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百二十一話 クロエとディーツ

 遺跡の壁際の一角にいる四人、そのうちの獣人の二人を見て、私はなるほどと思った。


 一人はミーシャと同じ黒髪の男性、ディーツさん。

 相変わらず私に不審な目を向けてきているものの、さっきまでよりは雰囲気が柔らかい……気がする。

 しかし他の三人を守るように立ち、左手は腰にある剣の鞘に添えられている。


 そしてもう一人は、その後ろに座った女性。

 耳にかかった亜麻色の髪をかき上げながら、にこにこと柔和な笑みを浮かべている。

 その顔はまるで十年後くらいのミーシャを見ているような錯覚に陥る。

 あの人がクロエさんで間違いないだろう。


 私は隣に並ぶミーシャをチラリと横目で見る。

 うん、両親の良いところを見事に譲り受けているね。

 何度か二人とミーシャを交互に見ていると、クロエさんが口を開いた。


「あなたがアルネちゃんね? リルカちゃんから話は聞いたわ、さっきはディーツがごめんなさい」

「そうなの! やっぱりお父さんから攻撃したって聞いたの!」

「先ほども言ったが、先に敵意を向けてきたのは隣にいたもう一人で――」

「二人はちょっと静かにしていてくれるかしら?」


 にこにこ顔のまま放たれたクロエさんの一言に、ディーツさんとミーシャは二人して押し黙ってしまう。

 クロエさんは立ち上がると、ディーツさんの横を通りすぎて私の前までやってきた。

 そして背の低い私に目線を合わせるように腰を屈めると、私の空いている左手をそっと取る。


「いつも娘を守ってくれてありがとう。ディーツに似て無鉄砲なところがあるから、心配していたのよ」


 そう言って隣にいるミーシャをチラリと見るクロエさんだが、しかし私は首を横に振る。

 いつも助けてもらっているのは私の方だ。

 今だって、ミーシャの回復魔法がなければ、動けるようになるまでもっと時間がかかっていた。


 それに、森を彷徨っていたあの時ミーシャに出会わなければ、今の私はなかっただろう。

 もしかしたら、あのまま森で他の魔物に殺されていたかもしれない。

 そう考えると、ミーシャは私の命の恩人も同然だね。


 私は繋いでいた右手を離すと、ミーシャの頭をポンポンと軽く撫でる。

 ミーシャが不思議そうに見上げてくるが、私はなんでもないよと首を振った。


「あらあら。数年ぶりの母親(わたし)よりも、アルネちゃんの方にベッタリなのね。少し妬けちゃうわ。いつもこんなに仲が良いのかしら?」

「……大体こんな感じ」


 私の少し後ろにいたリルカが、何故か呆れ顔でクロエさんに同意する。

 ベッタリって、ただ頭撫でているだけじゃん。

 姉妹でじゃれているみたいなものでしょ?


「将来はアルネちゃんが貰ってくれれば安心ね」


 いや何言っているのクロエさん。

 思わず私は心の中で突っ込みを入れた。


 ◇◇


 その後しばらくクロエさんたちとお話――私は質問に首を振っていただけだけど――をし、私が悪い魔物ではないと誤解が解けた頃。

 壁際に寝かされていた二人の調査隊のうち一人が目を覚ました。


「ここは……? 確か僕は……うっ……!」


 身体を起こそうとしてふらついたところを、クロエさんが支える。

 調査隊の青年は頭を押さえながらクロエさんにお礼を言ったあと、ゆっくりと頭を巡らせた。


「み、みなさんは……?」

「わたしの娘のミーシャと、そのパーティの子たちよ。みんないい子だから安心して」

「クロエ様の……娘さん……? ああ、調査の合間に、時々お話されていた……」

「良いから横になって。ミーシャ、また頼めるかしら?」

「うん、分かったの」


 再び横に寝かされた青年のもとへミーシャは小走りで駆け寄ると、包帯を巻かれた身体に手を添えて「ヒール」と唱える。

 ミーシャの手から白い光が溢れ、包帯の巻かれた傷口を覆っていく。


「な、何か温かいような。え、痛みがひいていく……? これは一体……!?」

「ミーシャの魔法よ」

「魔法……その歳でこんなにも凄い魔法を。さすが、お二人のお子さんです」

「あらあら、誉めても何も出ないわよ? あ、ポーションなら出せるわ」

「それは遠慮しておきます」


 近くのリュックのようなものを漁ろうとしたクロエさんを、青年が真剣な眼差しでやんわりと止めた。

 うんうん、ポーションの青臭さは良く分かるよ!

 私は思わず腕組みをして何度も頷く。


 青年は少し頭を傾けて隣に横たわるもう一人を見る。

 そちらには青年と同じ服装の女性が、まだ目覚めないでいる。

 クロエさん曰く、疲労で眠っているだけらしいから、じきに起きるそうだ。


「……僕たちは、生きていたのですね。お二方の忠告を聞かずに飛び出してしまったのに……」

「気にするな、不注意は誰にでもあるさ。次から注意すればいいだけだ」


 後ろで見張りをしていたディーツさんが、頭だけ少しこちらに向けて言う。

 おお、なんか大人の男性っていう雰囲気が出ていてカッコいい!


「そうね。アルネちゃんに襲いかかった誰かさんのようにね」

「そ、それは何度も謝罪しただろう」

「ふふ、冗談よ」


 クロエさんの言葉にたじろぐディーツさん。

 ……訂正、ただの熱々夫婦だわ。

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