家庭によって生活も様々です その5
花火が終わって客たちが帰りはじめると、社員たちは手際良く屋上の片付けを開始する。鉄に待っていろと言われたので、所在ない美優も片付けを手伝おうと、焼き網を持ち上げようとした。
「あ、いいよいいよ。手が汚れるから、女の子はそんなことしなくていい」
コワモテさんがにっこり笑い、その顔でリョウの方を向く。
「クーラーボックスは先に氷捨てるんだ。ない脳味噌でもちょっとは使え!」
「はいっ!」
直立で返事するリョウは、はじめに会ったころより身体が大きくなっている。それでもやっぱり、厳しい上下関係は垣間見えるのだ。
長机を絞った布巾で拭いていると、また社員が走ってくる。
「女の子が片付けなんてしなくていいって。外のことなんて男がするから。おい、若いの!」
パイプ椅子に座らされて甘い清涼飲料水なんて持ってこられて、お姫様扱いである。
「てっちゃんが戻ってくるまで、もうちょっと待ってね。のんびりしてて」
ぼーっとしている間に宴席はなくなり、最後にデッキブラシが使われている。大きな笑い声で冗談が飛び交い、男たちの動きは力強く早い。兄や父とは、明らかに違う温度を持った男たちだ。
「みー坊ちゃん、こんなに遅くなって悪いな。親御さん心配してるんじゃないのか?テツが帰ってきたらすぐに送らせるから」
鉄の父親すら、気を遣ってくれる。
「こちらこそ、遊ばせていただいてご馳走になって。まだ早い時間ですから」
「十時前だよ。いつもそんなに遅いの?未成年が、不良だなあ」
鉄の父親の言葉に、ちょっと反応する。
「未成年じゃないです。てっちゃんと一歳しか違わないんですけど」
「あれ、ごめん。十七・八かと思ってた。じゃあテツの母親が、テツ産んだ歳だなあ」
若い母親だったらしい。美優は現在進行形で、結婚どころか彼氏もいない。
「テツと仲いいみたいだけど、あいつって男としてどう?」
これを日焼けしたゴツい中年が、笑いながら言うのだ。美優の父親なら、こんな若い娘にフランクな喋り方なんて、できないだろう。
「優しいなーって思います」
男としてとか言われたって、答えに困る。でも、鉄はイイ奴だ。結構賢いし、男気も感じる。口はあまりよろしくないようであるが。
「ばあちゃんっ子だから、ちょっと甘いんだよなあ。だけどまあ、俺の子にしてはイイ子だよ」
何のアプローチのつもりなのか、鉄の父親はニヤリと笑う。
「みー坊ちゃん、また遊びにおいで」
屋上の上はいつの間にか、あらかた片付いている。
「社長、いくら独身だからって、そんな年の差で口説いたら犯罪ですからね」
「いや、テツと女張り合おうと思ってさ」
そう言いながら隣に立っている人が動こうとしたとき、鉄が屋上に入ってきた。
「ほらほら、てっちゃんに怒られますよ」
社員との軽口に、自分が鉄の恋人候補と認識されていることを知った。考えてみれば、こんな場所に女の子一人で来たのである。
「みー、お待たせ。送ってくから、リョウと一緒に車乗って」
鉄の言葉を、他の社員が遮った。
「リョウは方面一緒だから、俺が乗せてくよ。てっちゃんはその子送ってくだけでいいから」
「あ、そう?じゃあ行くか」
エプロンは外して、バッグにしまった。車の中とはいえ、先刻の父親との会話に続いてふたりきりっていうのは、なんとなくドキドキする。
そんなつもり、全然なかったんですけど。本当にただ、花火を見に来ただけなんです。
けれど多少なりとも生活と素顔を見てしまったことで、やけに身近になったことも確かだ。そうして覗いた顔は、結構なんて言うかまあ、って言葉を濁すようなもので。
つまり、鉄への興味が深まったわけである。




