表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/164

百十八話 VS魔法剣士

 後ろに飛ばされたのは幸いだった。

 相手と距離を開けられたし、こうして考える時間ができたからね。

 私は地面に着地しながら、蔓のガードを解く。


 咄嗟とはいえガードしておいてなんだけど、まさか蔓で剣が止められるとは思わなかった。

 そういえば、以前はミノタウロスのパンチを受け止めたり、ワイバーンに突き刺したりしていたね。

 植物のはずなのにどれだけ固いんだよ、この蔓。

 閑話休題――。


 私は改めて目の前の男性を見る。

 精悍な、だけど優しげな顔つきは、どことなくミーシャを彷彿とさせる。

 ただ、私と後ろのエステルさんを見るその目付きは険しい。

 そして何より特徴的なのは、綺麗な黒髪とその上に生えている猫耳。

 もうこれミーシャのお父さんで確定でいいよね。


 ミーシャのお父さん――確か名前はディーツさんだったか――は腰を落とし、茶色いローブから伸びた腕に携えた剣を構える。


 ちょっ、ちょっと待って!

 私は敵じゃないから、落ち着いて話し合おう!


 私が身体の前で両手を振るとディーツさんは一瞬だけ眉を顰めるが、すぐに鋭い目付きに戻る。

 うん、通じてないね!


 ディーツさんが一歩を踏み出し、数メートルあった距離を一瞬で詰めてくる。

 早い!

 けど反応できないスピードじゃない!


 ディーツさんが右下段から振り上げようとした剣を防ぐように蔓を動かし……瞬間ぞくりと言い知れない寒気がして、私は咄嗟に地面を蹴った。

 剣をかわしながらバックステップした私の()()に、鋭い痛みが走る。

 ぐうっ……!


 十分に距離を取った場所へ着地した後、右肩を見ると、刃物で切られたような傷が薄く浮かんでおり、血が滲んでいた。

 幸い傷は深くないけど……気にするべきはそこじゃない。

 問題は、左下から来る剣を避けたはずなのに、なんで右肩が切られたのかだ。


 まあ、何となく答えは推測できているけどね。

 さっきまでディーツさんは魔法を使って姿を隠して壁際に潜んでいた。

 それを私やエステルさんは隠蔽の魔法だと勝手に思い込んでいた。


 けど今は、見えていたはずの剣を避けたのに、見えない剣に切られた。

 つまり、ディーツさんの魔法は、隠蔽ではなく()()――真実とは違うものを見せる魔法なんだと思う。


 私はそこまで推察して、しかし一つの問題に行き当たる。

 で、幻影魔法ってどう対処すればいいのよ?


 さっきは直感で避けることができたけど、そんなまぐれが何度も起きるとは思わない。

 うーん、『魔法剣士』の二つ名は伊達じゃない、か。


 私は対処方法を考え巡らせるが、相手はAランク冒険者。

 その隙を悠長に待ってくれるはずもなく、ディーツさんは動いた。


 あー、もう、仕方がない!

 私は両手を横へ伸ばすと、自分を囲うようにウォーターケージを作りあげる。

 目前まで迫ってきたディーツさんは驚いたように目を見開くと片足でブレーキをかける。

 どう、これで攻撃できないでしょ?

 まあ、私からも何もできなくなるんだけどね!


 ディーツさんはすぐさまバックステップで距離を取った後、口を開いた。


「魔物が魔法を使っただと……? まさか……魔神か……?」


 そう言ったディーツさんは、剣を握る手に力を込め、視線をより一層険しくする。

 ……あ、やってしまったかも。


 私は否定するように首を横に振ってみるが、ディーツさんが気にする様子は見られない。

 え、もしかしてこれ、より敵視されちゃっただけ?

 いや、時間稼ぎにはなっているはず!


 そう考えた矢先、ディーツさんが再び地面を蹴った。

 そのスピードは先ほどまでよりも段違いに早く、一瞬で間合いを詰められる。

 世界がスローで動く中、ディーツさんが振り上げた剣に熱が集まっていくのを感じる。


 ――あ、これ、魔力だ。

 そんな場違いなことを思った瞬間、振り下ろされた剣とウォーターケージの間に爆発が生じた。


 熱風が吹き荒れ、暗闇が真っ赤に染まる。

 爆風で水の檻は吹き飛び、私の身体も宙へ投げ出される。


 視界がチカチカと白く光った後、意識が暗転し――。

 背中から地面へ叩きつけられた衝撃ですぐに呼び戻された。


 うぐ……げほっ……!

 地面に衝突したり転がったりした反動で肺から空気が漏れ、酸素を求めて息を吸い込むと熱せられた空気でむせてしまう。

 ゆっくりと少しずつ空気を吸い、どうにか呼吸ができるまで落ち着かせた。


 今の、剣が爆発した……?

 いや、爆発の直前、剣に魔力が集まる感覚があったし、魔道具だったのか。

 私は地面に腕をつけたまま上体を起こすと、ふらつく視界で周囲を見渡す。


 爆発の衝撃で魔石は落としてしまったらしく、目の前に広がる煙が地面からうっすらと照らされている。

 煙でよく見えないけど、ディーツさんやエステルさんは無事なの?

 ……まあ、さすがに自爆の特攻なんてしないか。

 あと、なんとなくだけど、エステルさんは涼しい顔していそうな気がする。


 私が痛む身体にムチ打って、伸ばしたままの蔓を支えにして立ち上がった、そのとき――。

 煙の奥から、剣を振りかぶったディーツさんが躍り出てきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ