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十二話 悲鳴

 左腕に太めの木の枝を添えて、手頃な蔓で固定する。

 同じく蔓を切って輪っかにすると、首から左腕を吊るす。

 簡易の応急処置のできあがりだ。


 黒角イノシンの巣から移動して数日。

 森を移動していると、折れた左腕が邪魔になってきた。

 動く度にブラブラと勝手に揺れるから、気が散って仕方がない。

 だから、手頃な蔓を見つけたタイミングで処置してみた。

 うん。

 我ながらいい出来だ。

 葉っぱのブラといい、私にはこの手の才能があるのかもしれない。

 人の住む場所に着いたら、お店を開くのもいいかも。

 そこでのんびりと暮らしたいね。


 まあ、そのためにはまずこの森を出ないといけない。

 目の前に広がる鬱蒼とした森を見つめる。

 はあ。

 思わずため息が出そうになる。

 一体いつまで続くのやら……。


 たまに休憩を挟みながら森を進む。

 何度かヘビや角イノシン、他にも巨大な蜘蛛のモンスターに遭遇したが、上手くやりすごしたり追い払ったりすることができている。

 木の上に避難して毒花粉を飛ばすだけでいいのだ。

 花の蔓さまさまだ。


 ちなみに、蜘蛛は私よりも一回り小さく、一メートルくらいの大きさだった。

 ただ、一メートルの蜘蛛を想像してみてほしい。

 そのあまりの気持ち悪さに全力で毒花粉を撒き散らし、怯んだ隙に全速力で逃げた。

 多分、生まれ変わってから一番必死になった瞬間だったと思う。


 花の蔓に感謝しながら移動していると、遠くから何か聞こえた気がして立ち止まる。

 周囲を見渡すが何もいない。

 耳をすませてみても、風で葉っぱの擦れ合う音しか聞こえない。

 うーん。

 勘違いかな?


 ここ最近モンスターとの遭遇が続いて、神経質になっているのかもしれない。

 木々の隙間から空を見上げる。

 昼過ぎて時間が経ったものの、まだ日は高い。

 けど、たまにはゆっくり休むとしようかな。

 そう思い、足代わりの蔓の一本を近くの木に伸ばす。


「だ、誰か……助けて……!」


 勘違いじゃない。

 今度ははっきりと聞こえた。

 人の声だ!


 木に伸ばした蔓を慌てて戻して、声がした方へ向かう。

 少し移動すると開けた場所に出た。

 そこには、地面に尻餅を付いた女の子と、今にも襲いかかろうと大口を開けたヘビがいた。


 私はとっさに花の蔓を伸ばし、蕾を開かずにそのままヘビの頭へと降り下ろす。

 ゴッという音とともにヘビは地面へと叩き付けられた。

 打ち所が悪かったのか、ヘビはそのまま動かなくなった。


 おおう。

 毒花粉が女の子にも飛んだら危ないと思って、とっさに蕾を鈍器代わりにしてみたけど。

 思ったよりも威力があるね。

 注意をそらすことが目的だったのに。

 まさか一撃で倒すとは思わなかった。


 蔓のことはさておき、女の子へと向き直る。

 女の子は唖然とした様子で死んだヘビを見つめていたが、その後私を見る。

 ひっと息を飲んだのが分かる。


 あー。

 まあ、うん。

 私もモンスターだからね。

 しかも蔓を生やして歩いてるからね。

 そりゃ恐いよね。


 ひとまずヘビに降り下ろしたままの花の蔓を引っ込める。

 ついでに棘の蔓も引っ込めて地面へと降りる。

 こうすれば、下半身の花以外は普通の女の子とほとんど同じだ。


「……は、花? た、助けて……くれたの?」


 女の子は怯えながらも話しかけてくる。

 何か答えようかと口を開いたところで、声が出ないのを思い出す。

 どうしよう。

 口をむなしくパクパクさせる。

 うん。

 これ、詰んでない?

 コミュニケーション取れないよね?


 女の子のほうも何かを感じ取ったのか。

 不思議そうな顔をして首を傾げる。

 頭の上の耳が揺れる。

 ……ん?

 耳?


 黒髪の上に、猫耳が生えていた。

 それだけじゃない。

 よく見ると、地面にペタンとついたスカートの中からは、耳と同じく黒色のしっぽが伸びている。


 こ、これは……まさか猫耳!?

 か、かわいいっ!

 って、違う違う!

 そうじゃない。

 落ち着けー。


 一度目を閉じてゆっくりと深呼吸する。

 スーハー。

 うん。

 よし、落ち着いてきた。

 目を開けると、猫耳っ子は首を傾げたまま口をポカンと開けていた。

 色々なことが起こりすぎて脳の処理が追いついていないのだろうか。

 ……今なら近づいても大丈夫かな?


 根っこを動かして猫耳っ子に近づいてみる。

 再びひっと小さく悲鳴をあげて、少し後ずさる。

 あらら。

 まだダメみたいだ。

 というかこれ、普通に傷つくわ。


 うーん。

 何とかして、私は怖くないよって伝えたい。

 パッと思いつくのは、ジェスチャー?

 でも、下手に動くとまた驚かせちゃうよね。


 とりあえず、目で訴えてかけてみる。

 私喋れないんだよー。

 怖くないよー。

 察してー。


「も、もしかして、喋れないの?」


 おずおずと話しかけてくる猫耳っ子。

 お、おお!

 本当に通じたよ!

 大きく頷いておく。

 猫耳っ子は何かをじっと考えた後、意を決したように尋ねてくる。


「わ、わたしを食べたり、しないの?」


 ……えっ?

 何?

 私、人食べるような凶悪なモンスターに見えるの?

 パッと見だと、下半身が花になってるだけの女の子だよね?


 もちろん首を横に振る。

 そんなことはしない。

 人なんて食べたくない。


 私の返事を見て安心したのか、ほっとした表情を浮かべる。

 そして、猫耳っ子のお腹がくぅと可愛らしく鳴った。

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