表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/164

百十九話 奇跡と再会

 振りかぶられた剣が視界に入った瞬間から、時がゆっくりと流れ始める。


 私はすぐに移動しようとするが、蔓は支えに使っているし、足にも力が入らない。

 ウォーターケージはさっきの爆発で壊れているし、今から魔力を練って作るのは間に合わない。

 あ、これ詰んだかも。


 ディーツさんの腕とともに剣が徐々に下がってくる。


 ……いや、こんなところで諦める訳にはいかないよね!

 せっかく転生してミーシャやリルカという仲間に出会えたんだ。

 もっとこの世界で生きていたい!

 こんなところで死んでたまるか!


 剣があと数十センチのところまで迫ってくるのを見て、私は支えにしていた蔓を()()()()()()()

 爆発の影響でボロボロだった身体は、支えを失くしたことで地面に吸い寄せられるように崩れ落ちる。


 次の瞬間、地面に倒れ込んだ私のすぐ真上を、剣が素通りしていった。


 首を巡らせ目線をあげるとディーツさんの驚くような顔が目に入る。

 私はしてやったりと口角をあげた。


「……まさか今のを避けられるとは。手負いだと侮っていたようだ」


 ディーツさんは振り降ろした剣を引き戻し、うつ伏せに倒れた私に切っ先を向けて持ち上げる。

 さて、次はどうしようか……。

 今は無理やり避けられたけど、正直ほとんど身体が動かない今の状態でできることはもうない。

 あるとすれば、奇跡でも起こるのを期待するくらいかな。


 ディーツさんは持ち上げた剣を振り降ろし――。


「――待ってなの!」


 透き通るような声が遺跡内に響き渡り、剣が私の身体に刺さる直前で止まった。


 は、ははっ……。

 本当に起きちゃったよ、奇跡。


 そして、私の意識はそこで途切れた。


 ◇◇


「……さん、……するの!」

「……そのま……頭……。ボクが……」


 近くで声が聞こえる。

 身体中が温かい何かで優しく包まれており、痛みが少しずつ引いていく。

 心地よい感じに身体を委ねていると、ゆっくりと頭を持ち上げられ、その下に柔らかいものが敷かれた。

 ……うん?

 何これ?


 さらに唇に何か硬いものが触れる感触がしたと思った、次の瞬間。

 口の中に青臭いドロッとした液体が流し込まれて、私は思わず噴き出した。


「――きゃっ!」

「……うわ」


 ちょっ、何今の!?

 苦っ……というか臭っ!

 慌てて上体をあげようとするが、まだ身体に力が入らず、ゴツンという良い音とともに後頭部に痛みが走る。

 いだっ!


「うう、くさいの……。お花さん、酷いの……」

「……アルネ。今のはない。起きていたのなら言ってほしい」


 後頭部の痛みに涙目になりながら目を開くと、薄暗い景色の中に、顔をローブの袖で拭いているミーシャと、若干ジトッとした目つきのリルカがいた。

 やっぱり、ミーシャとリルカだ……!

 無事だったんだね!


 二人の無事にほっと安心したところで、リルカの左手に握られた瓶が目に入った。

 瓶の中には青緑色の液体が半分ほど残っている。

 あー、さっき口に流し込まれたの、ポーションか。

 どおりで臭いわけだ。


 私がなるほどと納得していると、顔を拭き終えたミーシャとリルカが、仰向けで転がる私の顔を覗き込んできた。


「お花さん、けがは大丈夫?」

「……残り飲める?」


 そう言って私の顔の上でポーションの瓶を振るリルカ。

 できれば遠慮したいけど……飲まないとダメなんだろうね。

 多分さっきの温かい感じはミーシャの回復魔法で、それでも一向に回復しないからポーションを飲ませようとしたんだろう。


 首を縦に振ると、「なら我慢して」と言って再び私の口にポーションを流し込むリルカ。

 私は顔をしかめながらもそれを飲み下した。

 さらに追加でもう一本流し込まされると、ようやくリルカは人心地ついたような表情を浮かべた。


 ……そっか。

 私が二人の事を心配していたように、二人も私のことを心配してくれていたのか。

 ごめん、心配かけちゃったみたいだね。


「……あとはミーシャに任せた。ボクは向こうの様子を見てくる」

「分かったの。お花さん、じっとしていてね。――ヒール!」


 リルカは表情を引き締めて立ち上がるとそのままどこかへ歩いて行ってしまい、残ったミーシャは私の身体に両手を添えて回復魔法をかけてくれる。

 私は回復魔法の柔らかな温かさに目を閉じる。

 リルカが言っていた向こうって、ディーツさんのことかな?

 そういえば、クロエさん――ミーシャのお母さんはさっきまで見なかったけど、どこかにいるんだよね。


 身体がまだ思うように動かないし、私は地面に転がったまま魔力探知を行ってみる。

 すると魔力探知できるぎりぎりの範囲、十メートルほど遠くに大きな魔力と小さな魔力が二つずつと、そこへ向かって移動する大きな魔力が一つ探知できた。

 移動しているのはリルカで、大きな魔力二つが多分ディーツさんとクロエさんかな?

 あと二つの小さな魔力は……誰だろう?


 と、そこで私はあることに気付く。

 あれ、エステルさんの魔力がない?


 エステルさんは、Aランク冒険者であるはずのディーツさんが比較にならないほど巨大な魔力を持っていた。

 そんな魔力を見逃すはずがない。


 そういえば、私とディーツさんが戦闘になった頃から、姿が見えなかった気がする……。

 もしかしたら、私が誰かと再会できたから、どこかへ行っちゃったのかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ