表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/164

百九話 複雑なお年頃

 さてと、対処方法を考えるといっても、思い付く戦い方は三通りしかない。

 私はランタンの明かりで照らされた遺跡を慎重に進みながら考える。


 一つ目は、光源を確保すること。

 リルカの火の魔法や、このランタンの魔石のような明かりを付ける魔法を使って見えるようになれば、もっと余裕を持って戦えるはず。

 ……なんだけど、これは無理だったんだよね。


 王都にいたときに、いくつか初級魔法を教えて貰いつつ練習してみたけど、結局使えたのは水の魔法だけだった。

 魔法はイメージじゃなかったの? とつっこみたくなるが、得意不得意はあるし仕方がない。


 二つ目、範囲の広い攻撃をすること。

 例えばウォーターレインの弾数をもっと増やして、魔物が来そうな場所へ隙間なく撃ち込めばいい。

 要は数撃ちゃ当たる作戦だけど……まあこれも却下だ。


 私一人ならやっただろうけど、ただでさえ見えないのに攻撃乱発とか、ミーシャやリルカに当たるからね。

 あと、遺跡の強度も心配だ。

 万が一にも崩れたら洒落にならないし。


 そして最後、目以外を頼りに戦う。

 見るんじゃない、感じるんだ! とまではいかないけど、エコーバットだったら声や羽ばたき音、空気の揺れなど、視覚以外でも位置を掴むことができそうな気もする。

 実際ミーシャはエコーバットの位置が音である程度分かるらしい。

 ちなみに夜目も効くらしく、遺跡に入ってからは誰よりも早く魔物を見つけている。


 これなら得意不得意はないし、周りにも影響はない。

 うん、これしかないよね!

 ――って、できるわけあるかー!


「お花さん、どうしたの?」

「……情緒不安定?」


 私が突然立ち止まって頭を抱えたことに驚いたように、後ろの二人が声をかけてきた。

 ごめんごめん、ちょっと考えごとしていただけだよ。

 私は二人を振り返ると、何でもないよと言うように首を横に振った。


「……とても気になる」

「そうだよ! ちょっと前から一人で頷いたり首を振ったり、変なの」

「エコーバットとの戦闘以来……?」

「それくらい前からなの!」


 あー、うん。

 さすがにバレてるか。

 私は観念すると、ランタンを蔓に持ち変えてアイテムバッグから黒板を取り出す。

 そして悩んでいた理由を簡単に伝えた。


「……なるほど。それなら簡単な方法がある」


 黒板を読んでしばらくとんがり帽子の鍔を押さえて考えていたリルカが、顔を上げた。

 おお、さすがリルカ!

 私はミーシャと揃って期待の眼差しを向ける。


「アルネがミーシャを背負う。ミーシャはアルネに魔物の位置を逐一教える」


 私とミーシャへ交互に顔を向けながら、リルカがそう言い放った。

 ……暗いせいでいつもよりも表情が読み辛いんだけど、とりあえず冗談で言っているわけではなさそうだね。

 私は思わずつっこみを入れそうになったのをぐっと堪え、一度目を閉じて冷静に考えてみる。


 ミーシャを背負っても戦闘の妨げにならないのは、森での経験で分かる。

 また、魔物への対処が早くなるから危険度も下がるし、私もむやみに攻撃をして味方に当てるなんてこともない。

 ……あれ、意外とありな気がしてきた。


 私は目を開けると、ポカンと口を開けたミーシャに顔を向ける。

 ミーシャのつぶらな瞳と視線が交わる。


「……えっと、ほんとにやるの……?」


 まあ、一度試してみる価値はあるんじゃないかな。

 私が首を縦に振ると、ミーシャは渋々といった様子で「分かったの」と頷いた。

 というか、いつも抱きついてくるミーシャだけど、おんぶは抵抗あるんだね。


 私は黒板をアイテムバッグへ片付けると、さっそくミーシャに背を向けてしゃがんだ。

 ミーシャは恥ずかしいのか「ううー」と小さく声を漏らしながらも背中に乗り首に腕を回してきた。

 落ちないように花の蔓を私ごと巻き付ければ準備完了だ。


「……先に進もう」

「うん……」


 背中でミーシャが頷くのを感じつつ、私はランタンを蔓から受け取って少し先を照らした。

 二メートルほど先にうっすらと柱の陰が見える。

 あの変な模様の彫られた柱、入り口からずっと等間隔で並んでいるんだけど、何か違和感があるんだよね。


 私が柱をジッと見つめていたことに気付いたのか、リルカも柱へ目を向ける。


「……ボクもずっと気になっていた。入り口からここまでずっと壁もなく柱だけが続いている」


 ――ああ、なるほどね。

 私はリルカの言葉で違和感の正体に納得する。

 つまり、この空間が広すぎるんだ。

 入り口からかれこれ一時間以上真っ直ぐに歩いているはずたけど、一向に突き当たりが見えないくらいに。


 そういえば、真っ直ぐ進んでいるように思えて実は同じ場所をグルグルと回っていただけ、というオチの小説の知識がある。

 ……まさかね?


 私が嫌な想像に冷や汗をかいていると、リルカが柱の隣に立ち、周囲に浮かべた『燐火』の一つをゆっくりと前へ移動させる。

 火の玉は数メートルほど進んだところで別の柱の脇を通り過ぎる。

 そのまま進めると、さらに別の柱から少し距離を開けた場所を通り過ぎた。

 えっと……これ、もしかして……。


「……真っ直ぐ進んでいない」


 そう小さく呟いたリルカは、「迷っている」と付け足した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ