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百話 決意を胸に

 指名依頼の受け付けを済ませた私たちは、依頼の詳細を聞いたうえで出発日時を明後日の朝に決めた。


 ちなみにギデル山脈方面への護衛依頼はなかったが、代わりにギルドが格安で馬と馬車を貸してくれることになった。

 まあ、他人の視線を気にする私たちにはちょうどいいのかもしれないね。


 そして翌朝からは遠出の準備のため、保存食や衣類の買い出しに出掛けた。

 スタンピードの報酬のおかげで、手持ちのお金は潤沢にあるのが幸いだ。


 衣類に関しては、受け付けのお姉さんのアドバイスで厚手の服かコートを買っておくことになった。

 王都は夏が近くなってきたのか最近徐々に暑くなってきたが、ギデル山脈は夏でもうっすらと雪が残るという話だ。

 さすがにノースリーブのブラウスだけじゃ肌寒いだろう。


 ミーシャも寒いのは苦手のようで、厚手の服を何枚かとコートを買っておいた。

 私は動きやすいように、それと蔓が使いやすいように、防寒用のコートだけを購入した。


 ちなみにお店は以前リルカに案内された、テンション高めのお姉さんがいる洋服屋だ。お姉さんは絡み辛いけど、品揃えも豊富だし何だかんだいい店なんだよね。


 それから家に戻ると、傷みやすい食料をアイテムバッグへ移したり、手分けして家中を掃除したりした。

 ギデル山脈へは片道四日ほどと聞いているから、往復で早くても十日以上はかかる。

 その間はずっと留守にするんだし、できることはやっておかないとね。


 掃除の後は順番にお風呂に入って掃除の汚れを落とし、その後に夕食。

 片付けも終えて一息ついた頃には、外はすでに夜の帳が下りていた。


 うーん。

 まだちょっと早い気がするけど、明日は野宿でゆっくり寝られないんだし、早めに寝るとするかな。

 私はリビングのソファーでリルカと雑談中のミーシャを手招きすると、二階の自室を指差した。


「もう寝るの?」

「……確かに明日は早い。今日はもう寝たほうがいい」


 リルカの言葉に私は頷くと、ミーシャは「分かったの」とソファーから降りて近寄ってきた。


「おやすみなさい」

「……ん。おやすみ」


 私もリルカに手を振ると、ミーシャの手を取って自室へと向かった。


 ◇◇


 部屋に戻ってからミーシャをパジャマに着替えさせ、さて寝ようとベッドに腰掛けたときだった。

 部屋の扉がカチャリと開き、隙間からリルカがおずおずといった様子で顔を覗かせた。

 その手には枕が抱え込まれている。


「……アルネ。ミーシャ。今日はボクも一緒に寝ていい……?」


 ……うん?

 リルカがそんなことを言うなんて珍しいね。

 まあ、私たちが使っているダブルベッドは小柄な二人で使うには少し大きいし、詰めればリルカくらいは入れると思う。


 私は隣のミーシャに顔を向けると「みんなで一緒に寝るのっ!」と尻尾を振りながらはしゃいでいた。

 ミーシャも嬉しそうだし、もちろんいいよ。


 私が頷くとリルカは頬を緩めて「ありがとう」と言い、部屋に入ってきた。

 私はミーシャをベッドの真ん中に寝かせると、自分も横になって反対側を指差した。


「……おじゃまします」


 リルカがベッドへと潜り込むのを確認すると、私は枕元の棚にある魔石に触れて灯りを消した。

 その後しばらくミーシャとリルカの楽しそうな喋り声が聞こえてきたが、十分も経たないうちにすやすやと眠る音に変わった。


 さ、私も寝ようかな。

 そう思って目を閉じたとき、


「……アルネ。まだ起きてる?」


 ミーシャの向こうからリルカの小さな声が聞こえた。

 まだ起きてるよ、と返事をしようと思ったけど、そういえば返事する方法ないやと思い直す。

 動くとミーシャが起きちゃうかもしれないし、どうやって返事したものかな。


「……もう寝たね?」


 リルカは再度確認するように聞くと、私が寝ていると思ったのか、そのまま話を続け出した。


「……この前は迷惑かけてごめん。それと助けてくれてありがとう」


 この前って、スタンピードのときのことかな。

 確かに助けはしたけど、迷惑をかけられたなんて思ったことはない。

 むしろ、あのときリルカが必死でワイバーンを足止めしてくれなかったら、私も負けていたと今でも思う。

 それくらいギリギリの戦いだった。


 ただ、今起きてそれを伝えることは、リルカの本意じゃない気がする。

 だから私は寝たフリを続けることにした。


「ボクはもっともっと強くなるから。それだけ言いたかった。……おやすみ」


 本当にそれだけが言いたかったのか、数分後にはリルカの寝息も聞こえてきた。


 私は閉じかけていた目を開けると、スタンピードのことを思い起こした。

 エリューさんに貰った魔道具を使ってなんとか勝利したワイバーン。

 そして、それでも全く歯が立たなかったドラゴン――。


 今後も王都で暮らしていくには、あのスタンピードを何度も経験することになるだろう。

 そのたびに死に掛けたら、命がいくつあっても足りない。

 スタンピードを乗り越えるだけの地力が必要だね……。


 隣で幸せそうに眠るミーシャとリルカを横目で見る。

 これからも二人とのんびり過ごすためにも、私ももっと強くならないと……!


 私はそんな決意を胸に抱いて、目を閉じるのだった。

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