表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
8/134

わからないときは、質問しましょう その2

「お、怒った?」

 てっちゃんが、むしろ楽しげに言う。

「じゃあさ、これ、どう思う?」

 箱から出したばかりのシャツを広げて、美優ににやりと笑ってみせた。正直、そのシャツは美優から見ればカッコいいものじゃない。色は綺麗だがデザインの繊細さに欠けるし、木綿のシンプルなシャツなのに(形状はワイシャツと大して変わらない)その襟が倒れずに立ったままプレスされているのだ。率直にこれに答えたものかと、美優は少々ためらった。

「ほらな、カッコわりぃとか思ってんだろ。カッコいいんだよ、これは」

「趣味が合わないだけじゃないんですか?」

 この問題に関しては、これで済ませようと思った。髪をオレンジにしてる奴になんか、センスがないとか言われたくない。


「でもこれ、人気モデルなんだぜ?な、熱田さん」

「まあ、そうね。固定ファンはいるわねえ」

 熱田はにこにこと答える。

「でもまったく初心者なんだし、お手柔らかに頼むね、てっちゃん」

「新人だろうがベテランだろうが、俺らから見れば全部店の人だもん。二号店の作業着、ひっでえんだ」

 ふたりのやりとりを黙って聞くしかない美優は、仏頂面だ。

「はいはい、また松浦店長と喧嘩したね?てっちゃん」

「あの野郎、いい加減な納期言いやがって。今朝取りに行ったら、まだ揃ってませーんなんつって」

「今日必要だったの?」

「来週だけど」

 身内風の会話を聞きながら、自分のセンスを否定されたみたいで面白くないったらない。


 社長である叔父が二階にもう一度顔を出した。

「どうだ、みー坊。あっちゃんの売り場は」

「うん、綺麗……」

 返事をしようとした後ろで、笑い声がする。

「みー坊!あんた、みー坊って呼ばれてんの?」

 自分に話しかけられたわけでもないのに、失礼な奴である。美優がどう返答しようか迷っているうちに、叔父が愛想良く返事した。

「おや、早坂さんちの息子さん。うちの姪なんでね、子供のころからそう呼んでるんですよ」

「へー、社長の姪なの?俺もみー坊って呼んでいい?」

 冗談じゃない。小さい頃から知っている間柄ならともかく、全然知らない相手にそんな呼ばれ方されたくない。ましてセンス云々と言われたのは、たった今である。

「もちろんですよ。気楽にいろいろ教えてやってください、早坂さんの息子さんなら安心だから」

 美優が口をぱくぱくさせている間に、てっちゃんは階段に向かう。

「じゃね、みー坊。ちょっとはセンス磨いといてね」



 二号店に送られる車の中で、美優はオカンムリだ。

「しんっじらんないっ!お客さんにみー坊なんて呼ばれるの、絶対イヤだからね!ましてあんな失礼な奴!」

「失礼だったか?」

 叔父はのんびりと答える。

「失礼じゃないの!はるかに年上の叔父さんにまでタメ語で、人の会話に割り込んで来て」

「まあ、口の利き方は知らないな。でも、いい子だぞ?」

 大人の言ういい子ってのは、同年代から見たイイ奴と違うのだ。美優はむすりと口を噤む。

「面倒見もいいしな。みー坊も教えてもらえばいい。お客さんから意見を聞くのが、一番勉強になる」

 叔父の言葉を話半分で聞いて、美優の三日目の仕事時間は終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ