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百四十三話 照れやな偽旅人

「……良いのか? 妾は魔物――それも『魔神』だ。それに、過去に村一つを滅ぼしている悪人だぞ?」


 いや、私も魔物で魔神だけどね?

 それと村に関してだって、エステルさん自身も想定外の悲劇だったはずだ。

 もちろん知らなかったからといって許されるわけでないと思う。

 けど、さっきの追悼する姿を見る限り、心の底から悔やんでいるのがよく分かる。


「エステルお姉さんは良い人だよ?」


 ミーシャが不思議そうに首を傾げる。

 ほら、事情を詳しく知らない純真無垢なミーシャがこう言っているんだし、間違いないよ。

 それと、ミーシャにもそのうち事情を話しておかないとね。


「……ミーシャの言うとおり。悪人ならわざわざ『過去の清算』なんてしない」


 リルカの言葉に同意するように私も頷く。

 しばらくエステルさんはポカンとした表情を浮かべていたが、やがて照れたように視線を彷徨わせてからくつくつと笑い出した。


「やはり、お主らはお人好しだの。……今回もその好意に甘えさせてもらうとするかの」


 そう言って立ち上がると、握手を求めるように右手を差し出すエステルさん。

 私も腰掛けていた岩から立ってエステルさんの手を取る。


「わたしもー!」

「……じゃあボクも」


 そこにミーシャとリルカの手も重なり、四人で円陣を組むような体勢になった。

 じゃあ、エステルさんも一緒に街へ戻るってことで決まりだね!


 嬉しそうにはにかむエステルさんを見て、私たちも自然と笑みをこぼしたのだった。


 ◇◇


 太陽が傾き、沈みかけた頃。

 私たち四人はマテオンの東門を通って町中へと戻ってきていた。


 特訓期間も食料調達などでたまに帰って来ていたけど、こうしてゆっくりと町中を歩くのは久しぶりだ。

 ただ、避難勧告が出てかなり経つため、夕暮れに染まった町中はほとんど無人のゴーストタウンと化していた。

 影の魔物は倒したんだし、避難勧告が解除されれば、いずれマテオンも元の活気のある町に戻っていくはずだ。


 結局、門番以外とは誰ともすれ違うこともなく、私たちは久々に冒険者ギルドの門をくぐる。


「――あっ! ようやく帰って来たわね!」


 ギルドの中にいたのは、相も変わらずカウンターに頬杖をついた露出度の高い女性。

 マテオンの冒険者ギルドのマスター、カトラさんだった。


 カトラさんはガタッと椅子を揺らしながら立ち上がると、カウンターから回り込んでくる。

 なんかこの光景、前にも見たなあ……。

 そんなことを思いながら待っていると、カトラさんは私たちの数メートルほど手前で立ち止まり、首を捻った。


「ええっと、そちらの人は?」


 カトラさんの視線の先、私たちの後を付いてきていたエステルさんが、前へと進み出る。

 そして一言。


「……最近はそういう服装が流行っているのか?」


 隣でリルカが「ぶっ」と吹き出し、慌てて口を押さえる。

 私も顔の筋肉を総動員して何とか無表情を保つ。

 平常心、平常心……!

 リルカとは反対の隣では、ミーシャが首を傾げている。


「失礼。最近の流行りには疎いものでの」

「……よく言われるから気にしないで。ちなみにこれは私の普段着よ。これでも元鍛冶師だから、こういう涼しい格好が落ち着くの」

「ほう、鍛冶師か。なるほど」


 納得がいったのか、腕を組んでうんうんと頷くエステルさん。


「おっと、自己紹介が遅れたの。妾はエステリーゼ・ヴァン・ヴェルーチェ。偉大なる吸――ゴホン、た、ただの旅人だ」

「……こう見えてかなり魔法の腕が立つ。影の魔物の討伐でも協力してもらった」


 急かさずフォローに入るリルカ。

 うん、エステルさん、演技下手すぎ。


 遺跡に三百年封印されていた吸血鬼です、と言うわけにはいかないので、エステルさんには遺跡で出会った旅人という設定にしてもらっている。

 私と違って見た目は人間そのものなので、誤魔化すのは楽だ。

 ……王都に行く前に、魔力の反応阻害のアクセサリーだけは忘れずに用意しないとね。


 ギルマスは一瞬だけ訝しがる目付きになったが、リルカの言葉で表情を和らげた。


「危険なことに協力してもらったようで、悪かったわね。ごめんなさい」

「なに、妾が手伝うと頼み込んだのだ。謝る必要などない」

「あら、そうなの? もしかして実は腕利きの冒険者なのかしら?」

「資格は持っていないな。そのうち取るのも面白そうだが」

「優秀な人材は大歓迎よ。そのときはぜひうちのギルドで取ってね」


 いや、絶対面倒事になるからやめて欲しい。

 エステルさんの実力なら、王都のギルマス――元とはいえAランク冒険者――にだって勝っちゃいそうだからね。

 エステルさんの冒険者登録だけはなんとしても阻止しないと……。


 そんなことを考えていると、ギルマスは何かを思い出したかのように「あっ!」と声をあげる。


「こんな話をしている場合じゃないわね! その様子だと、例の魔物は倒せたのでしょ?」

「うん、わたしたちで倒したの!」

「なら良かったわ。他の人を呼んでくるから、しばらく休んでいてちょうだい」


 それだけ言い残すと、ギルマスは急ぐようにカウンターの隣にある扉から奥へと駆けていった。

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