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百二話 魔力量

 グラスウルフの死体を処理した私たちは、止まったついでに一度休憩を挟むことにした。

 近くの木に繋いだ馬に水をあげ、アイテムバッグから魔石の入った簡易コンロと鍋を取り出してお湯を沸かし始める。


 お湯が沸くまで暇になった私は、その場を二人に任せて少し離れた場所へ移動すると、再度魔法を使ってみることにする。


 両腕を前に伸ばし、今度は魔素の量に気をつけながら慎重にウォーターレインを作り出す。

 できあがった水の玉は、やっぱり前よりも一回り大きくなっていた。

 試しにウォーターボールやカッターも作ってみるが、見事に全て前よりも大きさや威力などがあがっていた。


 ふと、前にも似たような現象を体験したことがあることを思い出す。

 初めてミノタウロスを倒したとき、それと黒角イノシシを倒したときだ。

 今回もスタンピードの際にワイバーンを倒しているから、それが関係しているのかな……?


 まあ何にしても、意識すれば前と同じ大きさで作れるから問題はないんだけどね。


「お花さん、お茶入ったよ?」


 そう納得したのとほぼ同時に後ろから声がかかる。

 振り返るといつの間にか近づいてきていたミーシャが木製のマグカップを差し出してきていた。

 ん、ありがとね。

 私はマグカップを受け取ると、ミーシャとともにリルカのところまで戻る。


 御者台の縁に腰かけてチビチビとマグカップに口をつけていたリルカが、私たちに気づいて顔をあげた。


「おかえり。……魔法の調子はどう?」


 やっぱり変わってたよと首を横に振りながら、私は近くの手頃な岩に腰を下ろした。

 イメージと現実が一致しない……というかイメージしたよりも高威力の魔法ができあがってしまう。

 あー、そういう意味ではむしろ調子が良いとも言えるね。


 黒板を取り出してそう伝えると、リルカはとんがり帽子を右手で押さえて何かを考えるように空を見上げた。


 私も釣られて顔を上げる。

 点々と流れる雲が照りつける太陽をほどよく隠し、心地よい風が吹いては草花を揺らしてサラサラと音を奏でる。

 ガタンッと音がしたので視線を戻すと、リルカが御者台から飛び降りたところだった。


「……ボクも気になる。一度やってみて」


 そう言ってリルカは先ほどまで私がいた場所を指差した。

 確かに、魔法に詳しいリルカなら何か分かるかも?

 そんな期待を胸に頷くと、私はマグカップに残ったお茶を一気に飲み干し立ち上がった。


「また魔法の練習するの?」

「……この先もアルネの魔法は必要だから。ミーシャは見張りをお願い」

「分かったの、任せて!」


 元気に頷くミーシャに見張りを任せると、私とリルカは連れ立って歩く。

 馬車から十メートルほど離れたところで私は立ち止まる。


 私はリルカが少し後方で止まったのを確認すると、さっきまで(まと)にしていた岩に向かって右腕を伸ばす。

 魔法は……ウォーターボールでいいか。

 いつもと同じ感覚で魔法を使うと、やっぱり二回りほど大きな水の玉が作られた。

 私は水の玉を岩に向かって放った後、リルカを振り返る。


「……前に見た時より魔力が多く練られてた。今のもいつも通りの感覚だった?」


 うん、普通に使っただけだね。

 首を縦に振るとリルカは帽子の鍔を掴んで考え始める。


「そうなると無意識のうちに魔力を……? それとも感覚のほう……?」


 しばらくの間ブツブツと呟いていたリルカは、考えがまとまったのか帽子から手を離して顔を上げた。


「……仮説がある」


 ◇◇


 ミーシャが見張りを続ける馬車まで戻ると、リルカは口を開いた。


「……アルネ本人が自覚していないのに魔力を多く練っていた。これから考えられる要因は二つ」


 リルカは右手を持ち上げると人指し指と中指の二本を立てた。


「魔力の許容量が大きくなったこと。そして魔力に対する感覚が大きくなったこと。……この二つだとボクは思う」

「きょようりょう?」

「……つまりアルネが一度に扱える魔力の量が増えたということ」

「えっと……。それって凄いの?」

「魔力が増えるとそれだけ魔法も強くなる」


 リルカの言葉にミーシャは「わっ、凄いの!」とキラキラした目を私に向けた。

 賛美してくれるのは嬉しいけど、私自身にはあんまり実感ないんだよね。


 それよりも、もう一つの「感覚が大きくなった」っていう方が気になる。

 それって要するに、今までの私にとっての『五』が、今の私にとっては『三』だと思えるようになったってことだよね?

 今までと同じように魔法を使っているとまた暴発するんじゃ……あっ、そういうことか!


 納得したのが表情に出ていたのか、リルカは私の顔を見ると頷いた。

 そして私の足元を指し、


「……感覚が大きくなって許容量も大きくなった。つまり今のアルネは噂に聞くそのブーツを使いこなせるということ」


 ――そう言った。


 スタンピードの時は集めすぎた魔素と魔力に身体が耐えきれなかったけど、今はその心配もないのか!

 私が心を踊らせて一度試そうと腰を浮かせたが、リルカが待ったをかける。

 え、まだ何かあるの?


「……始めに言ったとおり今のはあくまで仮説。試すのは危険」


 リルカの注意とミーシャのジッと見つめる視線に、私は上げた腰を再び下ろした。

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