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百一話 旅は暇だ

 小さい帆付きの馬車に揺られて、私たちは草原を進んでいた。


 辺りには一面に背の低い草花が繁っており、所々に土が露出している箇所や木や岩がある。

 草原には轍の跡が南から北へずっと続き、南――つまり後方を振り返ると小さくなった王都の城壁がわずかに見えた。

 当たり前だけど北のギデル山脈はまだまだ見えてこない。


 王都を出てから数時間、私は暇をもて余していた。


 馬車の旅も二度目ということで新鮮味もかなり薄れている。

 事実、ミーシャも()()()()馬車には興味を持っていたが、馬車そのものには特に感想はなかった。

 そんなミーシャは私の膝を枕にしてすやすやと寝息を立てていた。


 うーん、寝る子は育つというけれど、あまり寝すぎるのも良くないんだけどなあ。

 そう思いつつも起こしたところで特に何もないので、起こすのも忍びない。

 結局私は膝の上にあるミーシャの黒髪を撫でるだけに収める。


 前世の旅行なら、こういうときはみんなでトランプとかオセロとかするのかな?

 未だほとんどの記憶を思い出せない――正直半分諦めかけている――が、知識としてならしっかり思い浮かべられる。


 オセロみたいなボードゲームは揺れる馬車の上では使えたものじゃないから却下だけど、トランプならありかな。

 ババ抜きやポーカーであれば手に持っているから揺れても大丈夫だし。

 そういえばトランプみたいなカードで遊んでいるのを、以前どこかの宿屋の食堂で見たことがあるかも……。

 ……ちょっと聞いてみるか。


 私はミーシャを起こさないようにそっと膝からクッションへ置き換える。

 そして御者台で手綱を握るリルカの左側の空きスペースへと身体を滑らせて移った。


 ちなみに御者に関しては、王都にいる間にやり方を一通り教わっているため、数時間おきで交代することにしている。

 まあ、この世界では街で鳴らされる鐘以外は正確な時間の概念があまり浸透していないので、おおよそだけど。


 リルカは突然現れた私に一瞬驚いた表情をするが、すぐに眉をひそめた。


「……まだ交代には早いと思う。もしかして魔物でも出た?」


 リルカが後ろを覗こうとするので、慌てて首を横に振る。

 魔物が出たら声を上げ……はできないか、ミーシャに伝えてもらうよ。

 そうじゃないから安心して。


 リルカが「そう」と言って腰をおろすのを確認した私は、アイテムバッグから黒板とチョークを取り出すと、揺れる中でどうにか文字を書く。


『カード 遊び 知ってる?』


 黒板を見せるとチラリと目線だけ向けたリルカは、


「……ボクはそういうものに疎くて」


 と言ってすぐに目線を戻した。

 そっか、じゃあ仕方がないね。

 一度街を通るし、そこで探してみるとするかな。


 私はお礼代わりに軽く頭を下げると、黒板をアイテムバッグに片付ける。

 そして荷台へ戻ろうと立ち上がったときだった。


「アルネ。前方の左側から魔物が来てる」


 ……うん?

 リルカの呼び掛けに左側に目を向けると、草原の彼方に見飽きた灰色の魔物を見つけた。

 あー、またグラスウルフか。

 ほんと草原ならどこにでもいるな、あの狼たち。


「……一度止まる?」


 私は首を横に振る。

 ここから魔法で倒すから、その後近くで止まればいいよ。

 リルカは「分かった」と頷いてそのまま馬を走らせ続ける。


 ――スタンピードの際、私はエリューさんから貰ったブーツの魔道具を用いて無理矢理大量の魔素を集めて魔法を使った。

 その代償として、身体中の至るところの筋肉や皮膚が裂けた――もちろん身体の内側を含めて、だ。

 今は長い休養とミーシャの回復魔法のおかげで完治しているが、その間魔法の使用禁止を言及されていた。

 つまり、私が魔法を使うのは、あのスタンピードの一件以来ということになる。


 で、何が言いたいのかというと……久しぶりに魔法が使えるってわけだよ!


 私は蔓を伸ばして身体を馬車に固定すると、両腕を前へ伸ばす。

 目を瞑って軽く深呼吸をし、周囲に漂う魔素を感じ取る。

 うん、感覚も前の通り、大丈夫そうだね!

 むしろ久しぶりだからか前よりもはっきりと魔素を感じ取れるくらいだ……!


 私は目を開いて近づいてきたグラスウルフたちの姿を捉える。

 全部で五体か……なら!

 魔素を集め、魔力に変換し、魔法を構築する。

 使う魔法は対集団用のウォーターレイン。

 グラスウルフたちへ向けた手のひらの前に、瞬く間に水の玉ができあがっていく。


 ……って、あれ?

 え、なんか水の玉、大きくない?


 できあがったウォーターレインを見て、私は困惑する。

 前はピンポン玉程度の大きさだったのが、今はこぶし大の大きさになっている。

 大きさは小さ目に作っているはずなんだけど、なんで?

 ブーツは使ってないし、魔力の量も前と同じだと思うんだけど?


「……大丈夫? どうかした?」


 いつまで経っても魔法を打ち出さない私を心配したのか、リルカが声をかけてくる。

 そうだった、今はそれどころじゃないか!


 私は頭を振ってとりあえず雑念を追い出すと、迫ってくるグラスウルフたちに向かってウォーターレインを打ち出した!

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