24.フェルル=インフェルオヴィン
「まぁ、私はもう年だし………あ」
コシュリュコアが手紙の内容を読み上げていた途中に何故か抜けた声を出したあと、頭をポリポリと指で髪をかき乱しながら何かを考えて始める
髪がぐちゃぐちゃに乱れていくのを見たナシキは目をつり目にし、右手でコシュリュコアを指しながら叫ぶ
「ってココア、私がせっかく編んであげた今日の髪型をなにぐちゃぐちゃにしてるの!そもそも今朝の髪紐はどうした!?」
「…捨てた、俺結ばれるのいや…」
「ざっけんなぁ!」
そういえば、気が付いたら髪紐が無くなってたけど
あれはコシュリュコアの仕業だったんだ…
どうやらナシキが髪型を崩されたのが気に触れたらしく、颯爽とコシュリュコアに乗り掛かりそのまま勢いよく拳を降り下ろそうとしていたところをキシナが止めにはいる
「ナシキ…ほら、話途中だよ…あとでココアをボコボコにしていいから今はシッだよ」
「…わかったよ」
ナシキは小さく舌打ちをしたあとコシュリュコアを軽く一蹴りし、近くにあったソファの上に思いっきりのし掛かった
「…おばあちゃん、あ、邪神さん…こっちこっち」
コシュリュコアは先ほどから暴力を受けているはずなのに全く感情一つ変えず、ゆっくりと上半身だけを起き上がらせ床に座った体型で手紙を持っていない手で私を招き始めた
「え…?」
「こっち、きて」
訳もわからずコシュリュコアに近づくと彼はいきなり私の後頭部をその招いていた手で掴みそしてそのままグッと引き寄せる…
「!?」
そして、私の唇が彼の首筋に当たる…
そこは抱き合っているというやつなのか…
いやいやいやいやいやいや!!
私とコシュリュコアはそんな関係じゃなーい!!
「…って、ありゃ?」
気が付くと私はまたコシュリュコアの部屋の中にいた
けれども、いつものではなかった
いつもの彼の部屋は真っ白な空間が広がっていただけだったが、今回はキシナ、ナシキ、コシュリュコアが暮らす家のリビングに瓜二つな空間に二つの椅子と二席の間には円形の小さなテーブルがぽつんとそこにただ置かれていた
「こんにちは」
そのうちの一つの椅子から優しくて暖かみのある女性の声がした
「こ、こんにちは…」
なんとなく返事を返しながらその声の主に近づくと段々その人の姿が現れ始める
最初に目に入ったものはコシュリュコアたちと同じ藍色の首筋までの長さできちんと整えられた髪
次に入ったものは頬のしわを寄せながら微笑む女性こと老婆の笑顔、そして黒い瞳
老婆は私と同じ髪と瞳の色が違うものだった
「あなたは?」
老婆の髪には黄色い花の髪飾りが付けられており
とても彼女の髪と合い似合っていた
「私はあなたの前の邪神インフェルオヴィン…本来の名前はフェルル=インフェルオヴィンっていうの、あなたに色々と話しておかないといけないと思って死ぬ前にコシュリュコアの部屋に少し小細工をしておいたお陰で今こうしてあなたとお話が出来ているのよ」
「本当に…私の前の人なんですか?」
「えぇ本物よ、根拠と言えば……今こうしてあの子の中であなたとお話していることかしら?」
老婆…フェルルさんはクスクスと笑いながらテーブルの上にある紅茶に手をかける
…本物っぽいかも
「ほら…立ち話もあれだし、座りましょ?
えーっと…失礼だけどお名前は?」
「イオン…真井 一恩って言います一応、真井は家の名前です」
私は自分の名前を名乗りながらフェルルさんの目の前にある椅子に座る
彼女は二口紅茶を飲むとカップをテーブルに置く
「あらあら、あなたってば邪神の名前を略すとイオンになっちゃうわね!私も何気に名前の中にあるのよねーほら、インフェルのフェルってね!」
お互い様ね!と微笑みながら空のカップに何処からか現れたティーポットを注ぐ彼女
「はぁ…」
何だろう…この人全然、おばあちゃんって気がしない…若い女性と話してる気分だよ
「さてと…お話しましょうか」
フェルルさんは注ぎ終えたカップを「どうぞ」と私の目の前に置き、今度は彼女が指を鳴らすとテーブルの中心に焼き菓子の入った皿が現れる
「まず最初に私たち邪神は世界を壊すために生まれました、邪神五人がそのまま何年も生存していた場合世界はすぐに寿命が尽き終焉を迎えたことでしょうけれども、私はこの世界が滅びるのは勿体ないと思い一人の邪神を食い殺しました。
すると邪神が一人消えたお陰で数十年世界の寿命が増えました……」
……え?
「ちょっと待って下さい!」
私は勢いよくテーブルを両手で叩いた
「はい?」
「手紙でも思ってたんですが、邪神が五人ってどういことですか!?あれ…調律者は?」
フェルルさんの話は嘘には聞こえない、けれども
あの私をこの世界に導いた女性と言っていた事が違う…
「調律者など、この世には居ません…神は邪神のみ邪神は私含め五人です…多分その様子だと、かなり嘘を言われていますね…誰です?教えた人は」
「…私を邪神にした人で神々しい…感じの黄色っぽい女性でなんか、自分で神って言ってました」
そういえば私あの人から名前を教えて貰っていなかった…今度聞こうかな
「イオンさん、その人は注意した方が良いです
いえ…注意してください何か嫌な予感がします…」
先ほどとは全く異なる低い声で私に注意をするフェルルさん
…確かに、今の話が本当ならあの人から嘘を言われましたし…
「さてさて、話を戻しますねー
私が邪神一人を食い殺したせいで私はほかの三人から敵視され、いつの日か彼らと会うと殺し合う日々に…邪神を殺すためにはその邪神の神器で殺さなければいけません…神器を奪うのは至難の技、私は奪うことがとても苦手でいつもほかの邪神を食い殺していました…」
フェルルさんは話を途中で区切ると左腕の長袖を捲り上げる
「…え?」
そこには肌色は黒ずみ皮がベリベリに捲り上がった少し力を加えれば壊れてしまうのでは?と思うほどボロボロのミイラのような左腕
「さて」
長袖を元通りに下げ直すと彼女は何処か遠いところを見つめているかのような目をしながら語る
「私は食い殺し食い殺し続けたせいで、左腕はもうボロボロになってしまった…邪神を食べると言うことは邪を体に取り込むということ…体はどんどんボロボロになっていく、でもこっちだって邪神だもの一人、二人ならこうはならないわ…一人、二人ならね…………でも私は六十五人を食い殺してしまった」
「お陰で左腕と右耳、そして両足はもう使い物にならなくなってしまったは……」
横上を右耳にかけ右耳が見えるようにかけられる
そこには黒ずみボコボコに膨れたものが潰れてしまったかのような耳の原型を一切していない右耳がそこにあった
六十五人…
私はこの人数にすぐに疑問を抱いた
邪神はフェルルさんの話では彼女を合わせ六人
人数が足らなさすぎる
「……邪神はあなたを含めた五人では?」
「そう、そうよね…私も五人だけだと思い殺っていったのわ」
「でも違うの…邪神は殺してもまた蘇りまた殺してもまた…また…と繰り返していくのよ」
砂糖の塊を紅茶の中に入れスプーンでかき混ぜながら、紅茶にできた渦を彼女はただじっと何処か遠いところを見ているかのように眺めていた
「それは…何でですか?」
「何で?それはね…
邪神を全員殺さないからよ
一人の邪神が消えても他に邪神が一人でもいるとその邪神は蘇る、何十年かけて…そして世界を生かすためにはこの世の邪神全てを殺さなきゃいけないのよ…」




