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百四十話 VS影の魔物 その三

 精霊魔法を発動した途端、私の溜め込んだ魔力が地面を伝って広がっていく。

 私たちや影の魔物を含む、遺跡前の広場一帯が淡い光に包まれる。

 そして数秒後――何事もなかったかのように光が収まった。


 集中するために薄く閉じていた目を開くと、数メートル手前まで影の魔物が突っ込んできていた。

 影の魔物の振りかぶった腕が下ろされようとした、その瞬間――。

 突如()()()()()()()()、私と影の魔物の間に立ち塞がった。


 尖った指先が蔓に弾かれ、影の魔物はそのまま後ろへと距離を取る。

 突然出てきた蔓に警戒しているのか、蔓と周囲を何度も真っ赤な目が往復している。


 ……良かった、ちゃんと発動してるみたいだね。

 魔力探知を使っているから、辺り一帯に私の魔力が張り巡らされているのは分かる。

 それでもパッと見では何も変わらないし、発動しているのか心配になってしまうのは仕方がないと思う。


「……何度見ても変な魔法」


 ブーツの魔法を止めて根っこを引っ込めていると、斜め後ろからボソッと呟かれた声が聞こえる。

 振り返ればいつの間にか下がってきていたリルカの姿があった。

 その背後には火の玉が浮いている。

 威力のある『雷火』ではなく『燐火』を出しているということは、サポートしてくれるつもりかな。

 ……というか、変な魔法は余計だよ。


「次が来る」


 リルカの言葉に私は前へ顔を戻し、影の魔物と対峙する。

 それと同時に、私の展開した魔法が底上げされるのに気付いた。


「『魔力強化』! お花さん、頑張って!」


 後ろからミーシャの声援が届く。

 ナイスタイミング!

 私は振り返らずに親指を立ててミーシャに応える。


 さあ、第二ラウンドといくよ!

 私は伸ばした両腕を横へ開くと、身体の前で拍手するように勢いよく手を合わせる。

 その動きに連動するように、いまだ警戒している影の魔物の両サイドの地面から蔓が伸び、影の魔物へと襲いかかった。


 影の魔物は飛び退くようにして避けるが……まだまだ!

 私が右手を前へ伸ばすと、二本の蔓が向きを変えて影の魔物を追従する。

 さらに左手の手のひらを上にしてクイッと手招きするように指を曲げると、影の魔物のすぐ後ろに別の蔓が三本、退路を塞ぐように並んで生えた。


 背中から蔓にぶつかり体勢を崩した影の魔物へ、追い討ちをかけるように二本の蔓が突き刺さる。

 ……いや、まだか。


「……惜しい」


 蔓は影の魔物の両手に掴まれており、すんでのところで止められていた。

 でも、その状態ならもう避けられないでしょ!


 私がさらに別の蔓を伸ばそうとした、次のとき。

 影の魔物の小さな頭が横へ裂けた。

 違う、あれは……口?


 私が首を捻っていると、影の魔物は口から魔素を次々と吸い込み始め、体内に魔力を溜めていく。

 って、この量やばいよね……!?


「お主ら、下がれ!」


 私が咄嗟に後ろへ跳躍するのと、エステルさんの荒げた声が聞こえるのが同時だった。

 そしてその直後、影の魔物を中心として爆風が巻き起こった。


 空中で風に押される私の前に炎の玉が飛来し、盾の形を取り石や岩の礫から守ってくれる。

 首を巡らせると、少し後ろで同じように炎の盾に守られたリルカが見える。


 私たちが並ぶように着地してしばらく経つと、やがて爆風が収まった。


「お花さん、リルカさん! 大丈夫!?」


 結構な距離を飛ばされたのか、遠く後ろで待機していたはずのミーシャが駆け寄ってくる。


「大丈……夫」

「リルカさん……!」


 リルカの声が途中で途切れ、右足を押さえてうずくまる。

 えっ、リルカ、どうしたの!?


「気にしないで……。少し切っただけ」


 ローブから覗いたふくらはぎからは、少なくない量の血が流れ出ている。

 また、痛みからか、歯を食いしばっている。

 ちょっ、全然大丈夫じゃないでしょ、それ!


「花の! ここは妾たちに任せて行ってこい」

「わたしがすぐ治すから、任せてなの!」

「ごめん……。少し任せた」


 エステルさんに背中を押された私は、ミーシャとリルカに頷くと、影の魔物のいる方へと走る。


 今の爆風は、恐らく魔力暴発だろう。

 一口に魔力暴発と言っても、扱える魔力量と溜め込んだ魔力量によって発生する現象が異なる。

 扱える魔力量を大きく超えるとスタンピードのときの私のように身体中のあらゆる箇所が裂け、さらにそれを超えると死に至る。

 しかし多少超えた程度であれば、溜め込んだ魔力が一斉に溢れ出し、周囲の物を吹き飛ばす程度で済む。

 ……()()()()()()


 地面に円形に跡のついた、その中心に佇む影の魔物を、私は縁から見つめる。


 あの影の魔物のように、そもそもの扱える魔力量が膨大な場合、小さな魔力暴発でさえあの威力となってしまう。

 魔力による爆風だから阻止する手立てはほぼないけど、もちろん弱点はある。

 一歩間違えればただの自爆技になるという点と、今の影の魔物の状態――すなわち魔力が練れなくなる点だ。

 つまり、今がチャンスというわけだ!


 魔力探知を使って、まだ私の精霊魔法が消えていないことを確認。

 私は影の魔物へ向かって再三両腕を伸ばした。

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