2.少年少女たちは私の話をあまり聞かない
走るのが大好きだった
初めは小学生のころのマラソン大会で10位を獲り、お母さんは私の大好きなプリンを買ってくれた
次のマラソン大会で3位を獲るとお母さんはパフェを作ってくれた
次の次で1位を獲るとお父さんがゲーム機を買ってくれた
ただ走るだけで物をくれることが嬉しかったけど、お母さんとお父さんが笑顔で喜んでいたのが一番嬉しかった
だから、私は走ることが大好きだ
中学校で陸上部に入りすぐにエースになった
大会になるとお母さんとお父さんが仕事を休んでまで応援に来てくれたこともある、私の走っている姿を見られるのはとても恥ずかしいけど、嬉しかった
将来は陸上選手として、世界で活躍するだろう
そうお母さん、お父さん、友達、先生、周りの人から期待されていた
でも、私はもう走れない
「…ん」
私は重いまぶたをゆっくり開けた
目の前には真っ白な空間でも真っ黒な空間でもなく、簡単にいうなら森だ
周りは木と草、そして見たことの無い動物しかない、流石に私が暮らしていた世界にこんな大自然はない
「やっぱり、異世界なのか…」
確か、あの女性は私を異世界に送り、そこで神様として暮らそうとか言っていたが…
「私、神様…?」
私は自分の体を見てみるが、いつも通りだった、別に角が生えたり、羽が生えたり、無い右足が生えてる訳でもない
「どうみても、人だよね…」
いや、もしかしたらこの世界では私の出身国、日本特有の黒髪黒目はいないとか、悪魔の使いとかじゃないよね…暇なときに読んでた異世界トリップの小説みたいなこととか、ありそうだし…
--ガサッ
「ひっ!?」
草むらからの物音に、私は身を固める
「な、なに?」
「あ、女の子だ!」
草むらから現れた少年は私を見てそう言う、どうやら物音は彼の仕業だったようだ
「ねぇ君どうしたの?迷子?」
「えっと…」
別に迷子では、無いんだけど…どうしよう、素直に違う世界から来ましたっていう?いや、頭がおかしいって思われるよね…
私が言葉に詰まっていると少年の後ろから複数の少年少女が顔を出し、私を見つめる
「ちょと、置いてかないでよ…ってその子どうしたの!?」
「あ、女の子だー」
「迷子かな?」
「きれいだねー、国を追われたお姫様かな?」
「そんなわけないでしょ…」
「ねぇねぇお姫様なの?」
「いや、迷子でしょ」
「でも、きれいだし、本も持ってるよ」
「ほんとだー、でも服ダサいよ」
「ねぇ、お姫様なのー?」
「え、えぇ??」
少年少女たちは私に全く警戒せずに近づきまじまじと見つめ、私に質問をしてくる
「えっと、お姫様じゃないよ」
「ほんとー?悲しいなー」
「ほら、言ったでしょ」
「あ、もしかしたら、元お姫様とか」
「ありえるかも!」
「ねぇどうどう???」
…お姫様でもなんでもの無いんだけどなぁ
子どもにダサいと言われた私の服装はTシャツと長ズボン、ただそれだけ うん、 ダサいね…
「おやおや、皆さんどうしたの?」
気がつくと少年少女たちの後ろには優しそうな中年男性がたっていた
「あ、院長先生ー」
「院長先生だ」
「院長先生、この人ねー元お姫様なのー」
「お姫様だよー」
「いや、だから違うってば…」
何故か、少年少女たちは私のこと言うことをあまり聞いてくれず、少年少女たちの中で私は元お姫様に決定したようだ
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて…ところでお嬢さん、こんな所にこんな時間に来ては危ないですよ、一体何故ここにいるか不思議ですね、訳を話し…」
「…っ」
院長さん、お願いします訳を聞かないでください。違う世界から来ましたって、頭おかしい人って思われたくないんです
聞かないでくださいいいいっ!!
「…」
私のその訳を聞かないでという思いが伝わったらしく、院長はため息を吐き
「…どうやら訳があるらしいですね、どうです?私たちの家に来ませんか?ベッドはありませんが温かいご飯はありますよ?」
「…っ、ありがとうございます!」
院長さんの優しさのお陰か、
院長さんが一瞬神様に見えた
こうして私は、心優しい院長さんと少年少女たちの家にお泊まりさせていただくことになりました。
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