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百二十四話 暗闇の魔物

 クロエさんの案内に従って遺跡を進む。

 途中で何度も魔物との戦闘になったけど、私とディーツさんの二人で撃退できている。

 さすがAランク冒険者、魔法も使わずに剣一本で踊るように魔物を切っていく。


 というかディーツさんはこの暗闇の中でどうやって魔物を視認しているんだろう?

 ミーシャと同じく目や耳が良いのかな?

 ちょっと気になる。


 そして何度目かの休憩を兼ねた地図確認をしていたとき。

 クロエさんが明るい声をあげた。


「みんな。ここから近くの通路を抜ければ、入り口のあった最初の部屋よ」


 その言葉を聞いて、調査隊の二人は「助かった」と抱き合い、ミーシャとリルカはお互いに手を取っている。

 私もほっと胸を撫で下ろし、前方の暗闇を見つめる。


 暗闇のせいでまともに戦えなかったり、ミーシャとリルカの二人とはぐれたり。

 遺跡に入ってから窮地に陥ることばかりだったけど、結果としてミーシャの両親も無事見つけられて良かった。

 どれもあの謎の女性、エステルさんのおかげと言っても過言ではないと思う。

 いつの間にかいなくなってしまったけど……。

 魔物を探しにまたここへは来ることになるし、そのときにちゃんとお礼が言えたらいいな。


 心の中でそう願って暗闇から視線を逸らそうとした――その瞬間。

 魔力探知に巨大な魔力が引っ掛かるのを感じた。


 ……っ!

 一瞬エステルさんかと思ったけど、さすがにそれよりは小さい。

 でも、私たちの誰よりも――Aランク冒険者のクロエさんやディーツさんよりも遥かに大きく、そして嫌な感じのする魔力。

 もしかして、これがSランクの魔物……!?


 ほぼ同時にディーツさんも気付いたようで、鞘に手をそえて立ち上がる。


「何か来るぞ、壁際に寄れ……!」


 その言葉に私たちは壁際の一角へ集まる。

 全員が揃ったのを確認すると、ディーツさんが弧を描くように魔力の壁を作り私たちを囲った。

 ディーツさんの幻影魔法、視認阻害だ。

 内側からは外の様子は見えるが、外側からは何もないように見える。

 私が最初にディーツさんたちを見つけたときに使われていたのもこの魔法だ。


「な、何か来るの?」

「しーっ、静かに。音は聞こえるから」


 クロエさんが人差し指を立てたのを見て、ミーシャは自分の口を手で覆ってコクコクと頷く。

 ディーツさんとリルカがそれぞれ持っていた魔石の明かりを消す。

 各々が息を潜めつつ、いざというときに備えて武器を取り出し臨戦体制に入る。

 私も棘の蔓を伸ばしつつ、魔力探知で捉えた何者かの方へ視線を向けた。


 緊張感の走る中、ぺたっ、ぺたっ、という一定のリズムの足音が聞こえてくる。

 やがて、遺跡の奥からそれは現れた。


 ――それは()()()()()()()()()()だった。


「ひっ……んむっ……!」


 アッリさんが悲鳴を上げそうになるのを、隣にいたトニスさんが口を押さえて止めた。

 チラリとミーシャを見ると、クロエさんに視界を塞がれていた。

 私だってもし声が出るなら思わず叫んでいたかもしれない。


 真っ暗なはずの世界に、それは周囲の一切の光を飲み込むようにぼやりと浮かび上がっていた。

 高さは私より少し高い程度、つまり一般人の平均身長くらいだろう。

 ただ、胴がほとんどない代わりに手足が異様に長く、特に腕は地面に着くか着かないかというところまで伸びている。

 一歩踏み出すたびに重心の片寄った方の腕の指先が地面を擦っている。


 何より異様なのはその頭だった。

 身体に対して小さいその頭には、ルビーのような真っ赤な目が二つ、まるで浮くように付いている。


 な、何なの?

 一体何なの、あれは……!?


 混乱する思考の中、異様な雰囲気と魔力を放つそれは、私たちが隠れた壁の前を横切るように通り過ぎていった。


 ◇◇


 その後、さらに十分な時間を置いてから、私たちはすぐさまその場を離れた。

 幸いあの何かは私たちの進行方向とは逆へ移動しており、そのため移動はスムーズに行えた。


 さらに、あれから遠ざかりたい一心から休まずハイペースで移動したおかげか。

 数時間ほど経った頃、私たちは長かった遺跡を呆気なく脱し、懐かしの太陽の下へと戻ってきていた。


「……あれのことだ。わたしたちが見た魔物というのは」

「ええ。間違いないわ」


 遺跡の入り口から少し離れた岩場に腰かけて休む中、ディーツさんが口を開いた。

 あれ、魔物なの……?

 私は先ほどのあれの姿を思い出そうとして、すぐに頭を振った。

 なんか夢にまで出そうだし、止めておこう。


「僕たちは実物を見たのは初めてですが……。一目見ただけでお二方や他の調査隊員が危険だと言っていた意味が理解できました」


 トニスさんは、あれからずっと震えっぱなしのアッリさんの肩を抱き寄せる。

 そんな二人の様子を何かを考えるように見ていたリルカが、私の方を振り向いた。


「……アルネ。さっきの魔物が王都で受けた依頼の魔物だと思う?」


 私は少しだけ考えを巡らせるが、すぐに否定するように首を横に振った。

 確かに不気味な存在だったし、恐らくAランク以上、もしかしたらSランクの魔物だということもあり得る。

 けど何故か、スタンピードで襲ってきたドラゴンが、あれから逃げてきたとは思えない。


「……ボクも同じ。あの遺跡にはまだ何かある。そんな気がする」


 私とリルカは揃って遺跡の入り口を見つめた。

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