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43.自分を呪った

かなり空けてしまって申し訳ありませんでした。



ーー昔、昔の言い伝え、良く母親が子ども達に言い聞かせる言い伝え。




影に向かって四神様の名前を呼んではいけない。



邪悪な四神様は影から私たちをずっと補食するために狙っている。でも、安心して頂戴、影を恐れることはない、だって四神様は自力で影から出れないから。


邪悪で小賢しい四神様は影から出ようとありとあらゆる方法を使ってくる。


だから、四神様の名前を影に向けて呼んではいけない。呼んでしまえば四神様はそのあなたの声という道を渡り、地上に降り立ってしまうから。


道がそこにあるかぎり、四神様はずっとずーっとあなたを狙う。




道が亡くなるまで、ずっと…………




…安心だからと夜道を一人で歩いては行けない。

早くお家に帰らないともしかしたら四神様に食べられてしまうから……。






キラキラと輝く金の風が私の体から吹き荒れる。

その風は徐々に量を増し、気が付けば巨大な竜巻へと姿を変えていく。


「インフェルオヴィン…あなたのような汚らわしいものが私の姿を拝むことは死と同じ……」


金の竜巻が私の周りから薄れ、離れていく。

そこには、人々がその姿を見てしまえば反射的に頭を下げ永遠と拝み続けるような雰囲気を身に纏い、ドラゴンの胴体に眩いほど神々しい金の鱗を持ち。四本の足、そして頭には全てを照らす白金の角。背には日輪の形をした円を身に付けた美しい生物がゆっくりと両手を広げる。


「汚らわしいものよ…早く跪くのです、神の前ですよ?」

私はゆっくりと片方の人指を下に下げる。

人指を下に下げればインフェルオヴィンは私の圧倒的過ぎる力によって地面に跪くはずだった。


しかし、インフェルオヴィンは人指を下げた瞬間骨と骨が盛大にぶつかる音を一つ鳴らす。するとバラバラと音を立てながらインフェルオヴィンは崩れ落ちていった。

「は?」


それはそれは呆気ないものだった。


ただ、人指を下げただけでインフェルオヴィンは全ての骨を何故か黒く変色した地面に落としていったのだから。


先ほどまで骨と骨が結合体となり、巨大な化け物として存在していた場所には不気味な黒い炎がぽつんと浮いていた。



……なにこれ、弱い。


溜め息が出るほど弱い、まるで産まれたばかりの赤子と戦っているようだった。

どこから見ても、あの炎はあいつの核だ。

なにか仕掛けてくるかと警戒したがあの炎からは何も感じられなかった。

「なんか……がっかりだなぁ」

肩を落としながら、指を鳴らす。

すると、私の合図で物陰に隠れていた私の魔物達が私の周りに集まっていく。


「ほーら、お前たちあのゴミをお食べ」

私がインフェルオヴィンに指を指すと魔物達は下品に(よだれ)を滴ながら、あいつの残骸に飛び付きボリボリと騒々しい音を出しながら食い散らかし始めた。


食われていくあいつを見下しながら私は口を開き言葉を発する。

「どう?見たこともない魔物に食われる気分は?あーそういえば、貴女知らなかったっけ?……実は魔物って私達の手で死んでいった虫けら(ども)なのよ。神の手で死ねて、尚且(なおか)つ私の下僕として永遠に体が朽ちるまで私の下僕なんだよ。だからとーーーっても、名誉な生き物なのよぉ」


羽を持つ魔物があいつの炎を攻撃した。しかし、炎はまだ小さく宙で炎を灯していた。


<あ…>

小さな声が遠くの茂みから聞こえた。野蛮な魔物たちには聞こえないくらい小さな声で…




……あぁ、まだ食べ残しがいた。



人差し指を右に振ればその茂みは塵となり、そこに隠れていたものが見える。

そこにはあいつの子の精神が気を失った一神のコレクション共を庇うようにそこにいた。


そういえば、一神のコレクションを食べていなかったなぁ……ついついあいつの餓鬼共のことばかり考えていたからなぁ。



「そんなところにいたのか…」

私がゆっくりと餓鬼を掴もうと手を伸ばす。

餓鬼は何故かぴくりとも動かない、どうせ後ろにコレクション共がいるからだろう。


「すぐにあの世でお母さんに会わせてあげるから、安心しなさい」


優しく、柔らかい笑みを浮かべながら餓鬼を握った時、丁度その時にあいつの炎が魔物たちによって消えた…消えた瞬間、炎から女の小さな悲鳴が聞こえたがすぐに炎とともに消えた。



その瞬間を見たとき自然と微笑みを浮かべる。

何年も何十年何百年もずっとずっと待っていた、インフェルオヴィンに勝つことを!

それが、今ここであいつを殺した!!



「やったぁーー!!」


私が最強の神様に、私が唯一の神様に!!

唯一の存在に…!











<キラキラの化け物!!逃げて!!!!!>



手の中で餓鬼が叫ぶ


「…は?」

煩く、耳を塞ぎたくなるような野蛮な声。


そして、気が付けば私の右肩から滴る紅い鮮血。

「いだっ!」


じわじわと痛みが現れ、右肩を恐る恐る目をやると、そこには何もいなかった。



「っ!?」

何かに噛まれている感覚はある、しかし何もいない。戸惑う私へそれは徐々に噛む力を増して行き、私の美しい血が汚ならしい黒い地に色を付けてゆく。


これは、あいつに違いない…だがあいつの姿は何処に…も………ま、まさか…まさか、まさか!!?


私の血が落ちた黒い地を直ぐ様見下す、黒い地には複数の目のようなものが此方を見つめ、その目の中心には二つの目、長さが整っていない鋭利な牙がまるで、私を補食するかのようにジッと向けていた。そして、この呆れるほどでかい私の足元に存在する黒い地は…



「インフェルオヴィン!!!?」


声を荒げながらあいつの名を口にすると、不気味な口を歪ませ、噛まれていた感触が消える。





「ア…名前ヲ呼ンデクレテ……」






影はゆっくりと私の目の前に、その巨体を、先ほどの己の残骸を吸収しながら現れた。


「あ……あぁ……」


体は硬直され、黒と白の硬い鱗があいつを守るように現れてゆく、顔には二つの目…だけではない、顔の至るところに大量の焦点の合っていない目、さらには四つの黒く気味の悪い角が生えていた。


それだけではない、先ほどの残骸が所々体から飛び出てる…そして、胴体から生える首が二本。


片方は硬い鱗に覆われたあいつの首、そしてもう片方はそれはとても神秘的に思えるほどの美しい純白の毛を持っていたはずのあれは薄汚れた黒白い毛へと……変わっていた。



その荒れ果てたあれの姿に私は息を飲んだ。




「嘘だろ…なんだよこれ、こんなの……こ、こんなの嫌だ!!!!」


「私ヲ呼ンダノハ……アナタ」



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!あんな、あんな姿に私はなりたくない!!

「呼んでない!!帰れ!帰れ!頼むから、帰ってくれ!!」


何故だろう、私は動けなかった。

まるで金縛りに合ったかのように、まるで補食者に睨み付けられた虫けらのような……


「私ノカワイイ子…タップリカワイガル」



子どもを可愛がる、母親のような声。

その優しい声はそれはそれは気味の悪く、不気味なほど…いや、不気味そのものから発せられたものだ。


(ばけもの)だってわかる……



こいつはこの世にいてはいけない神様(ばけもの)だ。



気が付けば、神様(ばけもの)は長さが揃っていない牙が生えた口をゆっくり歪ませ、私の頬を優しく両手で包んでいた。優しく温かく、ヘドが出るほどの恐怖に満ちた気持ちの悪い手で…



「グチャグチャ二噛ンデ、潰シテ…全部、全部、(コロ)シテアゲル」




それはそれは、とても気味の悪い神様(ばけもの)が私に向けて口を開いた時、私は…………




「あ……あぁあ…」



神様(ばけもの)と本気で戦おうとした自分を呪った。




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