第16話 窮地
みなさんこんにちは。
沖田です
土方さんの話はわかってもらえましたか?
今日からは新選組三番隊組長の斎藤一さんの話に移ります
彼は謎が多いんですよ
江戸にいたころは借金取りやヤクザの用心棒してたみたいです
しかし近藤先生に恩を借りて京で浪士組に参加したんですよ
無口だけど義理堅く真面目で仕事はきっちりこなす
そういう人でしたね
斎藤さんは時代が変わっても生き延びて警官隊になったそうです
私は斎藤さんを尊敬してます
私も斎藤さんたちと一緒に最後まで戦いたかった…
え?近藤先生って誰かって?
それはまた今度
それじゃ本編へどうぞ
「義経様…死人とはどういうことですか?」
義経はわかっていた
海の中で息ができていたこと、傷口が痛まないこと…これは…死んでしまったためである
しかし肉体がこうして存在するのは…総司と同じく任務を受けたからであろう
総司は弁慶にも詳しく事情を説明した
なにもかもすべてを話した
さすがに弁慶も驚きを隠せなかった
「義経様…私はあなたがたとえ死なれてしまわれていても思いは変わりませぬ。沖田殿たちに、あなた様に、ついて行きます」
下を向いていた義経も笑みを浮かべてうなずいた
「沖田殿…我々も協力いたす。兄上を乗っ取った悪霊を私は許さぬ。共に戦おうぞ。」
こうして4人になった総司たち一行は再び悪霊を探しにでかけた
まだこの時代にいるのか…いないのか…まずは頼朝を探してみることだ
お尚さんの話によると頼朝は新たな一軍を率いて奥州平泉にいるという
藤原秀衡一族を支配し、拠点にしているらしい
「義経さん…気をつけてください。私とあなたはすでに霊体です。霊体の状態で死ぬと、完全に無になります。これまで生きてた証さえすべて消えてなくなります。くれぐれも気をつけてください」
「承知した」
4人は奥州平泉を目指した
相手の軍勢がどれだけなのかわからない
こちらは4人…無謀な戦になるかもしれない
しかし頼朝を乗っ取っている悪霊を倒さないとこの先どんどん歴史が壊れていく
「…(…美紀…)」
総司はふとノボルを見る
美紀…今まで全く口にしなかったが美紀とはノボルの幼なじみであり恋人だ
面倒見がよく明るくておちゃめな可愛い女の子だ
今までノボルが道を外れなかったのは美紀のおかげだ
「ノボルさん、私との修行を思い出しなさい。そのまま発揮すれば負けることはありません。」
気休めに聞こえたが今は戦って勝つしかない
森が見えてきた
奇妙な城が建っている
「なんだあれは…?あんな城は奥州平泉にはなかった。沖田殿…あそこに攻め込むのか?」
「そうです。頼朝だけを狙ってください。4人のうちの誰かが1人でも悪霊を頼朝から誘い出し、仕留めることができれば、必ずあの悪霊は消える。いきますよ」
森の中ににどんどん入り込んでいく
静かだ
小鳥のさえずりさえ聞こえない。
百メートルほど先で大勢の雄叫びのような声が聞こえた
向かってくる軍勢の足音…
どうやら相手もこちらの動きを読んでいたらしい
数百の軍勢とノボルたち4人がぶつかった
ひたすらに斬って斬って斬りまくる総司…
前から後ろから流れるように隙を見せない動きだ
中でも突きは恐ろしく強烈だ
やはり三段突きは総司ならではの技だ
義経も向かってくる相手兵士を見事にさばいている
ノボルはとにかく必死に刀を振り回した
こんなところでは死ねない
しかし最悪なことに弓矢隊が矢を放ってきた
なんとか避けながら戦い続けるがさすがに息切れがしてきた
弁慶がノボルの前に立った
「小僧、しっかりせえ!」
大きな長刀を振り回し一気に敵を退ける
斬っても斬ってもあふれ出てくる兵士たち
そのとき新たに軍勢の足音がしてきた
あれは源氏軍だ
解散したかと思っていた源氏軍が加勢にきたのだ
「義経様!背後の道を伝っていくと抜け道がございます!ここは我々に任せて先へお進みください!」
まさに窮地に陥っていた4人を救った奇跡だった
総司はまだ気づかずに斬りまくっている
鮮やかな太刀は乱れることなく走っている
刀と総司が一体になって動いている
「沖田殿!源氏軍が加勢にきてくれた!我々4人は兄上のもとへ向かう!」
4人は抜け道を通って城の裏門にきた
「皆、怪我はないか?これより兄上のもとへ向かう。もう一度話をして、それでも無駄ならば…今度こそ容赦なく兄上を斬る! 参るぞ!」
弁慶は息切れもなく仁王立ちして元気そうだ
ノボルは息切れが激しいが傷は負ってない
刀も折れてない
「…(やべえ…マジきつい)」
総司も傷ひとつない
あれだけ動いたせいかさすがに少し息が乱れている
「みなさん先にいっていてもらえますか?私は源氏軍をもう少し手伝って後からから行きます。…義経さん、弁慶さん、ノボルを頼みます」
様子がおかしい
総司にしては多少息切れが激しく汗が凄い
「承知した。それでは沖田殿。後にまた会おうぞ」
弁慶の長刀一閃が固く閉ざされた裏門を破壊した
3人は先に進んでいった
「…?(沖田さん?)」
ノボルは不思議そうに総司を振り返った
総司はいつものようにニコリと笑ってこちらを見ている
源氏軍も総司が加わればかなり優勢になるだろう
3人が城に入ったのを見送り総司は再び源氏軍のもとへ向かおうと歩きだした
一歩足を踏み出したとき、咳がでた
なかなか止まらない嫌な咳だ
胸元あたりが急に熱くなり、咳をしながら吐血した
浅黄色に白のダンダラ模様の羽織りに鮮やかな血の色が飛び散った
そして刀を握ったまま口元を手で抑えながらその場に座り込んだ