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オルタの歌  作者: 春豆
第一章 オルタの子
8/14

第七話 それは勝負を受けた時から

 イオリは、オリーブ園までの道のりをゆっくりと歩いていた。道を照らす日差しが強くなり始めた頃、紫色に変色したオリーブを収穫する母親のハルナの姿を見つけた。

 手摘みで収穫するのは手間と時間がかかる非効率な作業ではあるが、実を傷つけず高品質を保つ唯一の方法である。おかげで収穫量は少ないが『カルデローニオイル』の名は工業都市ピサノにも広く知れ渡っており、有名レストランでは必ずといって良いほど使用されている。

 この日はトマーゾやミケーラ、イオリやユノンも加えた一家総出で収穫をする予定だ。オリーブは収穫時期に雨が降ると台無しになってしまうので、晴れている間に可能な限り収穫しなければならない。

 黙々と枝を手でしごいて実を採るハルナの横で、イオリも手伝いを始めた。

 

「母さん」


 日が天頂を超えようかという頃になってようやく声を掛けたのだが、ハルナは手を止めること無くオリーブを摘み取っている。

 再度声を掛けたが、顔を向けること無く素っ気ない声だけが返ってきた。


「なんだい、今日は忙しいんだけどね」

「話しがあるんだ」

「なんだい改まって気持ち悪い」


 ハルナは大きなため息を一つ溢し、作業を中断してはしごから下りてきた。

 腰に下げた籠を地面に降ろし手袋を外すまで、イオリは黙ったままジッと見続けていた。母親はもう判っているだろうと思っていたが、それでも自分の口から言わなくてはいけないのだと、決心を固める。


「ピサノに行ってくるよ。暫く戻らない」

「そうかい。ピサノで何するんだい」

「ストラーデ・ヴォートに出て、賞金を稼いでこようと思う。カーク10のエンジンを買うための」

「ダメ人間が言いそうな台詞だね。『賭事で身を持ち崩す』って言うだろうに」


 予想していたかのように、ハルナはもう一度大きなため息をついた。

 『ストラーデ・ヴォート』は、簡単に言えば水上機によるレースだ。プライベーターによる小型自作飛行機がメインのカテゴリクリテリオから、ワークスと呼ばれる貴族資本が入ったプロの飛行機が争うカテゴリアリストクラツィーアまであり、年6回のレースで争われる。国内外で屈指の人気スポーツであり、賞金額も桁違いに大きい。カテゴリC(クリテリオ)でも3回優勝すれば『カーク10』のエンジンを買ってお釣りが来るほどだ。


「ダメ人間はないだろ。ストラーデは父さんが人生賭けてやっていた事だ」

「そんな夢を追うより、トマーゾみたいに地に足着けた生活を送ったらどうなんだい」

「兄さんだって…いや、兄さんは兄さん、俺は俺だろ」

「どうせ言っても無駄だろうけど、生活費は自分で稼ぎな。仕送りはしないよ」

「そのくらいは何とかするさ」

「そうかい、じゃあ好きにしといで」


 ハルナは背を向けてまた作業に戻ってしまった。何も言わないその背中がとても小さく見えて、イオリはぐっと唇をかみしめた。そっけないように見えるが、なんだかんだ言ってハルナはイオリを一番可愛がっていた。父親にどんどん似てくるイオリの事が、心配で心配で、そして愛おしくて堪らないのだろう。本当は家で一緒に果樹園を経営して、ずっと一緒に居てほしいのだろう。

 しかし、父親に似ているからこそ閉じこめておくことが出来ない事も、よくわかっている。だから無言で見送るのだ。

 イオリは無言のまま一度だけ大きくお辞儀をすると、イオリもまた収穫作業に没入していくのだった。





 途中昼食を挟みはしたが、ほぼぶっ通しで作業を続けた一家は、ヘトヘトで食事を作る気力も残って居ない状態だった。

 倹約家のハルナでさえ、この日は外食に賛同した程だった。

 とはいえ、そう大きくない島のこと。めぼしいレストランと言えば数軒しかないので大抵一人や二人、知り合いと鉢合わせになるものだ。それも会いたくないと思う相手に。


「よう」

「ああ」


 イオリとライアンは、店の入り口でそんな短いやり取りだけかわした。

 ライアン達一家は特別な個室へ、イオリ達は当然一般大衆が使うホールへと案内された。席に着くと、早速ミケーレが耳打ちしてくる。


「ねえねえ、ライアン坊やにはどんなこと要求されたの?」


 まだイオリが島を出ることを知らないミケーレは、謝ったイオリが約束を撤回してもらう代わりに何か要求されたと思い込んでいるようだった。

 手早く煮込みハンバーグを選んでメニューを対面のユノンに手渡すと、何気ない感じで答えた。約束通り二三日中に島を出る事になったと。

 それを聞いた時、ミケーレは何を言っているのか判らないという顔をしていた。しかしイオリがふざけているわけではないと判ると、表情を無くしたまま静かに席を立った。慌てたのはトマーゾだ。


「ミ、ミケ!ちょっと待て、落ち着け」

「落ち着いているわ」

「嘘つけ、とにかくナイフは置きなさい、おいフォークも駄目だって!ちょっと母さんも何とか言えって」

「肉を切るには、もってこいだねぇ」

「笑ってる場合かよ、おいイオリも一緒に抑えろ!」

「え、あ、俺も?」

「放してトマーゾ、ちょっと穏便に話をつけてくるだけよ」

「絶対に違うだろ、止めてくれ。ワイン瓶は武器じゃない!」


 ひとしきり騒いだせいで店から追い出されそうになったが、トマーゾが店長に平謝りして事なきを得た。そんな賑やかな夫婦を眺めながら、ハルナは困ったような顔で息子をたしなめた。


「ちゃんとミケーレに言っておかなかったのかい?」

「母さんに伝えた後で言おうと思ったんだけどさ、収穫が忙しくて暇が無かった」

「イオリ、お前は少し言葉が足りないところがあるよ。誰もが察してくれるわけじゃない、ちゃんと説明することを覚えな」

「わかった」


 どたばたがあったが、ようやく一家の夕食が始まった。

 食事を取りながら、事のいきさつを一から説明するのは大変だったが、母親の教えはしっかりと守るイオリである。裏話まで交えつつ、細かく説明していたらいつの間にかデザートも終わろうかという時間になっていた。ミケーレはジェラート用のスプーンをクルクルと弄びながら話を聞いている。


「それで今朝早くから居なかったのね。再戦してたとはね、呼びなさいよ」

「イヤだよ、恥ずかしい。それに早いのはいつもだよ。義姉さんが遅いだけだろ」

「うるさいわね、飲むわよ」


 ワインの瓶に手を掛けたミケーレを、あわててトマーゾが止める。

 これ以上騒ぎを起こせば確実に出入り禁止となってしまう。狭い島社会でそれは致命的だ。


「それで、どうだったのよ。ライアン坊やとの本気勝負は」

「もちろん勝ったよ」

「坊やは1mだったでしょ。それより寄せるってどんだけよ」

「30cm」

「頭がおかしいわね」


 ミケーレが呆れて椅子にもたれ掛かったところで、給仕の男性から声を掛けられた。

 ワゴンにはワインの瓶と、葡萄ジュースの瓶が一本ずつ乗せられている。他の席からの提供だという。

 訝しむイオリに、添えられていたカードが手渡されると、給仕は会釈とともに下がってしまった。


「イオリ、何て書いてあるの?」

「ライアンから。次は負けないってさ。あと、この二本は裏勝負の戦利品だから飲んでくれって」


 覗き込んでくるユノンから避けるように、メモをクシャリと丸めてポケットに押し込む。同時にミケーラから歓喜の声が上がった。

 どうやら、かなりの高級品らしい。彼女の中でライアンの株がほんの少し上昇したようだった。


 帰り道、案の定酔っぱらったミケーレをトマーゾが背負っていた。ぶつぶつ文句を言っているが、仲むつまじい光景だった。その後ろをイオリとユノンがゆっくりとついて歩く。

 上り坂にさしかかったところで、ふとイオリが口を開く。


「ユノンはさ」

「うん」

「かなえたい夢ってある?」

「夢?」

「そう、夢」


 月に照らされた青緑色の髪が、右に左に揺れる。

 考え事をする時、左右に首を傾げるのはユノンの癖だった。そうしてしばらく考えると、決まってこう言うのだ。


「んー」


 言葉が紡ぎ出されるまでの間、イオリはただ黙って歩いている。

 砂利を踏む音が、耳に響く。


「もう一度、そらを飛ぶことかな」

「空を?もう一度?」

「うん」

「そっか」


 この時イオリは、カーク10で空を飛んだ時の事を言っているのだと思った。ふと「夢」と呼ぶには現実的すぎやしないかとも考えたが、嬉しそうにはしゃいでいたし、きっと相当楽しい思い出だったのだろうと納得する。

 いずれにせよ、自分のためにもユノンの夢をかなえるためにも、島を出てストラーデ・ヴォートに賭けるしかない。その覚悟は出来ている。

 しかし、別の覚悟がどうしても出来なかった。


「ユノンも」

「うん」

「いや、何でも無い」


 ポケットに突っ込んだ左手からは、潰されて固くなった紙の感触が伝わってくるだけだった。





 出発の日、朝から大きな欠伸と伸びを2セットこなしたイオリは、小さな鞄を一つ背負って兄夫婦に挨拶をする。アリアンテはすでに分解して船に積み込んであるので、身軽なものだった。

 激しく尻尾を振るモナの頭をひとしきり撫で回して可愛がると、立ち上がって鞄を背負い直した。


「んじゃ、行ってきます」

「たまには帰ってきなさいね、ユノンちゃんも寂しがるし」

「ユノンはまだ喉が酷いの?」

「熱もあるし、起き上がれる状態じゃないわね」

「そっか、最後に会いたかったけど、手紙書くよ」

「そうしなさい。あと独り暮らしだからって、向こうで怠惰な生活するんじゃないわよ」

「そういう義姉さんこそ、少しお酒を控え―」

「うるさいゾ」


 理不尽な笑顔で腹パンチを食らって苦しんでいると、トマーゾが小さな包みをを手に近づいてきた。餞別といって手渡されたので遠慮無く開けると、中には使い込まれたゴーグルが一つ入っていた。何の変哲もない一般的なゴーグルだが、側面の皮には刻印がありその横に銘が掘ってあった。

 イオリは、すり切れて消えかかっているその文字を愛おしそうに撫でる。


「これは、父さんの…」


 見た瞬間に判っていた。父ディエゴ・カルデローニが最後まで使っていた物に間違い無い。古くなっていたガラス部分を交換し、よく見えると喜んでいた矢先の事だ、ゴーグルだけが家に帰ってきたのは。

 その時は、一家の誰もが受け取らなかった。ゴーグルを受け取る事は、父の死を受け入れる事になると思っていたからだ。しかし、結局は跡取りであるトマーゾが受け取り、保管していたのだ。


「もう、受け取れるだろ」

「うん、兄さんありがとう。でも俺が貰っていいのかな」

「お前以外飛べる奴は居ないだろ。それ着けて、いつか父さんに空で会ってこいよ」

「わかった」

「ああそれと…」

「何?」

「何があっても『空のように広い心で受け入れろ』だぞ」

「え、ああ父さんの言葉か、うんわかってる」


 兄の含みがある言い方が気になったが、時間が押していた。ゴーグルを大事に鞄にしまい込むと、手を振って別れを告げてから港への道を急いだ。母のハルナは一足先に港へと見送りに出かけたと聞いているので、あまり待たせるわけにもいかない。


 早足で石畳を抜けると広い通りに出る。ここから港までは一直線の下り坂なので、そう時間はかからない。そう思って少し歩みを緩めた時、後ろから騒音と黒煙を上げながら近づいてくる車があった。島の人間なら誰でも知っている。ここで車を乗り回す人間といえばたまに視察にやってくる国の検査官か、ライアンのところぐらいなものだ。


 そして予想通りの人物から声がかかる。


「よう、負け犬が逃げ出すところを見に来たぜ。乗ってけよ」

「趣味が悪いぞ、ライアン」


 苦笑しながらも、遠慮せず乗り込むと運転手に頭を下げた。ライアンの屋敷で何度か見かけた事がある。執事兼運転手をしている初老の男性だ。男性は、短く会釈で返すとゆっくり車を発進させた。


「それで横長パラシュートは観光の目玉になるのか」

「当たり前だ、あんな凄い遊び他にあるもんか。絶対に成功させてやる」

「正当な利益は取っていいけど、きちんと島の発展に役立ててくれよ」

「馬鹿にするな、俺だって島の人間だ。それに約束は絶対に守る」


 ライアンとの裏勝負をした日、ある約束をした。イオリが勝った場合新しいパラシュートを使った遊びを島の観光にできるよう施設や広報など全面的に協力するというものだ。一方負けた時の約束はいうと、恋する少年ライアンの事、推して知るべしである。


「ところで、ロッセリーニさんはどうした。見送りは」

「熱が出て昨晩から寝込んでる」

「昨日から会ってないのか」

「会ってない」

「今朝も?」

「残念ながら」

「いや、いくら熱でも窓から手ぐらい振れるだろ」

「よっぽど酷いんだろうな」

「…イオリよ」

「なんだよ」

「運命の女神は俺に味方したようだ」

「大げさな奴だな」


 確かに邪魔なイオリが居なくなれば、ライアンもアプローチしやすくなる。これまで以上に大胆な誘いやプレゼント攻勢をすることだろう。それ自体は問題ないが、家族から非難されるのは面倒臭い。やれこのままで良いのかだの、男として情けないだの言われること間違いなしだ。主に言うのはミケーレだろうが。

 想像するだけでため息が零れてしまう。それをライアンは別の意味に取って、一人勝ち誇った顔をするのだった。

 

 ほどなくして港に着くと、ライアンと別れてすぐに母親の姿を探した。待たせると厄介なお説教が始まると思い、早足で歩き回る。

 ようやくハルナの姿を見つけたのは、定期船『パトリシア』から大きな汽笛が鳴った時だった。


「随分遅かったね」

「これでもライアンの車に乗せて貰って、早めに着いたんだけどね」


 石のベンチに掛けて海を眺めているハルナの横に腰を下ろすと、一緒に海を眺めた。ハルナは海の青が好きで、イオリは空の青が好きだ。どちらの青がより綺麗なのか、小さい頃からいつも言い合いをしており、かつお互い絶対に譲らなかった。

 大人げないハルナと、子供らしく頑固なイオリに挟まれて、父親のディエゴがよく困っていたことを思い出す。義姉が来てからは海派が3人、空派が父親とイオリの2人と空派が劣勢となった。そしていまは3:1と少数派に転落だ。

 ユノンはどちらなのだろうと、ぼんやり思う。

 この島での思い出は、どれも甘くてほろ苦い。


「そろそろ行くよ」

「身体に気をつけていってきな」


 母親とライアンに見送られ、乗船するとそのまま甲板へと足を向けた。

 甲板から船着き場を見下ろすと、何人か見知った顔が見える。イオリ本人が思うほど彼は不人気ではない。むしろ密かに憧れている者も多いのだが、近づきにくいオーラが出ているらしく、未だにイオリの女性交友関係はゼロである。

 汽笛が短く三回鳴り、船がゆっくりと後ろに向かって動き出す。


 イオリが小さく手を振っていると、知人達の一部が騒ぎ始めた。何事かと見ていると、何人かはこちらを指さしたり、口元を手で覆って驚いた顔をしていたりする。

 まさか船が沈没しかけているんじゃないだろうなと不安になり、手摺りから身体を乗り出して下を覗き込むが、問題はなさそうだ。

 首を捻っていると、ライアンが顔を真っ赤にして大声で叫び始めた。風の音で何を言っているかは聞こえないが、顔を真っ赤にして怒っているようだった。イオリに聞こえていない事がわかるとさらに怒りが増したらしく、船を指さして地団駄を踏んでいる。


「何やってんだ、あいつ」


 首を傾げるうちに船は進み、どんどん人が小さくなっていく。

 ハルナがライアンの様子を見て、楽しそうに笑っていたのが印象的だった。結局何があったのかわからず消化不良ではあったものの、無事出航できたことを感謝し、船底へ向かおうと周り右したところで後ろの人にぶつかってしまった。


「いって。すみま―」


 謝ろうとして開いた口が、数秒間動きを止める。


「は…」


 意識が戻った瞬間、飲み込み損ねた唾のせいで盛大にむせた。激しく咳き込むイオリの背中を心配してさするその人物は、青緑色の美しい髪を海風になびかせてた。


「ゆ、ユノン!?」

「やあ」

「やあ、じゃないだろ。なんで居るんだよ」

「イオリと一緒に行こうと思って」

「一緒にって、風邪で寝込んでただろ、起きあがれないくらい酷いって!」

「それは仮病、かな?」

「勘弁してくれ」


 その場でがっくりと膝をついて頭を抱える。今になってようやくわかったのだ。兄が言っていた『空のように広い心で受け入れろ』の意味を、そして港でライアンが地団駄を踏み、母が笑っていた理由を。つまり、家族全員が共謀者だったということだ。


「いつから準備してたんだよ」

「え、最初から」

「だから最初っていつさ」

「イオリがレッツジェラートの勝負を受けたとき」

「なんだその美味しそうな名前の勝負は」


 ユノンにとっては、イオリがレッジェーラで勝とうが負けようが関係無かった。彼が島を出て行くならばついて行くだけのことだ。ただ、現実問題として人が暮らすのにはお金がかかる。それをイオリに求めることは憚られたのでずっと悩んでいたのだが、それもある時突然解消した。


「あ、生活費も稼いだから心配しなくていいよ」

「稼いだ?どこでそんな―いやちょっとまて」


 イオリは、ぐるりと思考を巡らせる。小遣い程度の金しか貰っていなかったユノンが一気に稼ぐ方法といえば一つしかない。


「賭博か!」

「いやぁ、イオリの人気ぶりは凄かったよね。ライオン君に賭けたのは私とお父さんだけだってさ。おかげで生活費たっぷり」

「ライオンって強そうだけど、ライアンな。それにしても、あいつに賭けたのか…」

「うん。一人乗り飛行機見せてもらった時から、イオリが島を出る気なのがわかってたし、負けるつもりなんだろうなって。パラシュートも変なのだったし」

「そりゃそうだけど、そうだけども」

「何でイオリが落ち込んでるの」

「複雑な気分になった」


 イオリのことを理解してくれた事が嬉しい反面、ライアンに賭けられた事は面白くない。身勝手なことは自分でもわかっているが、どうにもモヤモヤが止まらなかった。


「くそう、ライアンの奴やっぱり叩き潰しておくんだった」

「よしよし」


 なでなで、とユノンの手が頭の上を滑る。

 ふと見上げると、青い空の中を泳ぐように海鳥の群が旋回していた。


 定期船『パトリシア』は、恵まれた天候のもと、のんびりとした足取りで工業都市ピサノへ向かうのだった。

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