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百二十七話 休息と準備期間

「それで、あなたたちはこれからどうするの?」


 椅子に座り直したギルマスが私やリルカに顔を向ける。

 ……そういえば、王都の指名依頼である魔物の調査については話していなかったね。

 私はリルカに目線を配ると、リルカは意を酌んでくれたのか頷いてギルマスへ視線を戻す。


「ボクたちは王都の指名依頼があるので遺跡に戻るつもり」

「指名依頼? そんなことは紹介状に書かれていなかったと思うけど……」


 ギルマスが怪訝な表情を浮かべるのを見て、そういえばと思い出す。

 指名依頼はあの手紙を書いてもらった後に決まったんだったね。

 ギルマスが知らないのも無理ない。


「内容は聞いてもいい?」

「……少し前に王都でスタンピードが起きたのは知っている?」

「ええ、もちろんよ。この辺りの魔物も結構な数が南下したと報告があったわ」

「ボクたちはそのスタンピードが発生した原因を調査している」


 ギルマスは心当たりがあったのか、「ああ、あれね」と納得するように手を打った。


「もしかして何か知っている?」

「あなたたちが遺跡に向かった後、王都から連絡があっただけよ。スタンピードの調査で冒険者を三人こちらに寄越したって。あなたたちのことだったのね」


 なんだ、残念。

 リルカやミーシャも同じように肩を落とす。

 私たちは王都からマテオンまでほぼ真っ直ぐの最短ルートで来ているから、迂回の多い安全ルートで来る連絡より早く着いちゃったんだろうね。


「遺跡の魔物が原因だとボクたちは考えている。それを調査するつもり」

「確かに遺跡が発見された時期とスタンピードが発生した時期は近いわね。可能性は高いわ」


 ギルマスは納得がいったように大きく頷いた。


「話してくれてありがと。私にできることなら何でも言ってちょうだい。できる限り力になるわ」

「……助かる」

「じゃ、話は終わりよ。――誰かいるかしら?」


 ギルマスが部屋の外へ大声で呼び掛けると、ギルドの職員らしき男性が現れた。

 調査隊の二人は事情聴取のためその場に残り、クロエさんとディーツさんはお話――ギルマスの表情を見る限りお説教――があるということでギルマスの執務室へ連行されていく。

 また夕方に宿屋で集合するとだけ決めて、その場は解散となった。


 ◇◇


 冒険者ギルドから宿屋への帰り道。

 私とミーシャ、リルカの三人は、昼食を取るため大通りを歩いていた。

 屋台はほとんど畳まれており、店も玄関口にクローズドの札が下げられている。

 閑散とした石畳の道に私たちの足音とたまに井戸端会議の話し声だけが聞こえる。


「ここも開いていない」


 食堂の看板が下げられた店の中を覗いていたリルカが首を横に振った。

 うーん、ダメか。

 大通りの先を見るが、同じように閑散とした光景が続いている。


 避難勧告が出てからもう十日以上は経っているから、今残っているのは避難するつもりのない人たちだけだろう。

 そんな状態じゃ店もほとんどやっていないだろうし、これは大人しく宿屋に戻って昼食を用意してもらったほうがいいかな。


 私が脇に抱えた黒板に『引き返そう』と書こうとしたときだった。

 少し先の店を確認していたミーシャが声をあげた。


「こっちに開いている店があるの!」


 おお、良かったー。

 リルカと一緒にミーシャの元へ駆けつけ、入り口の木製の扉に『オープン』の札がかかっているのを見る。

 中からはパンが焼ける香ばしい匂いや香辛料の食欲を掻き立てられる匂いが漂ってくる。


「もうお腹ペコペコなの。お花さん、リルカさん、早く入ろう?」


 待ちきれないといった様子のミーシャが扉を開けて入っていく。

 私とリルカは顔を見合わせて笑い、ミーシャに続いて入る。


 狭い店内には小さな机が二つだけ並べられており、それぞれ椅子が四つずつ置かれていた。

 そのうちの片方へ腰掛け、オススメのランチを三人分頼んだ後。

 リルカが口を開いた。


「遺跡に戻るとは言ったけどしばらくは身体を休めようと思う。その間にランタンなどの必要な道具を買い集めておきたい。……特にアルネのアイテムバッグは必須」


 そこまで言うとリルカは机の上に置かれた黒板にチラリと目線を向ける。

 私もこのまま黒板だけ持ち歩く訳にはいかないし、アイテムバッグは欲しいところだ。

 それと、今回の遺跡調査で一番の功労者ともいえるポーションもまた買っておきたい。

 味は最悪だけど効力は確かだし、ミーシャがいないときや回復魔法が使えないときに必要だということは今回で身に染みて分かった。


「遺跡に戻るのは三日後の朝でどう?」

「わたしは大丈夫なの!」


 私もそれでいいよ、というように頷く。


 ……まあ、本音をいえばもっと時間は欲しい。

 遺跡に戻る前まで魔力探知の練習をして、探知できる範囲を広げておきたいからね。

 今の半径十メートルくらいのままでも戦う分には問題ないけど、あの広大な遺跡から影の魔物一体を探すとなるとさすがに手狭だ。


 それに、私のとっておきの秘策のためには、影の魔物の動向を把握する必要がある。

 この三日間でどこまで広げられるかが肝となるはず……。


 そんなことを考えている間に、できたての料理が運ばれてきた。

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