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十話 果物総取り

 夢を見た。

 森の中でモンスターとして転生する夢を。

 夢の中では私は幼いアルラウネだった。


 何を言っているんだか。

 さっきまで読んでいた本の影響か。

 また友達にからかわれてしまう。


 遠くで音が聞こえる。

 ヤバい。

 そろそろ次の講義が始まる時間かも。


 この図書館は居心地がいい。

 ついつい長居してしまう。

 特に陽のあたる窓際のこの席は最高だ。


 さてと。

 いい加減起きないと。

 私はゆっくりと目を開けた――。


 ◆◇◆◇


 まぶしい。

 射し込む木漏れ日が、仰向けに寝転がる私の顔を直撃している。

 目を隠そうと左腕を動かすが、動かない。

 あー。

 そういや折れてたわ。

 痛みがないから忘れてた。

 ……んん?


 右手で脇腹を触ってみる。

 感覚はあるけど、全く痛くない。

 あれ?

 身体を起こして見てみると、薄緑の脇腹が赤く染まっているだけ。

 黒角イノシシに刺されたはずの傷口が消えていた。


 いや、違う。

 乾きかけた血を拭ってみると、わずかに痕が残っていた。

 つまり……塞がった?

 え?

 傷塞がるとか、どんだけ私ここで気を失ってたの?


 顔をあげると、近くに横たわる黒角イノシシの死体が目に映る。

 気を失う前よりも背中の刺し傷がひどくなってるように見える。

 というか、何かに食い荒らされた跡のような……。

 まさか、グギャグギャ?

 慌ててあたりを見渡すが、それらしき姿はない。

 よかった。

 まあ、近くにいる私が無事なんだから、当たり前か。


 うん?

 なら、これ食べたのって――。

 口の中が獣臭い、というか生臭いことに気づく。

 うえっ!?

 胃から何かがこみ上げてくる感じがして、急いで口を塞ぐ。

 うう……吐きそう。

 あ、そうだ。

 立ち上がり、根っこを動かして黒角イノシシの巣へと移動する。

 巣には果物が積み上げられている。

 そこからさくらんぼ(仮)を選んで口へと運ぶ。

 ……ああ、幸せ。

 うん、これで獣の臭さは薄れるかな。

 やたらとお腹もすいてるし、ちょうどいいや。

 黒角イノシシのものは私のもの。

 食べられるだけ頂こう。


 続けて黄色いイチゴのような果物を頬張りながら、あらためて今の状況を確認する。

 まず、時間。

 さっきは気が動転していたけど、まだ脇腹の血が完全に乾いてないから、それほど時間は経ってないはず。

 太陽が昇ってきているから、翌日の朝ってところか。

 そうなると、脇腹のあの大怪我が半日で治ったことになる。

 ちゃんとは確認してないけど、恐らく貫通していたくらいの大怪我を?

 ま、まあ、私モンスターだし。

 傷くらいすぐ治ってもおかしくない……のかもしれない。


 でもそう考えると、今度は左腕が治ってないのが引っかかる。

 うーん。

 次の果物に手を伸ばしながら考えてみる。

 実は左腕が治らないほどの骨折だとか?

 もしくは、脇腹を治すのに体力使いきったとか?

 うん。

 いくら考えても分かんないや。

 次いこ次。


 次、なぜに黒角イノシシ食べた?

 実は、気を失う前の記憶がほとんどない。

 真正面からの戦闘は苦手だなー、って考えていたことまでは覚えている。

 だけど、その後の記憶がぼやっとしている。

 えーっと。

 何考えてたっけ?

 あー、遠距離の武器がどうとか、魔法がどうとかって考えてた気がする。

 んで、血が足りなくてぶっ倒れた、と。


 んん?

 血が足りない?

 もしかして、血が足りないから食べたとか?

 いやいや、さすがにないわ。

 ワイルドすぎるでしょ。

 そもそも、食べたって血が補給できるわけじゃないし。

 あー、でも。

 体力をつけるため、というなら納得もできなくはないかな。


 手乗りサイズのミニリンゴを食べる。

 シャリっといい音が鳴る。

 あ、これ甘さ控えめだけどちょっと好きかも。

 って、違う。

 うむむ。

 分からないことが増えていく一方だ。

 なにかこう、答えは分かっているけど解き方が分からないクイズを解いているみたいで、ムズムズする。


 分からないといえば、さっきまで見ていた夢もだ。

 夢にしてはやけにはっきりとしているから、たぶん人間の頃の記憶なんだと思う。

 本、図書館、講義、友達――。

 どんな本だとか、どこの図書館だとか、何の講義だとか、友達の名前とか、全く思い出せない。

 はっきりと分かったのは、私は学生だったということだけ。

 それも『講義』という言葉から察するに、大学生。

 そんな華の女子大生時代に、なんで死んでしまったのか。

 病気?

 事故?

 まさか自殺なんてことはないだろうけど。

 ……ないよね?


 まあ、記憶に関しては徐々に思い出していくでしょ。

 いくつ目か分からない果物を食べ終え、次へと伸ばした手が空をきる。

 目を向けると、あれだけあった果物がなくなっていた。

 あれ?

 もしかして、全部食べちゃった?

 えー。

 どんだけ食べるんだよ、私。


 まあいいや。

 そろそろ動きますか。

 こんなところにいたら、いつ角イノシシが襲ってくるか分かったもんじゃない。

 普通の角イノシシには負ける気がしないけど、今はなるべく出会いたくない。

 少なくとも左腕が治るまでは、他のモンスターを避けて移動するべきだろう。


 根っこを動かして巣の反対側へ回ると、そのまま森へと入っていく。

 とりあえず、当初の予定どおり森を抜けること。

 色々と疑問は残ったままだけど、話はそれからだ。

 森の中じゃのんびり考え事もできないからね。

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