48.交戦
邪神と目があった。
薄らと白く濁った灰色の瞳が俺の視界に入った時だった。
朧げだが、忌まわしき記憶が脳内に過る。
業火の炎の中、あいつは孤児院の子ども達を殺し俺の妹リチェーコに呪いをかけ、弱かった俺はそれを見ていることしか出来なかった。
ーが、
何かがおかしい。その記憶で正しいはずなのに、無意識に瞬きをするそんなような一瞬の時だった。
黒い髪の女性が倒れているリチェーコ、俺はリチェーコを女性の元から奪う。俺に辛そうに微笑みかける女性の口が動くが何を言っているのか聞こえない。
「おい、お前待てよ……おい!!」
弱い頃のあの幼い俺の声が聞こえる。
黒髪の女性を見ていると心が落ち着く、彼女は俺にとっての安らぎのようだ。しかし・・・
「…おま………×××!!」
彼女は誰だ??
「おいおい、なにぼさっとしてんだぁ!?」
「!」
ハッと前を向けば、俺と同じ剣を持つ邪神が剣を俺に向けて振り下ろそうとしていた。
片手に持っていた剣で受け止める。相手は小さな少女のような姿、だがこの力は姿形に全く似合うものでは無い。
あの女性は誰だなど、そんなことは今はどうでもいい。今は目の前の忌まわしき邪神を殺すことだけ専念すればいい・・・!!
彼らの交戦は周囲にとっては息を飲むものだった。しかし、その中で一人だけ、顔色一つ変えずこの交戦をジッと観察してるの人物がいた。
「はぁ」
人物・・・コシュリュコアはそんなことに気を逸らせる程の余裕は無かった。
(・・・御婆様、そんなに力を使っては・・・)
一週間前に何かがあったらしい。
詳しく御婆様と二人になってしまった子ども達に聞けば、一神の「ユニヴェート」と四人の神以外のもう一人の神を食べてしまったらしい。もう一人の名の分からない神は存在を消すようにひとつ残らず噛み砕いたらしい。
一神はこの学園の校長で、彼は一気に一噛みもしないで飲み込み、御婆様の中で人格だけ生き残っているようだ。
今、ソウス=ジェルアディーユが交戦している御婆様を操っている人格は校長だ。
けれども、一度に己と同じ力を持つものを二人も体の中に取り込むことは神であっても、かなりの負担になるだろう。
結果、今の御婆様は歩いただけでも、眩暈や吐き気を覚えたり、力を使いすぎると身体は悲鳴を上げ、吐血をしてしまう。
はっきり言うと御婆様の身体はボロボロだ、人間だと生きていておかしいくらいのものだった。だから、俺がこうして御婆様の体調管理の為に傍にいることとなった。
そういえば、校長の腕が発見されたと言っていたが、どうせ誰かの記憶を操作してそんな嘘の情報を流したのでしょう。
今日は好き勝手させてと言われましたが・・・これは、
御婆様がいや、校長がソウス=ジェルアディーユに向けた力の使用回数を指で数える。数え終えた時、コシュリュコアの顔色がぞっと青白くなった。
「もう、使用回数を超えている・・・」
ーーこれ以上はいけない!!!
校長の視界に俺が入った時、すぐに頭を三回横に振った。これ以上は危険という合図だ。
俺の合図に気が付いた校長は、御婆様の顔を酷く歪ませ、舌打ちをする。
ーもっと、やりてぇ・・・
ーこれ以上御婆様の身体で動いてみろ、お前を殺すからな。
声に出ていないが俺とあいつの考えていることは大体互いにわかっている。
あいつはソウスの攻撃を横に避けると、物足りなさそうな顔をしていたが、唐突に顔を嬉しそうにニヤニヤと笑い始めた。
どうやら何か悪い事でも思い付いたのだろう。
「あっそうそう、ここのあの美しくて優しい校長先生を殺したのは私、四神ことインフェルオヴィンよ!さらに、卒業前の男子生徒の行方不明事件も全てこの私!!あの男どもは私が美味しく頂きましたわ。それでは、私はここで退室いたしますわ。ごきげんよう」
「待て!!!」
貴族の女のあいさつのように両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げ、その上で腰を曲げて頭を深々と下げ、膝もより深く曲げると御婆様の可愛らしい声でふざけた挨拶をした。
校長は影に捕まりいつの間にか気を失っていたタゥロと一緒に御婆様の足元にある影の中へと姿を消していった。
(あいつ、なに自己評価してんだよ)
あいつが去った後に残ったのは、切れ目の入った地面、柱。氷の破片がそこら中にぺキペキと音を鳴らしながら、壁に張り付いている。そして、傷だらけのソウス一人がその中心に息を切らしながら立っていた。




