魂
ぽかぽかとした陽気に包まれる、人気の無い小道。
緑の芝生を刺繍のように飾るのは、色とりどりの花。
そんな外面も内面も暖かくなるこの地を歩く、二人の男女。
「綺麗ね~。すっかり心地よい気候になったわ」
そう言って隣の男性に話しかけるのは、ブロンドのウェーブがかったロングヘアの女性。女性と言ってもまだ幼さが残る顔立ちで、ガラスのような綺麗な翡翠の瞳を持つ。
ピンクと白が基調の可愛らしい服を纏っており、頭にはヘッドドレス。両手には黒の薄い手袋を着用し、ちょっとした高貴な人が開催するお呼ばれに、参加できそうな出で立ちだ。
「歩いてからだいぶ経つけれど、ラスは疲れてない?」
女性がラスと呼んだ背の高い男性は、頭をポリポリ掻き何も言わなかった。
少々無造作な短い黒い髪。あまり頬などの筋肉を動かして無さそうな、整った無表情な顔。
だいぶくたくたになっている白いシャツの上から羽織るのは、袖の無いカーキのフード付きジャケット。色褪せた黒いズボンは、所々擦り切れ修繕した跡が目立つ。
「ふふ、そういえば私の関節もそろそろ悲鳴を上げそう。ラス、あそこに岩があるわ。行って一休みしましょう」
女性は何とも外見年齢的にそぐわない発言をすると、何人もの旅人が座りこなしたかのような、丁度いい椅子大の岩まで辿り着いた。
手に持っていた荷物を置き、上品に岩に座る女性。もう一人分座る場所を空けていたので、そこへラスという男性が何も言わず座り、同じく荷物を地面に置いた。
「次の町はどんな町かしらね。素敵な町だといいわ」
そう話しかける女性を、何も言わずじっと見つめるラス。
「……分かっているわ、どんな町でも長居は出来ないってこと。でもね、ラス。私は色々な町や人が見れてすごく楽しいのよ? それは嫌な所もあったけど、ラスがいたから苦しくはない。この二人旅、出来る所まで続けてみましょう」
女性はラスに笑顔を向けると、何やら馬の駆ける音が、どんどんこちらへ近づいてくるのが分かった。
ラス達は音のする方向へ振り向くと、二頭の馬を操る女性らしき人。その後ろには、鮮やかな移動小屋のような大きな荷車。
「丁度良かったわ! 途中まで乗せてもらいましょう!」
女性はそう言うと、すぐさま岩から離れ、移動小屋に向かい手を振った。
「すいませーん!」
次の町に向かう途中で載せた人達は、とても若い夫婦のように見えた。
「お兄さんとお姉さん、幼馴染なんだね」
ガタガタと揺れる移動小屋の中、シノンは二人に向かってそう話した。
「てっきり“新婚旅行”しているのかと思った」
(覚えたての言葉を口にするのはいいが、どう考えたって徒歩で新婚旅行は無いだろう)
カシスのツッコミを受ける。いつもならその場で返すが、何せ初対面のこの二人にはカシスの声は聞こえない。普段は何故か聞こえるベルがいるから気兼ねなく話すが、今回ばかりはそうはいかない。
「確かによく『新婚さん?』とは聞かれるのよ。君の言いたい気持ちも分かるわ」
「僕のことは“シノン”でいいよ、お姉さん」
「じゃあ私のことは“アメリア”って呼んで。こっちのお兄さんは“ラス・タグアス”っていうの。多分“ラス”でいいわ。ちょっとの間だろうけれど、宜しくね」
アメリアという女性は、笑顔でそう話す。対照的に、恐らく移動小屋に入って来た時から何も言わない、ラスという背の高い男性。見慣れない小道具が気になるようで、先ほどから不規則に揺れる床の上に立ち、小屋の中を見物している。
「あ、気にしないであげて。ラスは興味を持ち始めるといつもああなの。暫くは何も言っても聞こえないわ」
「ラスってお兄さん、喋れないの?」
(馬鹿、単刀直入に聞き過ぎだ! 少しはデリカシーを持て!)
「不器用で口下手なだけなのよ。悪気は無いから許してあげてね」
そう言って、アメリアも移動小屋の中の物に興味を持ち始めた。
「旅芸人一座って初めて見るのよ。ここはシノン君と団長さん二人でやってるの?」
「えーと、実質的には二人だろうね。団員も増えていく予定だったけど、なかなか見つからなくてさ。ねー、ベルさん!」
「痛いところを突かないでおくれ! ま、予想はしていたが現実はそんなもんさ」
あれから各地を周り、公演を重ねていくにつれシノンの芸のスキルも上がっていった。そして必然的に直面したのは、一座の団員不足の問題だ。
何かとベルは万能であるので、手品から司会、大道芸や音楽など様々な事をこなすが、やはり一人では限界がある。何かとその万能さに助けられたことも多々あるが、ベルに負担をかけさせたくないというのも、シノンとカシスの思いであった。
「僕やベルさんも、その時その時でスカウトできそうな人を探してはいるんだけどね。でもこの一座の“方針”がちょっと特殊だからさ、実際見つからないのが現実でさ」
ベルはこの一座を“日の当たる場所”、つまり世の中の不条理に苦しむ人の居場所にしたいと言っていた。それは今になっても、変わらずだ。
ベルやシノンとカシスが、迫害される立場というのもある。何の考えも無しに、所謂“普通”の人を招き入れれば、それこそ団員の境遇に驚き、逃げてしまう可能性だって十分に有り得る。
勿論、そんなことを気にしない“普通”の人も居るだろうが、現実そのような人はなかなか居ないのが実状だ。
「それよりアメリア、僕の手品見ない?この前大成功した手品があるんだ! 小さな箱から、大小さまざまなぬいぐるみがいっぱい出てくる手品! 良かったらラスも……」
「ストップシノン!」
そんなシノンの言葉が聴こえ、ベルは手綱を持ちながら、外から制止をかけた。
「忘れたのかい? マジシャンたるもの、観客に事前に経過を説明するのはタブー! これから起こる事象にに想像がついて、何が面白いんだい?」
「うわっ、しまった……!」
「最近上達したからって、少々浮かれ過ぎじゃないのかい? 少しは気を引き締めな」
シノンは見ても分かりやすくしょぼくれた。ベルと呼ばれる団長は、とても厳格な人なのだとアメリアは思った。
「ごめんね二人とも……そういう訳でこの手品は出来ないや」
「見たかった……」
突如として低い声が聴こえ、シノンは驚いた。ラスがシノンを見て、喋っていたのだ。
「あ、ラス。声出すの今朝ぶりね」
(どんだけ喋りたくないんだこの男……)
そうツッコむカシスの声。彼女も驚いたようだ。
「気にしないでいいのよシノン君。良かったら他の手品、見せてほしいな。あ、勿論タダとは言わないわ、それなりにチップも払うわ」
「いいよアメリア、マジシャンとしてあるまじき行為をしたお詫びだよ」
そう言って、空中で何かを掴んだかと思うと、二輪の花を出現させた。驚く二人が拍手をするのを忘れている間に、シノンは花をアメリアの髪に、ラスには胸ポケットに花を挿した。
「すっごいよシノン君!」
「……驚いた」
そんな二人の観客の心を掴んだ様子を、外に居るベルは微笑ましく聴いていた。声はしないが、きっとシノンも喜んでいる。ベルも今まで教えてきた甲斐があったと、意気揚々に道を進もうとした。
その時。
(止まれベル! 頭上だ!!)
カシスの制止が届き、ベルはすぐさま手綱を引き、馬を停止させた。
急停止した移動小屋の中は、勿論バランスが崩れ、シノンは良い具合に寝床を畳んだクッションに激突。アメリアはラスに抱えられどうにか無事だったが、ラスはどこかにぶつかり少し額が切れたらしい。大したことは無いが、流血している様子にアメリアは驚いた。
「ラス!? 大変、今手当を……」
突如として、轟音が聞こえた。
何かを豪快に切り崩したような、つんざく音に思わず耳を塞ぎたくなる。
音が止み、シノンは何事かと外に出ようとした。
(無暗に外に出るな。私の予感が正しければ……)
「トワロ、セリエ。“静かに”するんだよ」
そんなベルの声が聞こえる。トワロとセリエは、馬の名前だ。いつも滅多な事で騒いだりはしない二頭に、そう話しかけたということはと、シノンは勘付く。
「アメリア、ラス。息を潜めて」
シノンは静かにそう言うと、二人とも何も言わなくなった。
聞き耳を立てると、なにやら周りが騒がしい。小窓はあるものの、迂闊に外は見れない。
カシスに第六感で何かを感じないか、シノンは感情で訴える。
(恐らく……盗賊だ)
「さてと、こんな豪快な挨拶をするんだ。何か私に用ってことだよねえ?」
切り立つ崖のある小道に立ち往生している、移動小屋。真正面には、崖から落ちてきたであろう大岩。そして都合よく現れ移動小屋を取り囲んでいる、薄汚い格好の武器を持った者達……典型的な盗賊だ。
「全く、一思いに潰れてくれれば、怖い思いをせずにすんだものの」
「中々の大所帯じゃないか。うちにも少し分けてもらいたいくらいに」
ざっと30人位だろうか。素直に羨ましいとベルは感じる。
「頭! このアマ俺らを舐めてやすぜ!」
「とっとと金目のもん奪ってしまいましょーよ!」
成程、結局は金目当てかと、ベルは何の気なしに思った。
どこかでベル達の正体がばれて、不気味に思った誰かが始末の依頼でも出しているかとも考えたが、それは杞憂であったことが分かる。
しかし、困った状況には変わりはない。
「いいか! 見た所旅のサーカスみたいだ! もしかしたら金目の“物”より“人”が居るかもしれん! 女は殺さず連れて帰るぞんぎゃぁっ!?」
盗賊の頭らしき人物が、一瞬にしてベルに捻じ伏せられている光景を目にし、他の盗賊たちは目を疑った。
「いいいい痛い痛い痛いから放せええええええ!!」
「放せと言って放す馬鹿は」
ベルは手刀を入れ、失神した頭はそのままぐったりと静かになった。
「悪いがここには居ない」
どよめく盗賊達。ここで団結力の無い奴らはそのまま退散してくれるが、とベルは予想する。
「何を戦いている!? いいからお頭の仇だぁー!!」
いや別に殺してはいない。今日は不運だとベルは感じていた。ベルは少人数なら相手に出来るが、ここまで多いと埒が明かない。
観念したかのように、ベルはすぐさま移動小屋向かって大声を出した。
「あとは自分達で何とかしておくれよ!」
一斉に盗賊達が襲い掛かる。その内の数人が、移動小屋のドアに近づいた。
ドアが、突如として吹っ飛び、盗賊達が将棋倒しになる。ラスがアメリアを抱え、蹴りを入れたのだ。
そこから飛び出て来た、小さい影。シノンはちょこまかと盗賊達の間を走り抜け、何かを撒いていった。
すると何かの爆発音が、連なるように盛大に鳴り出した。それはさながら銃撃戦のような音で、盗賊達は怯んでしまう。
その隙を突いたベルが、一人ずつではあるが確実に攻撃をし、盗賊を気絶させていく。
「手品用の爆竹が、まさかこんな風に役に立つなんて」
(もうすぐ無くなるのに呑気な事を言っている場合か!)
爆竹をばら撒き終えたシノンだが、その瞬間誰かに髪を引っ張られ、立ち止まってしまう。
「痛った!」
「このクソガキが!! もう変な真似させないぞ!!」
爆発音が鳴り終わり、ラスはアメリアを連れ逃げる算段だったが、あとちょっとの所でそれが阻止されてしまった。行く手には、盗賊が先回りしていたのだ。
「おっとぉ、お頭の言う通り金になりそうな“人”がいたぜ」
盗賊達は、皆アメリアに注目し始めた。そこまで良い質の服ではないが、一見すると身なりの良いアメリアだ。自身がターゲットにされ、ラスの後ろに隠れてしまう。
ラスはそんな彼女を守るかのように、すっと、一本の刀剣を構える。それはどう見ても、移動小屋の中にあった模造刀だが、あったに越したことは無い。
「ぎゃははは! ナイト様のつもりか、貴様!」
「いいぜぇ、袋叩きにしてやろうぜ!!」
そう言ったのを皮切りに、盗賊達がラスに襲い掛かろうとする。
しかし、その前を一つの影が、音も無く横切った。
心臓部分に、違和感を感じた盗賊達は、一瞬立ち止まる。
「ラス! アメリア! ここから離れろ!!」
「シ、シノン君?」
否、シノンであったはずの、カシスだ。姿はシノンなのに、カラーリングと雰囲気がまるで違う様に、二人は驚いていた。
(カシス!! 僕で十分だからってば、カシス!!)
シノンの声には一切耳を傾けず、カシスは二人を崖の反対側へ誘導した。
盗賊達もすぐさま後を追おうとする。
しかし、頭上で何かが鳴り響いたかと思うと、突如として大量の岩や土が、下へ滑り落ちてきた。
土砂崩れだ。
ここ最近雨など降っていない、地盤が緩んでいたはずも無いなど、盗賊達は疑問に思う暇もなく――あっけなく飲み込まれていった。
離れた場所で、カシスはそれを確認する。
「終わった、変わるぞ」
二人の前で、カシスは持っていた大鎌を消し、シノンに入れ替わる。
「ちょっと、変わる場所を選んでよ! っていうか、カシスまた!!」
(お前こそ喋る場所をわきまえろ。それと、私はシノンの反対意見に賛同したわけじゃない)
訳が分からない様子に、ラスとアメリアも、喧嘩腰の独り言を言うシノンを見て唖然としていた。
しかし今度はその隙を突かれ――
「きゃあっ!!」
「アメリア!?」
アメリアの悲鳴と、ラスの大声にシノンも振り向く。するとアメリアは盗賊に手を引っ張られ、必死に抵抗しようとしていた。
(しまった、まだいたか! おい、シノン変われ!)
「嫌だ!!」
(この期に及んで何を言う!?)
「おいごちゃごちゃうっせーぞそこのガキ!」
アメリアを掴む盗賊の横に、まだ数人の盗賊がいた。恐らくベルが相手にしていた盗賊の内から、逃げてきた部類だろう。
「放して! 話してください!」
「……放せ」
「放せと言われて放す馬鹿は居ないんだったよな」
手首を乱暴に掴む盗賊は、ベルの言っていた言葉をそのまま返した。
「おい、大事な“商品”だ。あまり乱暴に扱うなよ」
「分かってますよアニキ……へっ?」
パキっという、軽快な音が響き、盗賊の一人が気の抜けた声を出す。
アメリアの、黒い手袋をした手が、腕から離れていった。
一見するとショッキングで、現実味に欠ける光景。
「う……うわあああああ!?」
驚いて、黒い手をその場へ放り投げる盗賊。バランスを崩したアメリアは、ラスによってキャッチされた。
「おおおおい、あれほど乱暴に扱うなと!!」
「だってアニキ、普通手はあんなに簡単に取れませんぜ!?」
カタリ、と、小さな不気味な音がする。
その音を聞き、嫌な予感がしたのか、盗賊達は肩を震わせて手の方向を見る。
千切れた手が、動いた気がした。
いや、普通に考えれば、動くはずも無い。
しかし、カタリ、カタリと、指はピアノを弾くように動き、這うように地面を移動していく。
カサカサ動く虫のように、手は盗賊達に近づく。
……そんな現実が、盗賊達の恐怖を頂点にさせた。間抜けな悲鳴を上げ、全員その場から立ち去って行った。
「カ、カシス……手って外れても動くっけ……!?」
(人間をトカゲの尻尾と同様に考えるな!)
少し動揺しながらも、アメリアを見つめるシノン。暫くし、彼女は先ほどまで謎の動きをしていた、自分の手を拾い上げる。
「ああ……ラス、ごめんなさい。修理してくれるかな?」
無言で頷くラス。どうやら彼は状況を把握しているようだ。
「……しゅ、修理って?」
(まさかとは思うが……)
「シノン君、さっきはありがとう」
アメリアはシノンに向かい、お辞儀をした。
「私達のために“普通”でない秘密を見せてくれたのなら、私も隠していることを白状しないとね」
アメリアは、するりと、千切れた手にはめていた手袋を外した。
そこから現れたのは、指の関節という関節が、球体のようなつなぎ目になっている、木製の手。
(これはっ……!?)
カシスは何かを察したようだが、シノンはまだ訳が分からない。
それを感じたアメリアは、少し悲しそうに、それでも笑顔でこう言った。
「私は人間じゃない……魂の在る“人形”なの」
その後、見事周囲の盗賊を撃沈させたベルが合流。ここに居ては危ないということで、アメリアとラスの正体は置いておき、すぐさま移動小屋でその場から去った。
もっとも、行く予定だった道は大岩で塞がれたため、当初は行く予定の無かった道と町を目指すこととなったが。
「あの……いいの?」
移動小屋の中。不意にアメリアが、シノンに訪ねてきた。
「私達がいたら、その……迷惑がかかっちゃう。あの盗賊達が万一言い触らしたりしていたら、次の町に私の話が行っている可能性だって……私は動く人形よ?絶対に気味悪いでしょう」
「人形でも、アメリアはアメリアじゃないか」
シノンはいつも通りの明るさで、そうアメリアに返した。
「私達の境遇を察した上で、正体を明かすと決めたんだ。迷惑も何も、それなりの覚悟を持っていたのならいちいちそんな事気にするな……って、カシスも言ってるし」
カシスの代弁をするシノン。もうアメリアは、シノンの事情を知っている。秘密を打ち明けてくれた二人に対し、二重人格であることを隠す必要はない。
アメリアは、人形師であるというラスによって作られた、等身大の球体関節人形だという。
何でも、ラスは作った人形に魂が宿るらしい。経緯は分からないが、故郷を離れずっと二人で当ても無く旅をしていたという。
「アメリア……直った」
ラスは壊れたアメリアの手を、木箱の上で黙々と直していた。アメリアによると、ラスは彼女の制作以降人形を作ってはいないらしい。その割には、素人のシノンが見ても感心する位の修理裁きであった。
「次の町は、念のため備品調達程度で済ますさ!」
「ありがとうございます、座長さん」
外のベルに向かって、アメリアは手の動き具合を確認しながら礼を言った。十分確認した後で、黒い手袋をはめる。最初こそは気づかなかったが、彼女の服装は球体関節を見せないようになっている。
「あと、ものは相談なんだけど――お前達さえ良ければ、うちの一座で働いてくれるかい?」
突然のベルの誘い。
シノンはまるで自分達が誘われた時のようだと、まだ一つしか季節が変わっていないのに懐かしく思った。
「えっ、えっ?」
「何、今決めることじゃないさ。そうだね、丁度この先に河がある。あの崖からだいぶ離れたことだし、トワロとセリエを休憩させるついでだ。そこでどうするか決めるといい」
それからシノン達は、せせらぎが綺麗に奏でられる河原で休憩に入った。
ベルはトワロとセリエに水を飲ませ、シノンは太陽の光が乱反射する河を眺めながら、ラスとアメリアの決断を待っていた。二人は少し離れた所で、話をしている。もっとも、ラスが喋っているかは怪しいが、きっと喋らなくても二人の気持ちは通じ合っていると、シノンは感じていた。
「まるで僕達みたいだよね……カシス?」
なにやらカシスは考えているようで、あまりシノンの話を聴いていないように感じた。まあ、カシスにもそんな時はあると、あまり気にせず川を眺め始めた。
(……魂、か……)
カシスのそんな言葉。また彼女なりに悩んでいると、シノンは深く聞かず、その言葉の記憶は河の流れと共に消え去って行った。