わからないときは、質問しましょう その3
翌日出社した美優は、朝一番の接客で一息ついた店長を捕まえた。
「商品、増やしたいんですけど」
「売れると思ったら、増やしてください。でもその前に在庫切れチェックして、棚の空きがないようにしてね」
簡単な返事だが、それが難しいのである。何せ空の棚やフックに、もともとどんなものがあったのかわからない。一号店で七十足あった靴の棚を考えれば、こちらにはもっと多くの種類が置いてあったはずだし、手袋の空きのフックもサイズ違いがあったのか違う種類があったのかすら、定かでない。
「何がないんだか、わからないんです」
「じゃ、カタログ見て、美優ちゃんが気に入ったもの入れてみて。売れなければ、次回からモデル変えればいいから」
とんだ指示があったものだ。気に入ったのなんのと言われたって、使ったこともない。ただ一つわかったことといえば、松浦に相談してもまったく無駄だということだけである。
皮手袋と軍手の何点かは切らさずに置いてあるので、多分客がしっかりついていて、作業着売り場の中でこれだけは切らすなと念を押されているものなのだろうと、その程度の判断はできる。安全靴はどうなのだろう?フルサイズ残っているものを除けば、売れているものだということだろうか?
とりあえず、とっつき易そうな靴から行こう。基本的には先芯とやらが入っていて、履きやすければ良さそうだ。耐油だの制電だのと箱には書いてあるものもあるが、それほど大きくは謳っていない。気に入ったものを入れてみろと言われたんだから、失敗したって自分のせいじゃない――そう思い決めて、手近な箱に書いてあるメーカーのカタログを取り出した。『辰喜知(喜の文字は、七を三つ書いた旧字である)』と表紙にあるそのカタログを開いてみれば、さながらイケメン写真集だ。筋肉を強調した薄手のシャツも、下半身に余裕のあるパンツも普通にカッコいい。ただし(ただし、がつくのである)普段街中で見るオジサンたちは、モデルのように脚が長いわけでも頭が小さいわけでもない。モデルが着崩した厚手のシャツは素敵でも、オジサンのニッカポッカは泥臭い、ような気がする。
カタログを捲って靴のページが始まると、美優はほっと一息吐く。ここから何足か、ピックアップするだけで良いのだと、椅子をひっぱり出してカウンターの後ろに据えた。スニーカーのハイカットとローカットを一足ずつ入れようと心に決め、付箋紙を握る。
通信販売で靴を頼むような気分だ。現物を見たことはないのに、一枚の写真からモデルを決める。
「あ、これ、ちょっといいかも」
黄色地に紫のラインが入る、少々今風の色合いだ。多分街中で履いていても、違和感が少ない。そう考えながらページを更に捲れば、普通のスニーカーだと言われても気がつかないもののようなデザインばかりだ。
もしかしたら、普通に靴選ぶみたいに選んじゃっていいのかな、これ。そんな風に考えれば、おのずと美優の好みが入ってくる。サイズだって美優の足に合うものが作られているということは、女性が履くことを想定しているのかも知れない。
熱田が来るまでの時間、美優はそうやって真剣に靴を検討したのだ。