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百二十二話 遺跡調査隊

「……何があったのか聞いても?」


 ミーシャが青年に回復魔法をかけ終えたところで、私の隣に座りっているリルカが口を開いた。

 そうだね。

 Sランクの魔物を調査か討伐するために遺跡へ入ったと聞いていたから、まさか他の人がいるとは思わなかった。

 一体なんでこんな状況になっているのかは聞いておきたい。


「リルカちゃんたちはどこまで聞いたのかしら?」

「……お二人のいた調査隊がSランクの魔物を見つけてマテオンに避難勧告が出たこと。その魔物を止めるためにお二人が再び遺跡に戻った」

「そうね、その通りよ。討伐は無理だとしても、手負いにさせるくらいならできるつもりでいるわ」


 自信に満ちた笑みを湛えたクロエさんはそこで一旦言葉を区切ると、横になった二人を見る。


「遺跡に入って一日ほど経った頃かしら。魔物を探している最中、二人に会ったの」


 ……え、遺跡の中で会ったの?

 調査隊の二人はどう見ても戦えるようには思えないけど、護衛なしで遺跡に入ったってこと?


「避難勧告が出た後も独自に調査を続けていたみたいでね。冒険者の護衛を雇っていたらしいの。けれど……」

「その冒険者は金だけ奪って二人を置き去りにして逃げたらしい」


 クロエさんの言葉を引き継ぐように、ディーツさんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら話し出す。


「そんな……」

「世の中にはそういう冒険者もいるということだ」


 まあ、簡単な手続きだけで誰でも冒険者になれるんだから、悪人――いわゆる()()()()――がいても不思議じゃない。

 そんなディーツさんの言葉に、どこか悲しそうな表情を浮かべるミーシャ。

 今まで会った冒険者は、中には不真面目な人やちょっかいを出してくる人もいたけど、悪人はいなかったと思う。

 ミーシャにとっては衝撃的だろう。


「大丈夫だ、そういうやつは大抵すぐに捕まる。今回も名前と人相が割れている。ギルドへ戻ったらマスターに相談すればいい」


 ディーツさんはそれだけ言うとミーシャの髪をくしゃくしゃと撫でながら微笑みかける。

 その顔付きは優しい父親そのもので、ミーシャも安心したのか相好を崩した。


「話が脱線したわね。わたし達は二人が魔物に襲われていたところに遭遇して、一緒に行動することになったの」


 その後、二人が遺跡の罠に嵌まり重傷を負ってしまったらしい。

 今まで横になったまま無言で聞いていた青年は、誰に言うともなくポツリと呟き始める。


「この近くの小さな山村には……何百年も昔に脅威になった魔物が封印されている遺跡の伝承があります。僕たちはその魔物が今回の騒動の魔物だと予想して、止めるための手掛かりを探しに来ていました」


 そこで青年はふふっと自虐的な笑みを浮かべる。


「けれど冒険者に騙されたうえ、助けて頂いた方の忠告を聞かずに大怪我。さらに私たちのために何日も足止めしてしまう。……全く、我ながら情けない話です」


 青年の言葉に空気が静まり返る。

 かと思うと、突然ミーシャが「そんなことないの!」と立ち上がって声を張り上げた。


「えっと、うまく言えないけど! 街の人のためにやったことなら、きっと凄いことなの……!」


 ミーシャの熱説にポカンとする青年。


 ……ふふっ、ミーシャの言うとおりだね。

 Sランクの魔物が目撃されたという遺跡に、その魔物を止めるための手段を探して飛び込む。

 普通できることじゃないよ。

 まして、それを情けないなんて思うわけがない。


 クロエさんとディーツさんも同じことを思ったのか、一度お互いに顔を見合わせた後、青年に向き直る。


「あなたたちの行動は立派なものよ?」

「それに、さっきも言ったが、失敗は恥ではない」


 落ち込んだままだった青年の表情は、いつしかはにかむような笑顔に変わった。


「そう言って頂けると嬉しいです」


 ◇◇


 交代で見張りを行いながら身体を休め、体感で半日ほどが過ぎた頃。

 ずっと気を失ったままだった調査隊の女性がようやく目を覚ました。

 全員で簡単な食事を取りながら現状を説明し、改めて自己紹介することになった。


「わたしはミーシャで、こっちがお花さんなの!」

「……ボクはリルカ。王都で冒険者をしている。……ちなみにこっちの名前はアルネ。三人でパーティを組んでいる」


 リルカの紹介で私は頭を軽く下げる。

 調査隊の二人は私の頭の上――恐らく花――を見て何か言いたそうに口をもごもごさせるが、結局何も言わず目をそらした。


「では、僕たちの番ですね。僕はトニス、彼女はアッリ。ノーウェイ家より派遣された、この遺跡の調査隊の一員です」


 ……ん?

 ノーウェイ家?

 どこかで聞き覚えのある家名に、私は思わず首を捻る。


「……もしかしてご存知ないですか? ファルムンド王国四大貴族の一つ、北のノーウェイ家です」


 四大貴族という単語でリルカの方を向きそうになるが、なんとか堪える。

 ……なるほどね、リルカとの会話か何かで聞いたことがあったのか。

 またはギルドで調査隊の話を聞いたときに出てきたか。

 まあ、貴族との繋がりなんてリルカ以外にはないんだし、あまり気にする必要はなさそうかな。

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