キロ君 1
母さんは今、苦しそうに赤黒い血を吐いていた。
六年前までは姿そのままの黒髪だった母さんの髪は白金、髪先だけはあのころのままの黒髪。髪だけではない、瞳は視界が見えているか不安になるほどに濁った灰の色。右頬には黒く頬にヒビが入ったかのような痣。
そして、死人のように冷たい体。
「っ……ごめんなさい…ごめんなさい、守れなくてごめんなさい………助けられなくてごめんなさい、弱くてごめんなさい…ごめんなさい…………ごめんなさい…皆…ごめんなさい…」
今にも死にそうな姿になってしまった母さんは俺にしか聞こえない声で涙を溢しながらブツブツと呟き始めた。
<……母さん>
ただ俺は、そんな母さんを小さな俺たちの母さんの背中をさすることしか出来なかった。
あの時……
カーリーの頭が潰れたあと母さんたちが突然、黄色の箱のなかに閉じ込められ、俺たちは人の姿をした化け物のような女に襲われた。
ただ恐怖で呆然としていた俺をジャファーは殴った。そして俺に、まだちゃんと肉体があるそこらに転がっている奴らとカーリーを女に見つからない安全な所に隠せ、あの女の気をこっちに向けておくから、その隙にロリエと二人でやれ!といつも気楽でヘラヘラしているやつが突然、俺に命令をした。
あの時思い返せば、あいつの判断力は凄かった。
仲間の一人があんな姿になってもああやって冷静に俺に命令をしたのだから、それに他のやつらも良く恐怖に硬直せずに動けたことも。
そして、俺は近くにいたロリエとともに精神だけのカーリーと肉体のある彼らを隠れるに丁度良い大きさの茂みに隠していた。
その時は彼らを動かすことに夢中であいつらの身になにが起きているか、全く知らなかった。
知ったときは、母さんの恐ろしい姿を見たときだった。
<なんだよ…あれは……!?>
いつもの優しい母さんとは全く似ても似つかない程の姿。そして、あいつらの気配が全く感じられない静寂さ。
<ジャ…ジャファー………?>
あいつの名前を呟いた。しかし、返事はなかった。
必死に俺たち以外のやつらを探そうと周囲を探していた時だった。
あの女が姿を変え、母さんをバラバラし、そして表に出ていた母さんを消した。
そばにいたはずのロリエは俺と同じことを察したのだろう。
それを消してはいけない、お前よりもやばいものがくる…………と。
だから、ロリエの存在に気が付き、ロリエを掴んだ女に対してあいつは掴まれながらも叫んだ。
<キラキラの化け物!!逃げて!!!!!>
<あ……>
バリ…ボリ……
母さんが旨そうにまだ生きている女を何回もよく噛んで食べていた。
女は悲鳴を泣き叫びながら食べられていた。
ジャファーを、皆を、仲間を食べた女を母さんは美味しそうに食べていた。
複雑な気持ちになりながらそれを見ていると、ロリエは泣きながら母さんの大きな手に抱き付いた。
<もうやめて、もうママの怖いところ見たくない!いやだよ!私もう、ママのこんな姿見たくないよぉ!!>
泣きわめくロリエ…
母さんには届かないと思っていたが、ロリエの声が届いたのか、母さんは食べるのを止め。ロリエを見た。
<ママ…!!>
俺はこの時、ロリエの声で母さんが元に戻るとは思っていた……が、
母さんはそのままロリエをなぎ払った。
ロリエをなぎ払った後、母さんは女の全てを食い続け、完食する。そして完食すると元の姿へと戻り、ゆっくりと地面に倒れた。
<母さ……ん……?>
同時になぎ払われた小さく軽いロリエはゆっくりと宙を舞い、そしてそのまま地面へと急落下した。
<ロリエ!!!!>
本来なら、カーリーのように頭を潰されても精神が無事ならそれで大丈夫……
でも、今、ロリエを飛ばしたのは、俺らをこの体にした張本人。
とても嫌な予感がした。
<…っ!?>
急いでロリエの落ちた場所にいけば、そこには俺たちの核、精神が半分も砕け落ちた死にかけのロリエがそこにいた。




