衣替えは暦通りではありません その2
じれじれと動かない冬物を横目で見ながら、ふと気が付くと夏物が売れている。まだ暑い日も多いもんなあなんて思っていると、今度は防寒服が入ったかなどと大きな声で言いながら階段を上がって来る人がいる。分裂を病みそうな気候だ。
「スキーソックスとあったかい肌着、ある?」
「あ、入ってます!」
早すぎたと思いながら陳列したものが、早速売れたりもする。
「夜間作業でさ、明け方が寒くなっちゃって」
小間物でも何でも良いのでとりあえず商品を動かすのが先決だ。本店の熱田に電話をかけて、相談したりもする。
「店の入り口にハンガーラック出して、薄手のヤッケとか出してみたら?安くてシンプルなやつなら、工具と一緒に買う人がいるよ。作業服売場はワーカーズとかの安いの買ってても、ヤッケくらいの金額なら気にならないから」
売り場外に商品を展示する?しても良いんだろうか、そんなこと。
「ちょっと目先変えるだけで、見てもらえるものも変わるよ。売り場のレイアウト、冬用に変えてる?」
変えてない。今までと同じようにハンガーにかけて、防寒ジャンパーも普段の作業服も同じように並べた。
「欲しいものをよりどりで選べるように、季節品は目立つ場所に専用コーナー作った方が見やすいと思う。ハンガーラックでもいいけど、これから内ボアの手袋とか帽子とかも入るでしょう?それも平面スタンドである程度見せとけば、この店には冬物が揃ってるんだって印象に残るよ。すぐに買って行かなくても、寒くなってきたなって時に思い出してもらえるでしょ?」
なるほど。言葉で案内するより商品をアピールする効果があり、美優が店に立っていない時間でも勝手に視覚に訴える方法なのか。
とりあえず、と空いているハンガーラックを引っ張り出し、店長に許可を求めに行く。店の入り口に特売の腰袋などが掛けてあるので、その横にと場所の目星はついている。
「階下に少し、作業着を置きたいんですけど」
「ああ、入り口の辺に置いてね。それとね、防寒服で見せたいモデルがあれば、なんか映えるようにして階下にも二・三枚置いて」
こだわりなく返答され、却って驚いた。売り場以外にも置いていいのか。
「階下にも広げていいんですか?」
美優の驚いた顔に、松浦は呆れた顔を返した。
「あのさ、同じ店の中でしょう。どこに置いたって、売れれば店の売上なんだから。それとも、美優ちゃん一人の売上のつもり?」
放置されていた売り場だから、売上の増加にも協力なんてしてもらえないものだと思っていた。レイアウトの変更や棚の組み換えなんて女の力では難しいから、そのままのレイアウトで季節物の特設をしなくちゃいけない、なんて。
私は作業服売場の責任者で、発注担当で。だけどここって、私だけが売ってる店舗じゃないよね?電動工具も売上だけど、作業服も売上なんだよね?
ここは企業だ。対面販売の小売店でうっかり忘れていたけれど、個人で販売してるんじゃない。企業の利益を産むことが自分たちの向上に繋がるのなら、どんな形でも利益を産むことが大切なのだ。そのためならば、他の守備の人に協力を仰いだり、自分の立ち位置を変えても良い筈。
ん、と手足に力を入れて、入り口近くに置いたハンガーラックにヤッケを吊るす。軽い商品だから、品出しするのに力は貸してもらわなくても大丈夫。けれど、閉店時には店の中に入れてもらわなくてはならないのだ。
「ここにヤッケ出しまーっす!雨が降ってきたときと閉店時、店の中に移動お願いします!」
レジカウンターに声をかけ、頭を下げた。宍倉がうんうんと頷いた。




