九十七話 仲間って大切
私は森で生まれてからのことを、ミーシャの補足を交えつつリルカに説明した。
ただし、異世界や私が元々人間だったことについては伝えていない。
こればっかりは話しても信じて貰えるか微妙だからね。
それに、異世界の知識を伝えてしまってこちらの世界のバランスが……みたいにありがちな展開になっても困る。
全てを話し終えてからしばらく何かを考えていたリルカが、思い出したように顔をあげた。
「……魔物。アルラウネ……。あの蔓ももしかして魔法じゃない……?」
あー、うん。
そういえば魔法っていうことにしてあるんだっけ。
というか、今の話を聞いて真っ先に質問するのがそれか。
ぶれないリルカに、私は安心したような拍子抜けしたような気持ちで頷く。
「それならそうと言ってほしい。あの蔓に似た魔法をずっと探してたボクが馬鹿みたい……」
少しだけ頬をふくらませたリルカに、私は思わず苦笑してしまう。
その後、機嫌を損ねたリルカを宥めるのに一晩かかった――。
◇◇
それから数日が経った。
私とリルカは、たまにミーシャの回復魔法を受けながら療養に励んだ結果、ようやく調子を取り戻すことができた。
私がローブを羽織って玄関へ行くと、リルカは久々のローブととんがり帽子、ミーシャも動きやすい格好をして待っていた。
「お花さん、遅いの!」
ごめんごめん、ちょっとローブをどこに入れたのか分からなくなっちゃって。
今度、アイテムバッグの中身を整理しないとね。
下げた頭を戻すと、ミーシャがいつものように走り寄り右手を取ってくる。
「……相変わらず仲がいい」
「リルカさんもお花さんと手繋ぐ?」
こてんと首を傾げたミーシャに、リルカは一瞬迷う素振りを見せたが、「やめておく」と首を横に振った。
うん、なんで今迷ったかな。
私はミーシャに引っ張られて家を出ると、冒険者ギルドへと歩き出す。
今日は王都に来た元々の目的――つまりミーシャの両親探しをしようと思っている。
前にそう思って行ったらスタンピードに巻き込まれたから、今度こそ、だ。
何もないといいんだけど、何かが起きそうな予感がするのはなんでだろう……。
ミーシャとリルカが他愛もない話をしているのを微笑ましく見ながら、たまに相づちを打つように頷く。
この数日で、二人もだいぶ仲良くなった。
今では一緒に料理をしたり、書斎で本を読んだりしている姿をよく見かける。
気の許せる友人ができたことを嬉しく思う反面、ミーシャが親離れするようで少しだけ寂しくもある。
まあ、私は親というよりも姉って感じだし、その親も今から探しに行くんだけどね。
そんなことを考えている間に、冒険者ギルドへと到着した。
ギルドは慌てて誰かが出入り……といった様子もなく落ち着いている。
朝の混雑した時間を避けているからか、建物の中に入っても、始めに来たときのように閑散としている。
私たちが番号札を取るためにカウンターへと歩いていくと、
「――あっ! アルネさんにミーシャさん、お待ちしておりました!」
そう言って受け付けのお姉さんがカウンターの奥で立ち上がった。
スタンピードのことが脳裏をよぎって思わず身構えてしまったのは仕方がないことだと思う。
カウンターから出てきたお姉さんは、慌てて身体の前で手を振る。
「大丈夫です、そう身構えないでください。ギルドマスターから伝言があるだけです」
……ギルマスから?
構えを解いて首を傾げた私に、お姉さんは安心したようにホッと息を吐いた。
「先日のスタンピードでの功績を讃えて、アルネさんはBランクへ、ミーシャさんはDランクへ、それぞれ進級する、とのことです」
え……進級?
嬉しいけど……なんで急に。
前に報酬を渡してくれたときに言えばよかったんじゃない?
「理由もうかがっています。その、アルネさんは疑い深いからと……」
ちょっ、あの巨人……!
進級試験のこと、まだ根に持ってるの?
いや、確かに今疑ったけどさ!
「……理由は?」
「あ、えっとですね。アルネさんは単独でワイバーンを討伐できる実力があること。ミーシャさんは回復魔法により救護活動に貢献したからです。進級が遅くなったのは、申請に時間がかかったからだそうです。進級試験以外での進級には本部への申請が必要なので、恐らくそれのことですね」
なるほどね、進級の理由と遅れた理由に関しては理解できた。
ミーシャは確かにDランクへ進級させてもいいと思う。
……けど、私については納得できないかな。
ワイバーンを討伐したと言ってもギリギリの戦いだったし、それに何より私一人だけの力じゃない。
始めの数体はリルカと協力、あるいはリルカが一体引き付けてくれたから倒せたんだし、他はエリューさんがくれたブーツとミーシャの回復魔法のお陰だ。
それを私一人の功績にするのは、なんか嫌だ。
隣にいるミーシャの背中をそっと押して、私は首を横に振ろうとすると――。
「ちなみに、上げないという選択肢はなしだよ、だそうです」
ギルマスに読まれていたらしく、先に言われてしまった。
うっ……私が断ることなんてお見通しって訳か。
「……アルネも受け取るべき。遠慮なんていらない」
「そうなの! お花さんも頑張ったの!」
リルカが私の背中を押し、ミーシャが腕を引っ張ってくれる。
やさしく笑ってくれる二人の表情を見た私は、頷いてミーシャの隣に並んだ。