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プロローグ

初投稿にして初小説です。

ご意見ご感想等お待ちしています。

 僕達は確かに、ユートピアを目指していたのだろう。けれどもユートピアは「理想」であるが故にユートピアたり得るのであって、結局のところ、僕達がたどり着いた場所はユートピアなんかではなかった。


 日比谷継ひびやけいは朝の冷気で目を覚ました。おぼつかない手つきで壁面ディスプレイを表示させると時間を確認する。時刻は午前5時。いつもよりも早いことからまだ寝ようかどうしようかと微睡んだ頭で思考した結果、ベットから降り台所へ向かうことにした。

 継が台所へ続くリビングへと入ると、そこでは父のつとむがコーヒーを片手に手持ちのタブレットでニュース記事を読んでいた。勤はリビングに入ってきた継に気付くと、顔をあげ持っていたタブレットをテーブルの上に置いた。

「おはよう、継。今朝はやけに早いじゃないか?」

「おはよう、父さん。寒さで目が覚めちゃったんだ。」

 そういうと、勤は人のよさそうな穏やかな笑みを浮かべ「そうか」とだけ言い再びタブレットに目を落とすと、コーヒーを口にした。

 継は台所に入ると簡単な朝食を用意しテーブルについた。勤の後ろにある窓からは、まだ暗い空に高層ビルの航空障害灯が規則的なリズムを刻みながら赤く点滅しているのが見える。部屋の中にいても感じることができる程の冷気に少し身震いをし、今朝はやけに冷えるな、と内心ぼやきつつ朝食を済ませるとふと、この薄暗い寒空の下を散歩してみるのも悪くはないかもしれないという考えが継の頭に浮かんだ。

「父さん、僕ちょっと散歩してくるよ。」

 そういうと勤は怪訝な顔をし、

「こんな寒い日にか?今日は今季一番の冷え込みらしいぞ?」

と言った。

 継としても突然の思い付きではあったのでいささかどうしたものかと考えていると、

「まあ、あまり遅くなるなよ。お前のそういう突発的なところは本当に俺にそっくりなんだ。」

と勤がはにかみながら言った。その言葉に「ありがとう」と返すと、継は手近にあった服に着替え黒いコートを羽織ると家を出た。


 継の住む地上47階建ての高層マンションから見渡す町並みは普段と違い、一面が雪化粧で覆われている。雪をかき分け地面から幾多もの高層ビルが所狭しと林立するその様は昔歴史の講座で習った、このエリア7― 旧日本 ―にかつて植生していたという「タケ」のようだと継は思った。

 エレベーターに乗り一階まで降りると白と黒を基調としたシンプルなデザインのエントランスを抜け外に出た。

 いつもであれば既に人や車が行きかっているであろう正面道路には誰一人居なく、継は眠っているかのようなビル群の下を一人歩く。町では継が雪を踏む音以外鳴る音はなく、その様はさながらゴーストタウンを思わせるようなものであった。

 何となく、「世界が終わったら、きっとこんな感じなのだろうか」と継は思い「世界の終末」などとひどくつまらないことを考えている自分が居ることに気付くと恥ずかしくなり、一人苦笑した。

 灰色に覆われた空は白い結晶の塊をなおも吐き出し続ける。

 肩に積もり始めた雪を払うと継は再び灰色の都市まちを歩き始めた。


 継が帰宅した頃には既に家族全員が目を覚ましていて、長く艶やかな黒髪に若干の寝ぐせ交じりの沙耶さやが継を迎えた。

「おかえりおにーちゃん。」

沙耶はつい先刻起きたらしくパジャマ姿で未だ眠たげな眼をごしごしとこすっている。

「ただいま。」

「こんな寒い中散歩なんかしてたの?」

寒さが苦手な沙耶はうへーといったように顔をしかめた。

「いいじゃないか。そういう気分だったんだよ。」

正直なことを言うと沙耶は「変なのー。」と笑い、継を置いてリビングへと向かっていった。継は手洗いを済ませると自室に入り、机に置いてある銀に鈍く光るヘッドデバイスへと手を伸ばし頭に被った。

「ヘッドデバイス装着。拡張VRを展開。」

 継の音声をデバイスが認識するや否や、デバイスの前面に付いている半透明のバイザー型ディスプレイに光がともり、「キョウシツ」と呼ばれる室内の映像が映し出される。


 ――― 西暦2119年、時代が進むにつれ個人における能力の多様性が重要視されていくのに従い大勢の生徒に定められたカリキュラムで統一的な授業を行う学校制度は廃止され、国から定められた年内に一般教養科に加え自身の興味に従って講座を選択するシステムがその地位を取って代わっていた。学校制度の廃止に伴い校舎の多くは取り壊され、現在ではデバイスを介し拡張VRを利用したオンライン講座を各々がそれぞれのタイミングで受講するスタイルが主流となっている。


「教科は…世界史。前回の続きから。」

 デバイスが音声を認識するとディスプレイ上に見慣れた老講師がスクリーンを背に立っている映像が映し出される。

「前世紀中頃に起こった大戦の後、かつて存在した100を超える国々は統合合併を繰り返し大きく4つの連合体に分かれた。その4つがワシらの住むアジア統一連合、ヨーロッパ・アフリカ共同体、そしてR.M.UとA.U.Uじゃ。この連合体の中には大小さまざまなエリアが含まれている。各エリアには…」

老講師は自身の体験を交え、近代史について語る。

 その間、継の頭部を4本の爪で掴むかのような形をしたヘッドデバイスが記憶の定着を促すべく脳の記憶分野に微弱な刺激を与え続ける。微かな電流が自身の頭部に流されていることを感じながら、継は老講師の紡ぐ言葉に耳を傾けた。

「それからの人類の技術の進歩はそれこそ驚異的なスピードじゃった。量子コンピューターの完成による演算能力の上昇に伴い、人々のDNAや脳のシステムについて多くの謎が解明されていった。その功績の一つとして挙げられるのが、諸君が今頭につけているだろうヘッドデバイスじゃ。記憶領域だけに留まらず、脳自体の活性化をも促すその装置は医療技術が進歩し平均寿命が100歳を超えた今、老人たちのボケ予防へもつながっている。ワシが今こうして諸君に世界が経験した膨大な歴史を語れるのも、ひとえにその装置のおかげとも言えよう。」

そう言うと100歳を超えるその老講師は快活な笑い声をあげた。

 継はこの老講師の穏やかでありながら熱のある語り口調が好きだった。それが故に、この後老講師の話した言葉が継に深く根を張ったのだろう。

「だがしかし、ワシらはこの発展と引き換えに多くのものを犠牲にしたということを忘れてはならん。それは前世紀末に起こった大戦の犠牲者のことだけではない。自然じゃ。大戦の後の子供不足のタイミングと医療技術の発展のタイミングが被さったことによりワシらの時代だと禁忌だとされていた試験管ベイビーが認められるようになった。延命、遺伝子操作なんぞもはや当たり前じゃ。これにより人口は爆発的に増大した。遺伝子操作によって生産が安定した食料はいくらでも用意できたからそうなると次は土地が足りなくなる。増加人口分の土地を補う為、人々にとって住み辛い森林は破壊され、海は埋め立てられ、土は人工物によって上塗りされていった。これによって多くの動植物が絶滅した。国連はこの状況に対しその実を伴わない形式的な保護条例を出しただけで、状況は決して好転することはなかった。皆、戦争から立ち直ろうと必死だったんじゃろうな。」

 継はこの老講師の悲しそうな顔を初めて見た。取り返しのつかない事をしてしまったと心から悔いるような顔。それは永久に許されることのない罪人が浮かべるような悲壮な顔であった。

「先進的なエリアがその技術力ゆえに人口を増やしていく一方、貧しいエリアはその貧しさゆえに労働力を賄うため人口を増やしていき総人口は100億を超えた。そうすると土地が足りなくなり…と、その繰り返しじゃ。人々はいつの日からか己を環境に合わせることよりも、環境を己に合わせることを得意としていった。環境の保護は外交上のアピール材料でしかなく、多くのエリアにとっては発展の二の次じゃった。これは大戦以降の人々にみられる傾向なのじゃが、人々が発展するためには犠牲は厭わないという思想を持った者がおる。この講座を見ているであろう諸君は皆大戦以降の子達じゃろうから、ワシはこのことをどうしても諸君に伝えたい。他のあらゆるものを犠牲として、人だけが生き延びていい理由なんて何処にもないのじゃよ。ワシらとて他の動植物と何ら変わらん。広大な地球に生まれたちっぽけな一生命に過ぎないのじゃよ。もしこの状況がこの先も続くとしたら、人類はいずれ何らかの形で『罰』を受けなければならなくなるかもしれんの。」

 そこまでを語り終えると、老講師は水を口にした。

 継はいつの間にかデバイスが記憶を定着させるための電流を流すのを止めていたことに気付いた。それなのに、頭の中にはやけに老講師の言葉が印象的に残っていた。


 時刻は昼を回っていた。灰色の空はいつの間にか晴天に変わっていてその変わり様は不気味だとさえ継には思われた。

 家族と昼食を共にすると継は町へと出かけた。

 朝の様子とは打って変わって町には人があふれていて、蠢く人と人との合間を縫いながら継はただひたすらに歩き続けた。それは継の頭にやけに印象的に残った老講師の言葉について自身の内で消化するためであった。

 継が住む地域はエリア7の中でもとりわけ発展したシティー1、かつて「トーキョー」と呼ばれた都市で、他のエリアと比べても1,2を争う先進都市だ。

 海を埋め立てることにより拡張を繰り返し総面積約5000㎢となったこの都市には総勢3000万人もの人々が生活を営んでいる。その土地の大半はビルによって埋め尽くされ、中でも一際高くそびえ立つセントラルタワーは有名な観光地となっている。

 発展に発展を繰り返し、人々の欲望が造り上げた町。それがこのシティー1。

 多くの超高層ビルが所狭しと建ち並び、青空はその大部分を隠されてしまっている。その超高層ビルの多くは未だ尚、ビルの先端に巻き付くように設置されている工事ユニットにより伸長を続けていて、地上から見上げる空の全てがビルにより隠されてしまうのも時間の問題のように思われた。

 人々は今日も今日とていつもと変わらぬ平穏な日々を生きている。

 その平穏を打ち破るかのような鋭い悲鳴が上がったのは、ちょうど継が歩き疲れて休憩場所を探しているときだった。

「なんだあれは!」

「地面が…盛り上がっていく…!」

「事故か!?テロか!?」

 宙を見上げ怒鳴り声とも叫び声ともつかない声をあげる者。尻もちをついて唯々宙を見上げる者。どこかへ走り去っていく者。

 動揺はすぐさま人々の間を伝播していき瞬く間に広まっていった。

 人々が指さす方向に継が目を向けると、なるほどそこでは土が5mほどの高さまで盛り上がっていた。土は何かに下から持ち上げられるが如くそのまま盛り上がり続け、その中心から光る赤い球が現れた。脈打つように点滅を繰り返す赤い球はさながら拍動する心臓のようであった。球体は土を纏うが如くその周囲に漂わせたまま上昇を続けると地上140m辺りで静止した。

「なんだあれ…。」

継の体はいつの間にか震えだしていた。脳細胞全てがここに居ては危険だと、そう告げているかのように思われた。しかしながらそんな思いに反して体はまるで地に根を張ってしまったかのように動くことを全く拒否してしまっていた。冷汗が全身から流れているのが分かった。

 次の瞬間、球体は一際まばゆい光を放つとそこには巨大な「何か」が現れていた。するとその「何か」は手に持った槍のようなものを構えると、シティー1の代名詞とも言えようセントラルタワーめがけて投擲した。槍は直線方向へ空を切り裂きながら勢いよく飛ぶとそのままタワーを穿ち抜いた。かつてタワーであったそれは轟音を轟かせながら見るも無残な鉄くずへと帰してしまった。


 一瞬の静寂。


 あまりにも現実離れした目前の光景に人々の理解は追いつくことができなかった。そして誰かが発した悲鳴を皮切りに爆ぜるように人々は叫び声をあげながら方々へ散っていった。

「あり得ない…こんなこと…あり得ないよ…!」

継は群衆に揉まれながらも必死に走って逃げていた。目にはセントラルタワーの無残な最期が鮮明に焼き付いていた。

 家族とともに、一刻も早くここを離れなければ。そんな思いだけが継の頭を占めていた。

 振り返ればそこには金属的な外観をした巨大な「何か」が地面から若干浮遊したまま佇んでいた。継は前を向き直すと再び走り出した。

 直後背後から聞こえる爆音と悲鳴。

 

 見てはいけない。見てはいけない。

 何かが、恐らくはビルが、倒壊する音が聞こえた。何かが燃えている匂いが鼻を突いた。

「ふざけるな…こんなこと、あっていいはずが…!!」

すると10時の方向から戦闘機が飛んでくる音が聞こえ、上空をミサイルが通過した。

「軍の機体だ…!!これであいつを倒せる…!!」

誰かが叫び、続いて爆音が聞こえた。

 天を仰ぎ見ると継の遥か頭上を4機の人工AI搭載型戦闘機が高速で通過するのが見えた。再びミサイルを放つと戦闘機は敵前まで目視400mほどの距離まで近づき機関砲を掃射した。ミサイルは一直線に敵に迫り胴体と頭部に命中すると爆炎が広がり黒煙が周囲を漂った。

 誰しもが勝利を確信した次の瞬間、黒煙の中から金に光る触手状のものが複数現れ先行していた戦闘機二機を叩き落した。機体は急角度で落下しビルに激突すると紅い炎の華を咲かせ、その衝撃でビルは倒壊し隣のビルへと倒れこむ。

 響く轟音。逃げ惑う人々。

 その間、後続の機体へと触手が迫り二機はそれぞれ左右に分かれ急上昇すると回避行動をとった。

 継は走り続け、ようやく自分の住むマンションが見えてきた。すると継の家族がちょうどエントランスから荷物と共に出てきたのが見えた。

「父さん!母さん!沙耶!」

「おにーちゃん…!!」

「よかった!無事だったか…!!今からステーションまで行って、この町から逃げるぞ。」

 お互いの無事を確認すると勤は遠隔操作キーを使い車を呼び寄せた。白いEV式のワンボックスカーに乗り込むと勤はタッチパネルを操作し緊急時用のリミッター解除コマンドを入力した。

「よし、これで速度のリミッターは解除された。飛ばすからな。しっかりつかまっていろよ…!!」

継たちを乗せた車は急発進をすると大通りへと躍り出た。すると継たちの遥か後方で大きな発砲音が響いた。

「軍の戦車隊も出動したみたいだな…。なんてこった。こんなこと、信じられない…。」

「あなた、今はとにかく逃げるしか手はないわ。」

両親の会話を聞くと沙耶は不安げな声で継に尋ねた。

「おにーちゃん…私達、助かるかな…?」

見れば沙耶の顔は青白く、体は小刻みに震えていた。継は沙耶を安心させるべく出来るだけ自身の動揺を隠すように、穏やかな口調で

「大丈夫。きっと軍の人が何とかしてくれるよ。」

と言い、震える沙耶の手を握った。すると沙耶は安心したのか小さく頷くと継にもたれかかってきた。

 だがしかし目前で人工AIを搭載した最新型の軍の戦闘機が撃墜された光景を目撃した継にはその言葉が所詮気休めでしかないということが分かっていた。

 継達を乗せた車は道路上に散乱している瓦礫をよけながら駅へと続くメインストリートを走る。すると車の後方の窓から外の様子を見ようと顔をあげた沙耶が鋭く叫んだ。

「後ろ…!飛行機が…こっちに落ちてくる…!!」

見ればそこには炎に包まれた戦闘機がビルの壁面を削りながら勢いよくこちらへ向かって来ていた。

「父さん右…!!」

継がとっさの判断で叫ぶと、勤は大きくハンドルを切り車体は勢いよく右へ曲がった。その勢いで車内の人間は大きく揺さぶられる。継は沙耶が強く手を握ってきたのを感じた。

 戦闘機は継達のすぐ横に墜落すると激しい音を立てて爆発した。目前に広がった圧倒的な熱量に対し継は思わず目をつぶると沙耶を守るように抱き寄せた。爆風に押されながらもなんとか切り抜けると前方にステーションが見えてきた。

「よし、飛ばすぞ。」

勤の声を合図に継達を乗せた車はさらに加速をする。途中道路に落ちてくる瓦礫をすんでのところで避けながら継達はようやくステーションへと到着した。


 ステーションは既に多くの人であふれていた。プログラムに定められたとおりに稼働する高速モノレールは平常時と変わらず稼働を続けている。

「一番早く出発するのはシティー3行きのモノレールらしい。それに乗るぞ。」

勤がそう告げると継達は乗り場へと急いだ。

人ごみに飲まれながらも人の流れを整理しようとする警備ロボットを押しのけ、継達はなんとか車両に乗り込むと一息をついた。

「これでひとまずは大丈夫だろう…。」

勤はそういうと疲弊しきった顔でなんとか笑顔を作って見せた。母のめぐみは先ほどの光景が忘れられないのか、唇を固く結んでいる。

 車両内には定員を遥かに超える人数が乗っていた。中には負傷している人もいるらしく、血の匂いが時折漂ってきた。

 継は沙耶の手を今一度強く握ると、窓の外の景色を見た。モノレールがシティー3へと続く海上のレールの下を滑るかのように音もなく進み始め、シティー1から遠ざかるにつれ次第に町の全貌が見えてくる。

 それはまるで地獄絵図のようだった。発展の象徴ともいえようセントラルタワーをはじめとする大半のビルは倒壊し、町のあちこちから炎と共に黒煙が立ち上っている。崩壊した町の景色を眺めているうちに継は一つの違和感に気付いた。


 おかしい。

確かあの巨大な生命体はビル40階建て以上の大きさがあったはずだ。であれば、この距離から奴の姿が視えないのはどうにもおかしい。

 その違和感を口に出そうとした瞬間、かつて経験したことのない程の衝撃が継達を迎えた。それは時速600㎞を超える速度で進む車両が「何か」によって急停止させられたからだ、と理解する頃にはすでに人々は慣性の法則により前方へと投げ出されていた。

 投げ出された弾みで沙耶と繋がれていた手が離れる。

「おにいちゃん…!!」

 継がその方向を見やると、気を失った両親と自分よりも体重の軽い沙耶が遥か前方に投げ出されているのがスローモーションで視えた。そして同時に、車両の前方が何かによって切断されその向こうに巨大な金属質の胸部から生えた黄金の触手が蠢くのが視えた。

「沙耶ああああああああああ…!!」

 継は絶叫した。

 確かに繋いでいたはずの沙耶の手を再び掴もうとした手は空しくも虚空を彷徨う。蠢く触手の付け根あたりが地獄の窯のように開くと、その中にはマグマの如き赤が覗いていた。沙耶は後方に迫る恐怖に気付くと再び継の方を見やり、すべてを受け入れたかのような穏やかな笑みを浮かべるとこう呟いた。


「生きて。」


 滲む視界の中、継は両親と沙耶が飲み込まれるのを視た。続いて自分が切断された車両の外に放り出され、海へと落下していくのが分かった。

 落下の最中、朦朧とする意識の中で再び老講師の言葉が響いた。

「人類はいずれ何らかの形で『罰』を受けなければならなくなるかもしれん。」

その言葉を最後に継の意識は完全に途絶え、海へと落下した。

いろいろと試行錯誤しつつ更新していこうと思います。

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