表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/164

十四話 私は抱き枕か!

 日が傾き、徐々に辺りが暗くなり始めている。

 さて、いつまでものんびりしているわけにはいかない。


 猫耳っ子あらため、ミーシャを見る。

 ミーシャは身を屈めて私の腰の花をじっと観察している。

 この子を町か村か、とにかく元の住んでいる場所へ帰さないといけない。


 本当は、今日中に送り届けてあげたい。

 森の中で一晩過ごすのは、この歳の子にはキツイだろう。

 そしてそれ以上に、遅くなると誰かがミーシャを探しに来る可能性があるのが気になる。

 ミーシャは早々に警戒を解いてくれたけど、大人だとそう簡単にはいかないだろう。

 最悪、人と戦うことになってしまう。

 できればそれは避けたい。


 ただ、日が暮れると視界が悪くなるし、モンスターにも不意を突かれやすくなる。

 暗くなってから移動するのは危険すぎる。

 うーん。

 仕方がない、背に腹は変えられない。

 今日はこの近くで一晩過ごして、移動は明日にしよう。


 そうと決めたら、まずは安全に休めそうな場所探しだ。

 この開けた場所は他のモンスターに見つかりやすい。

 あと、いつまでもヘビの死体のそばにいたくはないからね。


 いまだに腰の花を観察しているミーシャの肩を叩く。

 顔をあげたところで、森の奥を指差す。


「えっと、移動するの?」


 私は頷いてからミーシャの手を繋ぐと、根っこ動かして歩き出す。

 先導したのはいいけど、私の足はミーシャよりも遅かった。

 まあ、本来は根っこだからね。

 別に悔しくなんてない。


 そのまま数分ほど一緒に移動していると、程よい大きさの木を見つけた。

 周りにもまばらに木が生えているし、モンスターの気配や痕跡もない。

 なかなか良い物件だ。

 ここにしようかな。


「この木がどうかしたの?」


 私は返事代わりに棘の蔓を伸ばす。

 ミーシャが驚いてびくりと身体を震わせたので、安心させるために頭をポンポンと軽く叩いておく。

 いつも通り蔓を太めの枝に巻き付けると、右手でミーシャを抱き寄せる。


「ふえっ!?」


 慌てるミーシャを無視して、枝の上へ登る。

 枝の上に着いてから解放してあげた。

 落ちないか少し心配だ。

 いや、猫だから高いところは得意なのかな。


「え、なんで木に登ったの? って、お花さん、どこ行くの!?」


 混乱するミーシャを残して一度降りると、食べ物を採ってからまた戻る。

 採ってきた果物を何個か手渡す。

 さっき食べてたしそんなにお腹は減ってないだろうから、今回は少なめだ。


「ありがとう。あの、今日はここで寝るの?」


 食べ物を採ってる間に状況把握していたらしい。

 本当に見た目通りの歳なのか疑いたくなってきた。

 肯定してから自分の分の果物を食べる。

 ミーシャももくもくと食べている。


 ……き、気まずい。

 こういう時って何か話した方がいいんだろうけど、あいにく私は喋れない。

 ミーシャちゃん、何か話してほしいなー。

 チラチラと視線を送ってみる。

 視線が気になったのか、ミーシャは食べるのを止めて私を見た。


「大丈夫だよ、おいしいよ」


 にっこり笑ってくれる。

 違う、かわいいけど、そうじゃない。

 変なところで意思疏通ができない私とミーシャだった。


 夜も更けた頃、食事を終えたミーシャは枝から足を投げ出してくつろいでいたが、やがてこっくりと船をこぎ始めた。

 落ちそうだったので引き寄せると、逆に抱きつかれた。

 まあ、落ちる心配がなくなっただけ良しとしようかな。


 そしてそのまま一晩、抱き枕代わりにされた。


 ◇◇


 翌朝。

 朝食にまた果物を食べた後、本格的に移動を始めることにする。


 まずは棘の蔓を伸ばす。

 昨日と今日でだいぶ馴れたのか、ミーシャは蔓を見ても一々びくりと反応しなくなった。

 続いてミーシャに背を向けてしゃがむと、背中に乗ってと指してみる。

 お姫様抱っこも考えたけど、左腕が使えないから断念した。


「お花さんに乗ればいいの?」


 頷く。

 相変わらず察しの良い子だ。


「お、おじゃまします」


 ミーシャはおずおずと私の背中に乗ると、首に腕を回して身体を預けてくる。

 落ちないように足の下に右手を差し込む。

 昨日の夜も思ったけど、肌スベスベだよね。

 思わず撫でてしまう。


「ひゃん!」


 うん、今のはごめん。

 気を取り直して、棘の蔓に力を込めて身体を持ち上げる。

 視界が高くなる。

 背中でミーシャが「わー! わー!」と興奮して叫んでいる。

 怯えていないようで一安心だ。

 でも、できれば耳元で叫ばないでほしいかな。


 落ち着くのを待ってから、花の蔓を一本、蕾が前を向くように伸ばす。

 肩越しにミーシャを見て首を傾げてみる。

 こっちでいいの?

 蕾の向きを変えて、再度首を傾げる。

 同じことを数回繰り返す。

 行きたい方向を聞いてるつもりなんだけど。

 ちょっと無理があるかな?


「ええっと……。もしかして、村まで連れてってくれるの?」


 おお、通じたよ!

 そして新情報ゲット!

 ミーシャが暮らしているのは村なのか。

 町より入るのは苦労しなさそうだね。


 背中のミーシャが動くのが分かる。

 辺りを見渡して、方角を確認しているのだろう。

 やがて、私が来た方と逆を指差す。


「あっちが村だよ」


 オーケー。

 じゃあ、行くとしますか。

 私は蔓を動かして、ミーシャの指差す方向へ移動を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ