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百三十七話 黒い霧

 翌日の正午。

 リルカとミーシャの談笑に混じっていた私は、魔力探知が膨大な魔力を捉えたことで顔を遺跡の奥へと向けた。


「……来た?」


 リルカの問いに私は頷いて返す。

 さて、じゃあお出迎えといきましょうか!


 私たちは腰掛けていた岩から立ち上がると、遺跡の入口に向かって移動する。

 そしてそのまま入口を抜け――遺跡の入口前の広場へと出た。


「遅かったの。あと少しで接触しそうでハラハラしたぞ」


 広場の中央では腕組みしたエステルさんが仁王立ちで待っていた。

 風に揺れる長い銀髪が、真上にある太陽の光をきらきらと反射している。

 こうして明るい場所で見ると、やっぱりかなりの美人だよね、エステルさん。


 ちなみにエステルさんは吸血鬼だが、太陽の下に出ても平気らしい。

 エステルさんいわく、


「妾は吸血鬼と呼ばれているだけで、厳密には異質同体の魔物(キメラ)だからの」


 だそうだ。


 そういえば百五十年ほど旅をしてたと言っていたね。

 さすがに夜の間だけ移動では旅なんて難しいだろうし、太陽に弱いわけがないよね。


「それで仕掛けはできたのか?」

「うん、バッチリなの!」


 ミーシャが頷いた――その直後。

 遺跡から身体の底に響くような低い爆音が聞こえ、同時に空気がビリビリと震えた。


 私たちが影の魔物が近付く際まで遺跡の中にいたのは、これを仕掛けるためだった。

 この十五日間で、影の魔物の歩みがとても遅いということは分かっていた。

 なら、それを利用しない手はない。


 修行の合間に私の前世の知識とリルカの魔法の知識を合わせて作った、お手軽時限爆弾。

 火の魔法を込めた魔石を一個ダメにするから、値段は全くお手軽じゃないけどね。


「……やった?」


 遺跡の入り口から上がる煙を見て、そんなことをボソッと呟くリルカ。

 うんそれ言っちゃダメなやつ。

 まあ、そもそもあの爆発程度で倒せるとは思っていないけどね。


 遺跡の奥から漂ってくる熱気を感じながら、私は魔力探知を展開する。

 すると予想どおり、先ほどまでと変わらない速度で近付いてくる魔力の塊が引っ掛かった。


「やってないみたいだの」

「残念……。なら仕方がない」


 あまり残念そうな様子もなくそう言ったリルカは、右手に持った杖を構える。

 私も蔓を伸ばすと戦闘体勢に入った。


 やがて、煙の中から影の魔物が姿を現した。

 太陽の明かりの下に出てきたそれは、しかし遺跡の中で見たときと変わらず一切の光を吸収していた。

 よく見ると、身体を薄らと黒い()()みたいなものが覆っている。

 ――うん、エステルさんから聞いていた情報どおりだね。


「もやもやしたのが覆ってるの」

「前にも言ったが、あれには決して触れるな。吸い込まれるぞ?」

「う、うん……。分かってるの」


 神妙な面持ちでミーシャが頷く。


 影の魔物の特徴は、エステルさんから事前に一通り聞いている。

 そのうちの一つがあの黒い霧――エステルさんの十八番の魔法『収納魔法』だ。


 古代魔法の一つである『時空間魔法』を再現しようとしてできた魔法らしい。

 能力としては単純で、黒い霧に触れた物質を異空間に収納したり、逆に収納された物を取り出したりするだけの魔法。

 本来は物が持ち運びやすくなる程度の、アイテムバッグの上位版みたいな魔法のはずなんだけど……。


「厄介だの。まさか収納魔法にあんな使い方があるとは思わなかった」


 あの影の魔物は、収納魔法を使う際に出る黒い霧を全身に覆わせている。

 さっきの爆発で生じた熱風や岩なども異空間に取り込まれ、全くの無傷でやり過ごせているのだ。


「……でも攻略法はある」

「もちろんだ。収納魔法とて容量に限界は存在する。あやつは無意識に魔法を発動させているだけで、扱いきれていない。ひたすら取り込むだけでは、いずれパンクするのは目に見えている」

「ならパンクさせるだけ……!」


 一歩前に出たリルカは、十五メートルほど手前まで近付いた影の魔物に対して杖の先端を向ける。

 リルカに大量の魔素が集まっていき、魔力へと変換されていく。


 そして次の瞬間、魔力が一気に消費され、リルカの背後にいくつもの火の玉が浮かび上がった。

 火の玉の数は以前の倍近くまで増えており、さらに一つ一つの大きさも二回りほど大きい。


「『燐火』」


 リルカが小さく杖を持ち上げると、全ての火の玉が集まり、巨大な炎の塊となった。

 その炎は、以前に見たものとは比べ物にならないほど大きい。

 そしてリルカが杖を降り下ろすと同時に、炎が勢いよく影の魔物へと衝突した。


 やがて炎が収まったあとには……。


「まだダメなの」


 変わらず黒い霧を纏った影の魔物が存在していた。


「……大丈夫。分かっている」


 ミーシャの呟きにリルカが答える。

 その顔には不敵な笑みが浮かんでおり……。

 そしてその背後には先ほどと同じ巨大な炎の塊がいくつも浮かんでいた。


「短期間にこれほどとは……。さすがの妾も驚きだ」


 リルカが杖を降り下ろすと、炎の塊が一斉に影の魔物に吸い寄せられるように向かっていく。

 そして直後、私たちのいる遺跡前の広場に、轟音が響き渡った。

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