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九十九話 指名依頼

「騒ぎだてしてしまい申し訳ありません」


 息を落ち着かせた受け付けのお姉さんは少し頬を赤くして椅子に座り直す。

 そして机の上の紙束を脇へ追いやると新しい紙を取り出した。


「さて、クロエさんとディーツさんでしたら動向は把握しております。お二人は王都から北へ行ったところにあるギデル山脈、そこの遺跡調査に同行されております」


 おっ、さっそく手がかり!

 それにしてもまたギデル山脈か。

 確か、この前のスタンピード発生の原因とされている場所だよね。

 何か関係があるなんてことは……さすがにないかなー。


「……遺跡調査? その依頼は聞いたことない」

「ああ、それは指名依頼だからですね。何でも新しく発見された遺跡ということで、北の領主様が念を入れてAランクの夫妻に依頼を出したのです」

「指名依頼……。それは喋っても大丈夫なこと?」

「――あっ! えっと……し、親族の方なので問題ないです!」


 リルカの突っ込みにお姉さんはしまったという表情になるが、すぐに誤魔化すように作り笑いを浮かべた。

 うん、貴族の指名依頼の内容とか、言ったら確実に問題になるよね。

 まあ、誰にも言うつもりはないけどさ。


「そ、そうだ。夫妻が滞在している街にも冒険者ギルドがあるんです。話が通りやすいように、紹介状を書きますね」


 お姉さんは話題を変えるようにペンを手に取ると、新しく出した紙にサラサラと何かを書いていく。

 しばらく待っていると、書き終えたお姉さんは紙を折って封筒に入れ、それを手渡してきた。


「こちらをマテオンの冒険者ギルドにお渡しいただければ、事情は伝わると思います」


 マテオンというのがその街の名前かな。

 ミーシャは手紙を受け取ると、大事そうに肩がけのアイテムバッグへしまった。


「マテオンの場所はご存知ですか?」


 お姉さんがそう尋ねてくるので、私とミーシャは揃ってリルカへと顔を向けた。

 森から出てきたばかりという事情を知っているリルカは、そんな私たちの様子に苦笑するように頷く。


「……昔に行ったことがあるけど覚えていない。確か鉱山街?」

「はい、その通りです。マテオンは昔から鉄の採掘量が多く賑わっている街です。場所を知らないとなると……やはり相乗りの馬車で行くか、商人の護衛依頼で同行するのがお勧めですね」


 お姉さんは少し大きめの丸まった紙をカウンターへ載せると広げた。

 それは王都より北部の地図らしく、下部に王都、上部に山脈が描かれており、また王都と山脈の間にいくつもの線が引かれている。

 お姉さんはその線のうちの一本、王都と山脈の間の街や村をいくつも通るような曲がりくねった線を指でなぞる。


「いくつかルートがありますが、相乗り馬車はこちらの道を通る場合が多いですね。遠回りですが非常に安全で、野宿もほとんどありません」


 次に大きめの街を一つだけ通った、王都から山脈までほぼ真っ直ぐな道をなぞる。


「そして、もう一本よく使われるのがこちらのルートです。野宿は多くなりますが、山脈までほぼ最短で着くことができます。ただし、途中で魔物に襲われることも多いので、腕利きの護衛を雇った商人しか使いません」


 安全だけど迂回の多いルートか、危険だけど早いルートか、ね。

 別に急ぐ旅でもないから、できれば楽……じゃなくて安全なほうを選びたいかな。

 私は迂回するルートを指差すと、ミーシャとリルカの様子をうかがう。


「……ボクは早いルートがいい。山脈手前まではランクの高い魔物は出ない。それに護衛を引き受ければ報酬も出る」

「うーん……わたしはどっちでもいいの」


 うん、見事に意見が分かれたね。

 本当はミーシャに決めてもらうのがいいんだけど……。

 王都に来るまで森から出たことのなかったミーシャに旅のルートの決断を迫るのはさすがに酷かな。


 リルカも同じ意見なのか、ミーシャをチラリと見ると、帽子の鍔を掴み地図に目を落とした。

 しばらく三人が無言のまま時間が流れた後、沈黙を破るようにお姉さんが「そうだ」と手を打った。


「一つ提案なのですが、指名依頼を受けてみませんか?」


 指名依頼……?

 それってつまり、貴族の依頼を受けろと?

 ……って、そんなことを言ったら、リルカやリルカの身を案じていた家族だって貴族か。

 貴族=横暴、という考えはちょっと改めないとね。


 しかし私が一瞬浮かべた嫌な顔を見逃さなかったのか、お姉さんが苦笑いしながら話を続ける。


「今回の指名依頼はギルドからです。Bランク以上の冒険者が所属するパーティであれば、私でも指名依頼を出すことが許可されておりますので。依頼内容は、ギデル山脈に現れたと推測される強力な魔物の調査となります」


 ああ、その話か。

 依頼を受けるとすれば、必然的に早いルートで行くことに決まるって訳だね。

 うーん、依頼はあくまでも調査だから危険度はだいぶ下がるし、いいんじゃないかな?


 私はリルカとミーシャを見て頷くと、二人から「いいよ」と返事が返ってくる。

 じゃあ、その依頼、受けさせてもらいます!


「ありがとうございます。では、依頼開始の手続きを行いますね」


 手続きのためにお姉さんにギルド証を預けた後、私たちはギデル山脈までの護衛依頼がないかをボードへ探しに行った。

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