宗教的原理主義派が支配するアフリカの小さな街のはるか後方の掩体壕内 第四フェーズ。
チューリング少尉は、声を控え、下命した。
「第61特殊実験小隊、全車、アグリー・クラウラー11から、14停止。アグリー・クラウラー14は、やや後ろへ下げろ。14ソフィア・コワレスカヤ特務伍長、第一速でやや後退だ」
「ラジャー、少尉どの」
4号車を操るのは、女性兵士だ。、女のナード(オタク)か。オタクのあつまりにあって、しかも、相当の器量良し大層な美人である。
4号車は、後方からの火器支援用の車輌で車体の上の戦闘室には、巨大な、二門機関砲を搭載している。
「アグリー・クラウラー11から13は微速で、広場へ入れ、噴水の縁の高さを掩体として利用しつつ、ゆっくり前進。死体は避けろ。カメラはアグリー・クラウラー12の車載カメラに切り替えろ、ドゥー・オール・オブ・ユー、コピー?」
「ウィー・ドゥー・コピー。サー」小隊全員が声を揃えて答える。
ちなみに、1号車の11を操るのは、フィボナッチ特務曹長。2号車12を操るのは、 ゴットフリート・ライプニッツ特務軍曹。3号車13を操縦するのは、オーガスタス・ド・モルガン特務技術軍曹である。
このセーフハウスである掩体壕の画面には、12が捉えた、味方の兵士の無残な死体が次々と映る。
しかし、これは、いかに、今までこのライフル中隊、大隊が無為無策にこの開けた広場に単純な突撃だけを繰り返してきた示すだけの証左でしかない。指揮官の無能さを示しているにすぎないのである。
車載カメラの映像は無視しつつ、チューリング少尉は、画面のサーモグラフィの確認に余念がない。
「動きませんね、負傷したか、狙撃兵の轍で動くことを避けているか、私があの狙撃兵なら位置がバレていることは明白なので、陣地転換したくてたまらないと思いますが、」
「どうした、少尉、貴様にしては、気弱だな、自信がないか」
「いえ、宗教的原理主義派の考え方がもう一つ理解できないだけであります」
上目遣いでチューリング少尉は、リー大尉を見上げる。
「先程の戦闘経過からみて、この広場の周りの建物には、四方八方にFOEがうじゃうじゃいるとみます、おそらく、小隊規模の兵力、火力を有するとみます。この狙撃兵にだけかかずらってはいられません」
チューリング少尉は、下命。
「達、14《ワンフォー》、赤外線の探査レベルを上げろ、狙撃兵の居たと思われる建物を厳に密に、クラウド・イーター20より、精度の良い情報が得られるはずだ。
ソフィアが応える。
「イエッサー」
画面のサーモグラフィの角度が変わり、より鮮明になった。
「14ソフィア、下がりすぎるな、今の位置を維持」
「ログ」
ソフィアの可憐な声が掩体壕内に響く。
「我々はどうしましょう、チューリング少尉、もうすぐ噴水の脇に到達します」
と 1号車11を操る、フィボナッチ特務曹長。
「噴水の脇で停止、その場で三台で円形防御体型を取れ、特務曹長。なにか、変だ」
「ウィーコピー。11から13噴水の脇で円形防御体型になります」
「コマンダー・ログ」
チューリング少尉も応える。
命令を下すだけではないこれが、指揮官の正しいあり方だ。
「見てください少尉」ソフィア・コワレンスカヤ特務伍長が言った。
「ユーソー、ワット・コマンダー・ソー」チューリング少尉が応える。サーモグラフィの人の体温を示す範囲がじわじわ若干だが円形に外に広がっている。
「FOEの狙撃兵は大分、流血しとるようですな、大尉殿」
「だな」
リー大尉は、12が送信してくる車載カメラの映像にすっかり意気消沈しているようすだった。
「あれぐらい、出血していると大きな反動のある大口径の狙撃銃での射撃、しかも精密な射撃は無理でしょう。もともと窓からクラスター爆弾を至近距離で二発喰らったんですよ、生きている方が不思議なくらいです。狙撃兵は無力化したと認識します。しかし、小隊各員、警戒を怠るな、手榴弾ぐらいは、あそこから落とせる、それに無線機を持って居るとも限らん」
「ウィーコピー」と第61特殊実験小隊全員。
「無線機、連中がか」
「買いかぶりすぎですか?大尉殿」
その時だった。掩体壕の画面の一つがホワイトアウトした。
「どうした、何が起こった!?」とチューリング少尉が尋ねる。
「ロストしたのは、12のカメラの映像だと思われます」と12の操縦者、ライプニッツ特務軍曹が報告。
「なんだ、閃光弾か?、車載カメラをアグリー・クラウラー13に切り替え」
「コピー」とド・モルガン特務軍曹が返事。
それと同時に、13の画面が一瞬また、閃き、その後、相当な揺れが画面を通じておこり、掩体壕内に警告音がピーピー鳴り叫びだした。
「なにが、あった」
チューリング少尉の声にも焦りが感じられる。
「報告をしろ、ダメージを報告しろ、我々は戦場という五感で感じられる現場に居ないんだ。それが、利点でもあり弱点でもある冷静に報告を」
掩体内の全面画面には真っ赤なサインで2号車12が相当なダメージを受けたことが示されている。
「ライプニッツ、報告しろ、あのピューマはお前の分身だ」
とチューリング少尉。
「イエッサー。左誘導輪が破損、左の転輪の幾つかの懸架システムもダウン、しかし、軌道輪は、活きています。左側はどれくらい破損しているかも不明」
ライプニッツ特務軍曹が叫んでいる。
「現状では、12は 行動不能、姿勢儀によりますと、姿勢は左に41度傾き、擱坐しています」
「うちの、隊員を救援に回すべきかね、君のおもちゃに、チューリング少尉?」
「ご冗談を、オタクの隊員がウチの、12のようになりますよ、リー大尉」
「うぐっ」
リー大尉が苦虫を噛み潰したような顔になった。
「14援護に回れ、広場内に最大戦速で突入。11、1213の側へ、急行」
「ラジャー」とソフィア特務伍長、
「FOEの連中、閃光弾で、目を潰して置いて、なにか、大型の対戦車地雷級の爆発物を投げつけたな」 とわざと壕内に聞こえるようにチューリング少尉の独り言。
「リー大尉、フェルマー中尉の部下にまた身を隠すように伝えてください、それと、IFF(敵味方識別装置)バッジのスイッチをオンにするように」
「チューリング少尉、貴様」
「遊びは、ここまでです。オール・アウトします」
チューリング少尉は、なにか決意した様子だ。
「第61特殊実験小隊、全員に達す。認識レベルファイブと認知。コード。ロミオ、イージー、デルタと認識。繰り返す、ロミオ、イージー、デルタ。全小隊にオールアウトを発令する。以後私の指示があるまで、オールアウトだ、このくそったれの土地をすべて地獄にしろ、破壊し尽くせ、すべてを壊せ、蹂躙し尽くせ、燃やしつくせ!」
「ウィー・コピー」
ゲームパッドに付属している、裏側の二重に防護されている、スイッチを二度オンにフィボナッチ特務曹長。擱座し動けない、12を操るゴットフリート・ライプニッツ特務軍曹。オーガスタス・ド・モルガン特務技術軍曹、ソフィア・コワレンスカヤ特務伍長、全員がした。




