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十五話 VSポイズンバイパー

 ミーシャの案内で森を移動すること数時間。

 案内と言ってもここは森、ただまっすぐ進むだけだけど。

 それでも疲れは溜まるもので、途中で休憩を挟むことにした。

 いつも通り近くの果実をいくつか採ると、ミーシャに渡す。


「ありがとう」


 ミーシャも馴れたもので、果物を受け取ると近くの木の根っこに腰かけて食べ始めた。

 それにしても、結構移動したのにまだ村に着かないのか。

 そろそろ見えてきてもおかしくはないと思うんだけどな。


 私は早々に食べ終えると、蔓を伸ばして木に登ってみる。

 うーん、葉っぱが邪魔で遠くまで見えないね。

 もう少し上行けば見えるかな。

 なんて考えていると、遠くで何か動くものが視界に入る。


 目を凝らしてみる。

 ――ヘビだ。

 しかも、周りの木と比べるに、かなり大きい。

 今まで出会ったヘビが私と同サイズだったのに対して、あれは数メートルを優に超している。

 さらに、ついてないことに、巨大ヘビはこちらに向かって移動しているようだ。


 慌てて地面に降りると、ミーシャに背を向けて乗るように指示する。


「もう移動するの? 分かった」


 素直に従ってくれるミーシャ。

 背中に捕まり移動しようと蔓を伸ばしたところで、森の陰から紫色のまだら模様がある巨大ヘビが姿を現した。

 間に合わなかったか。


「ポ、ポイズン……バイパー」


 背中でミーシャがぼそりと小さく漏らす。

 ポイズンバイパーって、あの巨大ヘビの名前?

 というか、ポイズンってことは毒があるの?


 ミーシャに先を促そうとしたところで、ポイズンバイパーが襲いかかってきた。

 大きな口と鋭い牙が迫ってくる。

 うわっ、怖っ!

 私は蔓を使い左へステップしてかわす。

 背中から「きゃっ!」という可愛らしい悲鳴が上がる。


 うん。

 毒があるとか以前に、あの牙で噛まれたらひとたまりもないね。

 ただ、身体が大きいからか、動きはそこまで速くない。

 ミーシャを背負ったままでも充分避けられる。


 私のすぐ右を過ぎていく巨体に棘の蔓を降り下ろす。

 しかし硬い鱗に弾かれてしまう。

 ちょっ、棘の蔓が刺さらないの?

 ミノタウロス以来、初めて弾かれたよ。


 着地すると同時に、ポイズンバイパーがしっぽを横薙ぎに振るってくる。

 近くの枝に蔓を巻き付けて身体を持ち上げると、その下をポイズンバイパーしっぽが通っていく。

 さて。

 どうしよう?

 蔓は弾かれてしまう。

 ポイズンってことは毒にも耐性あるよね。

 ……あれ、打つ手なくない?


 ポイズンバイパーは再び私に頭を向けると、大きく息を吸い込むような動作をする。

 ――ヤバい!

 何がヤバいのかよく分からないけど、モンスターとしての本能が盛大に警笛を鳴らしている。

 とっさに巻き付けた蔓をほどきつつ思いっきり力を込めて、身体を横へ弾く。


 その直後だった。

 私がさっきまでいた場所に向けて、ポイズンバイパーの口から毒ガスのようなものが吐き出される。

 毒ガスが触れた木が、草が、溶けていく。

 あれって、ブレス!?

 しかも、毒の!?


 着地してからポイズンバイパーを見ると、ブレスを吐き終えたところだった。

 溶けた草木を見回して、私達(エサ)を探しているみたいだ。

 一瞬に溶けたとでも思ってるんだろうか。

 ……今なら逃げられるんじゃない?

 そんな淡い期待を一瞬抱くが、すぐに周りを見渡し始めたヘビに見つかる。


 まあいい。

 どのみち逃げたところですぐに見つかって追い付かれる。

 敵の攻撃を避けまくってはいるけれど、蔓を使った変則的な動きをしているだけで、移動速度自体は速くないんだ。

 それに、今のブレスを見て、思い付いたことがある。


 再び突進してきたポイズンバイパーを、蔓を使ってかわす。

 噛みつこうとしたり、しっぽで払ってきたりするが、左へ、上へと避け続ける。

 左腕が使い物にならないから、右へだけは避けないように気をつける。


 うーん。

 らちが明かない。

 もう一度ブレスを放って欲しいんだけど。

 連続して出せないのか、さっきみたいに居場所を見失うのを忌避しているのか。

 仕方がない。


 しっぽの大振りを、わざと蔓を使い高く跳び上がって避ける。

 空中で逃げ場をなくした私達を見ると、ポイズンバイパーはブレスのため、息を吸い込んだ。

 よし、狙い通り!

 落下してきた私達に向けて口を開こうとしたとき、私は棘の蔓二本をその口に巻き付ける。


 草木を瞬く間に溶かす毒のブレス。

 そのブレスを吐く瞬間に、口を閉じさせるとどうなるか?

 答えは簡単。

 ()()()()


 ボフッという間の抜けた音とともに、ポイズンバイパーの身体が大きくはねた。

 私は真横に着地してその様子を見守る。

 やがてポイズンバイパーはその巨体を倒した。

 口の隙間から毒ガスが少し漏れている。


 ふうっ。

 なんとか倒せた。

 ポイズンバイパーの口に巻き付けたままの蔓を回収する。

 というか、さっきからミーシャ静かだね。

 首を回して見てみると、目をぎゅっと瞑って何やら小さく呟いている。


「怖くない怖くない怖くない怖くない……」


 ……あー。

 どうやら相当怖かったらしい。

 って、当たり前か。

 ミーシャくらいの小さな子どもにとって、巨大モンスターとの戦闘なんて恐怖以外の何物でもない。

 むしろ、よく我慢したと褒めてあげたい。


「あ……え? お、終わった、の?」


 首に回された腕を軽く叩いてあげると、すぐに顔をあげて周囲を見渡した。

 やがてポイズンバイパーの死体を見つけると、小さく「ひっ!」と悲鳴をあげた。

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