タイムスリッパー
私はタイムスリッパーだ。小説にあるような雷に打たれてとか、階段で転んでとか、自動車に撥ねられてとか、ありがちな『きっかけ』はなかった。ただ、朝目覚めたら、タイムスリップしていたのだった。
今朝は携帯電話のアラームによって目覚めた。どうもこの「携帯電話」というやつに、いまいち馴染めないでいる。そして目覚めのコーヒーを飲むために、キッチンへ行き湯を沸かす。これもこの時代のコンロに馴染めない。ともかくコーヒーを飲んで目を覚まし、簡単な朝食を取って仕事に向かう準備をする。
私がかつて読んだ小説のタイムスリッパー達は刺激的な生活を送っていた。タイムスリップする前の知識を使い、様々な困難を乗り越え成長していくのだ。
しかし、私はいたって地味だ。なんとかこの時代に溶け込もうとしているのであるが、なんとも居心地が悪い。
アパートの一室を出ると、隣りの若い女性も家を出るところであった。
「おはようございます 」
と声をかける。その娘は私を一瞥して、軽く頭を下げただけでそそくさと行ってしまった。これもいつものことだ。「ふぅ」と思わずため息が出る。この時代では隣人と挨拶すら交わさない事もあるということらしい。
タイムスリップできたらなと思ったことがあるが、私の場合は良い事は何もない。私の知識はこの世界では何の役にも立たないからだ、仕事でも、私生活でも。
ああ、神様。なぜ私をタイムスリップさせたのですか?
せめて違う時代にしてくれればよかったのに……。
そう、私はタイムスリッパー。昭和五十年から平成二十二年にタイムスリップした男。
過去から未来への役に立たない「タイムスリッパー」……
END




