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百十二話 邂逅

 手元の明かりだけを頼りに、私は暗闇の道を進む。

 道はたまにカーブしたり曲がったりしているが、分かれることなくずっと一本道が続いている。

 実はこの道、さっきまでいた瓦礫の山の左側に繋がっているだけなんじゃないの……?

 とついつい疑心暗鬼になってしまうが、そのときはそのときで考えるしかない。


 罠や魔物を警戒しながら幾度目かの角を慎重に曲がると、少し先が開けた空間になっていることに気付いた。

 上に繋がる道があるかも?

 そんな期待を込めて通ってきた通路から一歩踏み出した――その瞬間。


 ぞくり、と全身に言い知れぬ悪寒が走った。


 私は咄嗟にウォーターケージを盾にしながらバックステップで通路へと戻り、臨戦体勢に入る。

 そのままの体勢でしばらく警戒していたが、何かが現れるわけでも襲ってくるわけでもない。

 ……あ、あれ?

 もしかして気のせいだった?

 私は疑念を抱きながらも再度そっと開けた空間を覗き込む。


 明かりが届かないため分からないけど、少なくとも四、五メートル以上の広さがあることは確かみたいだ。

 通路から続く壁が舗装されていることから、この場所も遺跡の一部なんだと分かる。

 ただし見える範囲に上の階のような柱は立っていない。


 辺りを見渡してみるが、先ほどの悪寒の原因は見当たらない。

 ……こんな暗い遺跡を一人で彷徨っていたら神経質にもなるか。

 そう考え直して、ただ警戒だけは緩めずに広場へと乗り込んだ。


 どれくらいの広さがあるか分からないけど、まずは壁伝いに歩いてみるかな。

 私は右手が壁につくかつかないかのところを歩き出す。


 十メートルもいかないところで壁は左へ直角に曲がっていた。

 曲がって二十メートルほど歩くと再び左へ、それをあと二回ほど繰り返して最後に十メートルほど歩くと、壁の切れ目が見えた。

 ――って、これ、さっき入ってきた通路じゃん。


 つまり、この空間は二十メートル四方の壁に囲まれた空間で、出入り口はこの通路しかない、ということになる。

 要するに行き止まり……いや、まだ中央付近を見ていないか。

 私は落としかけた肩をなんとか留め、広場の中央に続く暗闇へと魔石の明かりを向ける。


 何か手がかりだけでもあればいいんだけどな……。

 そう思いながら歩みを進めていくと、暗がりの向こうに巨大な陰が見えてきた。

 しかも、幅五メートルほどの岩の柱の中心には階段が……!


 と、そこでようやく、階段の中頃に誰かが座っていることに気付いた。


「ようやく来たか。さっきから周りをウロウロと……」


 透き通るような声でそう口にしたその女性は、階段から立ち上がると、カツ、カツと足音を鳴らしながら魔石の明かりが届く距離まで降りてくる。

 その動作にあわせて白と黒のゴシックドレスと、腰まで伸びた銀色の髪が揺れる。

 女の私でも見惚れてしまうような妖艶な笑みを湛えつつも、その深紅の瞳はしっかりと私を捉えて放さない。


 もしかして、ミーシャのお母さん?

 いや、耳もしっぽ……はドレスに隠れて見えないか、とにかく獣人ではない。

 というより、魔物としての本能が警鐘を鳴らしている。

 ()()()()()()()()()()、と。


 女性は残りの数段をピョンと飛び降りると、私の近くまで歩いてきた。

 うわ、何この綺麗な人……。

 私は警戒も忘れて思わず見入ってしまう。


「……熱心に見ても何も出ないぞ?」


 あっ……!

 ご、ごめんなさい!

 女性の言葉に、はっとして私は頭を下げた。


 というか、この人誰だろう?

 見たところ二十歳前後の綺麗なお姉さんだけど、かなりの実力者だと直感が告げている。

 もしかして私たち以外に調査に来ている冒険者かな?

 チラリとドレスの襟元に視線を向けるが、冒険者証は見当たらない。

 まあ、ギルドへ行くときや依頼人と会うとき以外は身に付ける必要はないし、冒険者であることを隠したがる人もいるらしいから、よく分からないね。


「そう警戒するな。(わらわ)は敵ではない」


 女性は私の隣に浮いているウォーターケージを見ると、苦笑する。


「お主に興味があって待っていただけだ。少し珍しい魔力を持っているようだからな。そう、例えば『魔神』のような……な」


 『魔神』という単語が出た瞬間、私は反射的に後退りしそうになってしまうが、懸命に堪える。

 なんでこの人、私が魔物だって……!?

 いや、まだ「魔神の()()()」としか言っていない。

 ここで反応したら逆に認めているのと同じだ。


 私は素知らぬ顔をして首を傾げる。


「……まあ良い。それよりお主、もしかして声が出ないのか?」


 女性の興味が私の声に移ったらしい。

 今だけは話せないことに心の中で感謝しながら、私は頷いた。


「ふむ……それは面倒だの。とはいえ妾はその類の魔法は使えないからな。我慢するしかないか」


 残念ながら、ちょうど黒板が壊れちゃったからね。

 というか、その類って、どの類だよ。

 などと内心つっこみを入れながら、この女性の変なペースに乗せられていることに気付いた。

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