも……と思ったけど、エステルさんが首を縦には振らなかった。
もちろんエステルさんも進級試験を行い、元Aランク冒険者であるはずのギルマスに圧勝。
私も十分に強くなったと思っていたけど、エステルさんにしてもこの前のヨルムンガンドにしても、まだまだ上には上がいるということを痛感させられたのだった。
◇◇
『プレゼント』
エステルさんが冒険者登録をした日の夜、自宅で夕食を食べ終えた私は、タイミングを見計らってアイテムバッグから木箱を取り出した。
リビングの机に置き、三人が覗き込む中、蓋をそっと外すと、中には銀色に輝くお揃いの腕輪が三つ入っていた。
銀の部分には唐草模様のような装飾が施されている。
「わ、綺麗なの!」
「……三つ? もしかしてボクたち全員の分?」
そう尋ねてきたリルカに私は頷く。
私は紺色の宝石のついたものをリルカへ、黄色い宝石のものをミーシャへそれぞれ手渡す。
最後に残った赤色の宝石のついた腕輪はエステルさんに渡した。
『反応阻害』
その後、黒板に書いた文字をエステルさんへと向ける。
「ほう、なるほど。これが、か」
エステルさんは黒板を読んだ後、興味深そうに腕輪を眺め始め、ふと気付いたように私の腕へと目を向けた。
同じように私の腕輪を見たミーシャも「あっ!」と声を上げる。
「みんなお花さんとお揃いなの!」
「……本当だ。いつの間に」
そう、私のいつも着けている腕輪にも、同じような装飾が彫られている。
元々は装飾のないシンプルな腕輪だったんだけど、これを注文するときに一緒に彫ってもらった。
……今日までバレないか正直ヒヤヒヤしていたけど、意外と気付かれないものだね。
この腕輪は、私たち四人が仲間であることの証だ。
もちろん私とエステルさんの腕輪には反応阻害という機能もあるけど、それ以上にみんなが同じ腕輪を付けることに意味があると私は思っている。
「……アルネ。ありがとう」
「妾からも礼を言うぞ。ありがとの」
リルカとエステルさんからお礼をそれぞれ言われ、私が頷き返した直後――。
ソファから中腰になった私にミーシャが横から飛び付いてきた。
慌てて受け止めるがそのままバランスを崩してソファに倒れ込んでしまう。
ちょっ、危ないよ、ミーシャ!
「お花さん、嬉しいの! ありがとう! 大事にするね!」
抱き付いたまま私のお腹に頭を擦りつけるようにして、ミーシャが嬉しそうな声を上げる。
……まあ、今日くらいは好きなようにさせてあげるか。
私はお腹の上に乗ったミーシャの頭へ手を伸ばすと、その黒髪をそっと撫でるのだった。
◇◇
それから私たちは、定期的に冒険者ギルドで依頼を受けつつ、のんびりした日々を過ごしていた。
ミーシャは相変わらず外に出た際に集めた薬草でポーションなどを作りつつ、最近は料理にも興味を持ち始めている。
腕のほうは……うん、まあ、食べられないことはない。
リルカはこれまで以上に魔法や魔道具の研究に没頭しており、エステルさんとよくああだこうだ言い合っている。
たまに一人で依頼をこなして来るけど、多分スライムが実験台になっているんだろう。
エステルさんは放っておくと一日中寝ていることがたまにある。
封印されている間ずっと寝ていたようなものだから、まだ身体がなれないとか言っていたけど、目が泳いでいたし嘘だと思う。
そんな毎日に幸福を感じながら、私は冒険者ギルドで日課の依頼確認をしていた。
今日は面白そうな依頼はないなあ、と思いつつ、ボードの端から順に眺めて半分ほどに差し掛かったとき――。
ギルドの扉がバンッと大きな音を立てて開かれ、冒険者風の男性が慌てたように転がり込んできた。
「ま、魔物だ! 魔物の大群だ!」
「はあ!? なんだって……!」
「まさか、またスタンピード!?」
騒ぎは一瞬で大きくなり、あれよあれよという間に私はギルマスの前に立たされていた。
「そんなわけで、またスタンピードが起きたらしいんだよ。今回僕は指揮に集中するから、現場はよろしくね、Aランクのアルネさん?」
両手を顔の前で合わせたギルマスの言葉に、私は心の中で叫ぶのだった。
もう、お願いだからのんびり過ごさせてー!
最後までご愛読頂き、本当にありがとうございました!
アルラウネさんの物語は、これで幕を下します。
見切り発車で書き始め、何度も挫折しかけたこの物語ですが、みなさまの評価やブックマーク、感想が励みとなり、なんとか書き上げることができました。
改めて、本当に、ありがとうございました!
なお、まだ書きたいエピソードがいくつかあるので、もう少しだけ外伝を追加していく予定です。