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百十六話 VSエコーバット

 エステルさんが吸血鬼だと聞いて納得したところで、私は当初の話を思い出す。

 そうだった、魔力探知の範囲について聞いてたんだった。

 えっと……エステルさんが非常識だということは分かったけど、他の人に比べてはどうなんだろう?

 もし私の実力不足というなら頑張れば良いだけだけど、これが平均というなら色々と考え直さないといけない。


 そう考えてエステルさんを見ると、エステルさんは私たちが進もうとしていた遺跡の奥、暗闇の方をじっと見つめていた。

 その口元には薄く笑みが浮かべられ――。


「お主よ、朗報だぞ。どうやら向こうからやってきてくれるらしい」


 エステルさんの言葉に私は慌てて目を閉じて魔力探知を行う。

 魔力が多いと自称するエステルさんに比べると微かだけど、探知できるぎりぎりの範囲から小さな魔力が近づいてきていることが分かる。

 魔力の数は全部で十以上……地面の近くじゃなくて、私の目線よりも高いところにいる。

 ってことは、もしかしてまたエコーバット?


 私はミーシャやリルカと一緒にエコーバットと戦った時のことを思い出す。

 遺跡が崩れる可能性があるため強力な魔法は使えず、また視界の悪さから蔓で狙いを定めることもできなかった私は、Eランク程度の魔物であるはずのエコーバットに苦戦していた。

 魔物の強さ(ランク)は被害の大きさによると聞いたことはあるけど、この真っ暗な遺跡と音を頼りにするエコーバットのように相乗効果で強くなる魔物もいるんだと思い知らされた。


 でも、今の私はあの時とは違う。

 常時発動しているウォーターケージを盾代わりに使っているおかげで不意打ちに強くなったし、何より魔力探知のおかげでエコーバットの居場所が手に取るように分かる。

 魔力探知の欠点が集中しないといけないことだけど――私には使い慣れた蔓がある!


 私は魔力探知を続けたまま棘の蔓を四本全て伸ばす。

 転生して以来ずっと使ってきた蔓は、アルラウネという魔物がもともと持っていた力なのか、すでに意識するまでもなく手足のように動かせる。

 魔力探知で集中しながらでもこの蔓を動かすくらいなら問題なさそうだね。


「ほう、面白い……!」


 隣で興味ありげな声をあげたエステルさんは、しかしエコーバットの群れから遠ざかるように数歩下がる。

 あれ、一緒に戦ってくれるわけじゃないんだ?


「ちょうど良い。お主が魔力探知をどれだけ使えるようになったか、試験してみようではないか」


 ああ、テストするのね。

 と、納得した直後、エコーバットの群れから魔力が一個飛び出してくるのを察知する。


 私は前の蔓一本を動かし、魔力が移動する軌道に合わせて左斜め上から叩き落とすように振り降ろす。

 蔓に何かが当たる感触と、キィ! というかん高い声が響く。

 その後魔力の塊は右前方へ飛んでいき、何か――恐らく地面か柱――にぶつかるような音を立てると、魔力が霧散するようにふっと消えた。


 魔力がなくなった……ってことはつまり死んだってことかな?

 などと考える暇もなく、残りのエコーバットの群れが近づいてくる。

 うん、とりあえず考えるのは後回しだ!


 私は隣で待機させていたウォーターケージを左前方に移動させる。

 エコーバットたちは水の檻を迂回するように、私から見て右へと集まっていく。

 想定通り、これで軌道が読み易くなる!


 右から次々と来るエコーバットたちを、私は蔓を動かし順に打ち落としていく。

 以前は姿が見えてから慌てて蔓を振っていたからか見切られてしまっていたけど、今は魔力探知で事前に位置が分かるため全力で攻撃ができる。

 こうなるとあとはもう単純作業だね。


 ――なんて慢心を抱いたのが悪かったのか。

 残りの魔力が二つまで減ったとき、集中力が切れて魔力探知が消えてしまった。


 ちょっ……いや、まだだ!

 内心冷や汗をかきながらも、直前まで探知していた軌道に合わせて私は蔓を二本振り降ろした。

 一本はエコーバットを捉える感触が伝わるが、もう一本には何の感触もない。


 私が急いで目を開けると、すぐ真横を素通りしていくエコーバットの姿を捉える。

 エコーバットはそのまま後方へと飛んでいき――エステルさんに迫る直前で突然()()()()()()()()


 え……ええっ!?


「全く、最後の最後で油断したようだの。筋は良いのにもったいない。まあ『魔神』らしいといえばらしいが」


 微笑を浮かべたエステルさんに『魔神』と言われるが、それどころじゃない。

 正直、今何が起きたのか全く理解できなかった。

 石造りの無骨な床には、胴で上下が綺麗に分かれたエコーバットの死体が落ちている。

 ……この世界に来て多少慣れたとはいえ血とかが色々とあれなのですぐに目を背けるが。


 そんな私の様子に気付いたのか、エステルさんが首を捻る。


「どうした? そんな面食らったような顔をして?」


 エコーバットが飛んできたことを意に介した様子もないエステルさんに、私は改めて疑問を抱いてしまう。

 エステルさん……本当に一体何者なの?

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