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百三十話 私にしかできない魔法

「……新しい魔法?」


 ギルマスへの報告を済ませた翌日の早朝。

 私はリルカに相談を持ちかけていた。


 リルカは齧りかけのパンを持った右手を机の上へ戻すと首を傾げる。

 宿屋の窓から射し込む朝日のせいか、心なしかリルカの目がいつもより輝いて見える。

 いや、単純に魔法という単語に喜々としているだけか。


 私はリルカに見せていた黒板を下すと、続いてチョークを走らせる。


『遺跡で使える魔法』


 前回の遺跡調査では誤射や崩落の可能性があるためほとんど魔法が使えなかった。

 今は魔力探知があるから暗い遺跡の中でも蔓を使った接近戦ができるけど、今度の相手はあの影の魔物。

 少しでも戦力の増強はしておきたい。


 リルカは黒板を見ると「ああ」と納得いったように頷くと少しだけ考え込むが、すぐに顔を上げる。


「……案はいくつかある。一つはアルネが使っているような水の盾」


 水の盾……ウォーターケージのことかな?

 あれ、盾じゃなくて(ケージ)なんだけど……まあいいや。


「あの盾なら遺跡の中でも使える。強化すればもっと便利になると思う」


 確かにそれも案の一つだよね。

 実際、前回の遺跡調査では活躍していたし……。

 ウォーターケージの強化方法を考えようとしたが、リルカが言葉を続けるのでいったん考えるのを止める。


「……二つ目はボクの『燐火』のような操れる魔法。強力な魔法でも遺跡の壁などに当たらなければいい」


 うーん、燐火か。

 実はウォーターボールを操れないかは今まで何度も試したんだよね。

 結果は残念ながら全て失敗。

 理由はよく分からないんだけど、多分、水が自在に動くというイメージが湧きにくいんだろうと思っている。


 前世の知識には物理という学問についても存在している。

 物体には重力が働くもの。

 水にも重力が加わり下に流れ落ちる。

 そんな『常識』が水を自在に操る魔法の習得を邪魔している、気がする。


「崩落に気を付けるなら威力を小さくしたり命中率を上げたり。毒のような威力が必要ない魔法も一つの手。他にもミーシャの回復魔法のような支援系の魔法とか――」


 ……ん?

 リルカが挙げ続ける案に、一つ気になるものがあった。

 普通ならスルーしていそうだけど……。

 もしかして、今ならいけるんじゃないかな?


 私は黒板でなんとか魔法のイメージを伝えると、リルカは珍しく口角を上げた。


「……面白い発想。それならアルネにしかできない魔法になる」


◇◇


 リルカとの会話を思い出しながら、私は両腕をラットの群れの方へと伸ばして魔素を集め始める。

 集めた魔素を魔力へと練り直し、さらに魔法へと変換する。


 イメージするのは水の球。

 それをラットの数――合計十六個作りあげる。

 伸ばした両腕、手のひらの前方に、水の球が出来上がっていく。


 ここまではウォーターボールやレインと同じ。

 水球の大きさはウォーターボールよりも小さくレインと同程度。

 ただし、ここからが今までと違う。


 私は水球を細長く――杭のような形へと伸ばしていく。

 さらに出来上がった水の杭を回転させる。

 ちなみに、回転させることで飛ぶときに安定する、という変な知識があったからやっているだけで、効果のほどは知らない。


 そして最後の仕上げ。

 魔力探知で捉えたラットたちにそれぞれ狙いを付ける。

 イメージとしては、水の杭の尖端とラットたちを見えない線で繋げるような感じだ。


「……いい感じ。そういえば名前は決めた?」


 少し後ろで一連の作業を見ていたリルカは、出来上がった魔法に満足げに頷いたあと、私にそう尋ねてくる。


 もちろん。

 魔法に名前をつけてイメージしやすくする、と私に魔法を教えてくれたエリューさんも言っていたからね。


 この魔法は『ウォータースナイプ』。

 魔力探知と組み合わせることで、遠距離から相手を確実に狙撃(スナイプ)する、私にしかできない魔法だ……!


 私は十六発の水の弾を同時に撃ち出す。

 弾は吸い寄せられるように探知した魔力へ向かって飛んでいく。


 杭の形にしているのは、飛ぶときの空気抵抗を少なくして速度をあげるためと、風切り音をなくすため。

 目論見通り音に敏感なラットたちでも弾の接近に気付いた様子はない。

 そのまま弾はラットたちのもとへ到達し――ほぼ同時にラットたちの魔力反応が消えていった。


 やった、成功!

 私は両手を握りしめると胸の前で小さくガッツポーズをとる。


 やや遅れてリルカの隣にいたミーシャの耳がピクンと立った。


「あ、聞こえたの! ラットの鳴き声なの!」


 良かった。

 ミーシャにも聞こえたということは、ちゃんと倒せたみたいだね。


 私は魔力探知で残っているラットがいないかを再度確めると、対罠用にウォーターケージを作ってから歩き出す。

 十メートルほど歩くと、さっきまで魔力探知が捉えていた場所には、お腹や頭部を撃ち抜かれたスワムラットの死体が固まっていた。

 うん、虫系の魔物よりはましだけど、あまりずっと見ていたいものじゃないね。


 私は「お花さん、すごいの!」と興奮しているミーシャと、「……なるほど」と興味深げにラットの死体を見ているリルカの腕を掴むと、先へと歩いていくのだった。

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