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九十八話 冒険者たち

「お待たせしました。こちらがアルネさんのシルバープレート、こちらがミーシャさんのアイアンプレートになります」


 私たちは受け付けのお姉さんが差し出した銀色のプレートをそれぞれ受け取ると、首にかけた。


「お揃いなの」


 ミーシャは私と自分のプレートを交互に見比べながら声を弾ませる。

 確かにパッと見では同じ銀色だから、お揃いに見えるね。

 隣で嬉しそうにはしゃぐミーシャの頭を撫でていると、不意に背後から声がかかった。


「お、進級したのか。おめでとさん」

「あら、並ばれちゃったわねー」


 振り返ると、リルカのさらに後ろから三人の男女が歩いてきていた。

 ダボルスさんとフウさん、それと……多分パーティの誰かだ。

 あまり記憶にないってことは、この男性がグリットさんなのかな。

 爽やかイケメンみたいな顔をしているが、頭には包帯が巻かれていてどこか痛々しい。


「こんにちは、アルネちゃんにミーシャちゃん。こうして話すのは初めてかな? 僕はグリットだ」


 そう自己紹介したグリットさんは――唐突に頭を下げた。

 ……え、え?

 なんで頭下げてるの、この人?


「この前は僕の不手際で二人を危険な目にあわせてしまった。本当にごめん」


 いや、謝られるようなことなんて何もないんだけど。

 あれはそういう依頼だったんだし、危険も承知のうえだ。

 というか、お願いだから頭を上げて!


 考えてもみてほしい。

 Bランクパーティの一員である爽やかイケメンさんが、駆け出し冒険者の女の子相手に「この前はごめん」と頭を下げ出した。

 ロビーにいる全員の目がくぎ付けになってもおかしくない……というか実際そうなっている。


 突然のことに私とミーシャがオロオロしているのを見かねたのか、フウさんがグリットさんの後頭部を軽く小突いた。


「こらグリット、二人とも困ってるでしょ? ごめんね、悪いやつじゃないんだけど、空気読めなくて」

「フウ、僕は空気を読めないんじゃないよ。読まないだけさ」

「余計たちが悪いわよ!」


 おどけたように肩を竦めるグリットさんの頭を、フウさんが叩いた。

 怪我に触ったのか、グリットさんが頭を抑えてうずくまる。

 ……あの、私たちもう行っていいかな?


「その辺にしとけ。つーか、もう行くぞ」


 漫才を始めたフウさんとグリットさんを諌めるように、ダボルスさんはボードをクイッと親指で指した。

 見たところ三人だけだし、依頼でも見にきたのかな?


「はーい。ほら、グリットもいつまで座っているの、早く行くよ」

「誰のせいだよ」


 フウさんが手を貸してグリットさんを立ち上がらせると、先に歩き出したダボルスさんの後を追いかける。

 そのまま立ち去るのかと思いきや、ダボルスさんが歩みを止めて顔だけ振り返り、


「おい、嬢ちゃんたち。連れが迷惑をかけたよしみだ。何かあれば相談に乗るぜ」


 それだけ言い残すと早足で去ってしまった。

 フウさんたちは「素直じゃないね」と顔を見合わせて笑いながら、その後を追いかけていった。


 ◇◇


 ダボルスさんたちが去った後、私たちは再びカウンターの前へ来ていた。


「さて、それで本日はどのようなご用件で?」


 ああ、ようやく本題に入れるよ……。

 謎の感動を覚えつつ、私は前もって文字を書いておいた黒板をアイテムバッグから取り出しお姉さんへ向ける。


『探し人 ミーシャの両親 冒険者』


 お姉さんが読んだのを確認すると、後はミーシャとリルカに任せて私は半歩下がる。


「なるほど、人探しですね。それにしても、ミーシャさんの両親は冒険者だったのですね。あ、種族は獣人で良いですか?」

「うん。お母さんもお父さんも獣人なの」


 お姉さんは一人納得するように頷きながら、机の下から紙束を数冊取り出し、パラパラと捲っていく。

 ここからじゃ一段高くなっているカウンターが邪魔でよく見えないけど、名前が並んでいるのがチラリと見えたから名簿みたいなものなのかな?

 ……それにしても、手際が良いね。

 私が感心しながらその作業を見ていると、お姉さんは視線に気づいたのか顔を上げ、私の顔を見て乾いた笑みを浮かべた。


「残念なことに、冒険者の人探しはよくあることなんです。依頼を受けた先でそのまま……という方も少なくありませんから。っと、不謹慎な話をしてすみません。ご両親のランクは分かりますか?」

「えっと……前に来た手紙にはBランクって書いてあったと思うの」

「獣人のBランクだとこのあたりですね」


 そう言ってお姉さんは一冊の紙束を手に取った。

 そのどこかにミーシャの両親のことが書かれているのかな。


「では、お名前は?」

「お母さんがクロエで、お父さんがディーツだよ」

「――クロエさんとディーツさんっ!?」


 ミーシャが名前を言った瞬間、驚いたように突然立ち上がるお姉さん。

 おおっ、びっくりした!

 って、お姉さん知っているの?


「……もしかして『魔法剣士』?」


 リルカも思い当たる節があるようで、何かを呟いている。

 え、何?

 ミーシャの両親って、有名人なの?


「お母さんとお父さんのこと知っているの?」

「知っているも何も、王都では有名な冒険者ですよ! 一昨年のスタンピードの際に最前線で活躍したAランクの夫婦冒険者です!」

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