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百四十二話 弔いと知り合い

 鳥かごの中の毒を花に吸わせた後、私は精霊魔法を解除した。

 蔓が消えていったそこには影の魔物の死体は存在せず、人のものと思われる骨だけが土の上に散らばっていた。


 私の近くまで来ていたエステルさんがゆっくりと亡骸へと歩み寄る。

 そして骨を見下ろせる位置まで近寄ると、胸の前で両手を組み、静かに目を閉じた。


「何百年もすまなかったの。……ゆっくり休むと良い」


 そう呟くエステルさん。

 風になびく黒と白のドレスが、今だけは亡骸を弔うための喪服に見えた――。


「さて。こやつを埋めてやるとするか」


 しばらく私も心の中で手を合わせていると、追悼が終わったのか、エステルさんがこちらを振り返った。

 ん、そうだね。

 私は頷いてからエステルさんの近くまで歩いていく。


「……ボクも――」

「リルカさんはまだダメなの!」


 後ろで立ち上がろうとしたリルカと、それを止めるミーシャの声が聞こえる。

 リルカの足の傷はミーシャの回復魔法ですでに治っているけど、まだ痺れが残っているらしく、一人では歩けないでいる。

 そんな二人の掛け合いに苦笑しつつ、私はエステルさんの隣に並ぶ。


「ふむ……。あそこが良いか」


 エステルさんは遺跡の入り口がある巨大な岩盤をさっと見渡した後、入り口から数メートルほど隣、岩がV字に凹んだ部分へ右手を翳した。

 すると岩のすき間の地面を覆うように黒い霧が突然発生する。

 私が驚いた頃には霧はすぐに晴れ、穴が開いた地面が現れた。


 次にエステルさんが左手を下へと翳すと黒い霧が亡骸を覆い、消えると同時に再び岩のすき間へ霧が現れる。


 エステルさんのオリジナル魔法『収納魔法』。

 ……こうして改めて見るとやっぱり凄いね。

 影の魔物のように纏われるのも厄介だったけど、エステルさんのように自在に発生させ、あっという間に物を出し入れできるのは相当な性能だと思う。

 正直、影の魔物が『収納魔法』を自在に操れていたら、私たちでは太刀打ちできなかった可能性すらある。


「何をぼうっとしている、花の」


 いつの間にか亡骸が埋まった岩のすき間の前へ移動していたエステルさんから訝しげな声がかかる。

 ごめん、なんでもないよ。

 私は首を横に振るとエステルさんをすぐに追いかける。


 岩のすき間の地面の上には、こぶしよりも一回りほど大きな石が置かれている。

 エステルさんはそれを見るなり、


「……何か物寂しいの」


 と呟いた。


 うん、確かに……。

 エステルさんの呟きに内心で同意してから、私ははたと思い出す。

 あ、それなら!


 私は辺りを見渡した後、目的の物を見つけるとすぐに取って戻る。

 そして手にした物――白い花を石の手前に置いた。

 これでどうかな?


「自身を討ったのと同じ花を添えるか。ま、これでこやつも寂しくはないだろうの」


 ……あー。

 エステルさんのくつくつという笑い声に、私は頬をかくのだった。


 ◇◇


 影の魔物の埋葬が終わり、リルカが歩けるようになるのを待っている間。

 岩に並んで腰掛けていたミーシャがそういえばと口を開いた。


「エステルお姉さんはこの後どうするの?」

「妾か? 特にあてはないの……。また旅にでも出るとするか。昔の知り合いに顔を見せにいくのもありか」


 昔の知り合いって……。

 エステルさん、この遺跡に三百年ほど封印されていたんだよね?

 さすがに生きていないんじゃない?


 そんな心の声が表情に出ていたのか、エステルさんは私の顔を見るなりくつくつと笑い始めた。


「万が一にも死んではいないだろうよ。妾のような不老ではないが生命力は並外れているし、討伐されることもないだろう」

「討伐されるの?」

「うん? ……ああ、全員、妾や花のと同じ魔神だ」


 ミーシャの疑問に、何ということもないように答えるエステルさん。

 え、魔神ってそんなにいるものなの?


「ちなみにその知り合いの特徴は……?」

「一体は最後まで人にしか見えなかったが、他は黒い鱗のドラゴンに騎士のような白銀の鎧を着込んだゴーレム、妖狐なんて珍しいやつもいたの」

「……黒龍(エンシェントドラゴン)にアーマーナイト。それにキュウビも……」


 驚きを通り越して呆れたような声色で何かの名前を上げていくリルカ。

 うん?

 なんか、どこかで聞き覚えのあるような……?


「アルネも見たことあるはず。どれもSSランクに指定されている魔物」


 ……あっ!

 私はなるほどと手を打つ。

 王都で買った魔物図鑑、その下巻の最後の項目に載っていたやつか!

 って、あれって伝説上とか神話上の魔物じゃないの?

 エステルさん、そんな人――じゃなくて魔物、いや魔神か、ともかく知り合いなの?


「知り合いというだけでさほど親しくはないから、あまり乗り気はしないがの。他にすることもないからな」


 エステルさんはそう言って肩を竦める。

 なるほど、ただでさえエステルさん自身が魔神なうえ百五十年も旅をしていれば、それくらいの知り合いの一人や二人くらいできるか。

 うーん、でも、それなら……。


 私はアイテムバッグから黒板とチョークを取り出すと、一言書いてエステルさんに向けた。


『一緒に来る?』

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