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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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来客者数は平均しません その6

 土曜日の伊佐治は、結構忙しい。平日美優が勤務している時間には客の入りは少ないのだが(っていうのは、現場に入る前と現場から出た後の客が多いのだ)土曜日が休みの客が、昼間に買い物に来るからだ。その中には、数が少なくても日曜大工ワーカーズも含まれる。ホームセンターよりも本格的な品揃えであることを知って、工業団地の中まで買い物に来るお父さんたちは、プロフェッショナルよりもコダワリが強かったりする。


「いらっしゃいませ!」

「三十万入りまーす」

 景気の良い声が階下から響く。作業服売場の客層も幾分平日とは違って、家族連れや若いカップルも多い。実は先日それを当て込んで、子供用の作業服を入荷したばかりなのだ。秋の祭りに向けて殊の外見て行く人が多く、小さなサイズの鯉口シャツやニッカが買われてゆく。はっきり言っちゃうと量販店の子供服の方が安価いのだが、大人用のごつい服の中に同じ仕様の小さなものが並んでいるだけで、嬉しくなる人も多いらしい。まして美優がつけたPOPは『パパとおそろい!』なもので、若いパパたちが嬉しくなっちゃうらしい。いそいそとレジに持っていく姿に、美優も微笑みながら礼を述べる。


 鉄の家に同行する友人は、たった一人。どういうわけか誘った相手がみんな予定アリで、どうしようかななんて迷うような返事をした友人を、強引に誘った。鉄とリョウは知っていても、他は知らない顔ばかりなのだから、美優だって心細い。

 とりあえず道連れを確保した安心感と夕方からの予定のワクワクで、それなりに来客者の多い美優の午後は、平穏に過ぎていくはずだった。スマートフォンが軽快な音でメッセージを着信するまでは、だ。


――ごめん。突然生理になっちゃって、行けない。

 思えば高校生のころから生理の重い子だった気がする。慌てて通話を呼び出すと、申し訳なさそうな声が聞こえた。

『ごめんねー。なんかダルいなーと思ってたら、始まっちゃって。今鎮痛剤飲んだとこだけど、ぜんぜん効かないー』

 まさかそこで、無理に出て来いと言うわけにはいかない。自分が逆の立場なら、身体が面倒なときに知らない場所、まして知らない男の家になんて行きたくない。

「うん、仕方ないよね……」

 そう答えるしかない。


「あのー、すみません。これのサイズって取り寄せてもらえるんですか?」

 客から声がかかれば、電話口でグズグズ言い続けるわけにはいかない。取り寄せは確実な売り上げなのだから、逃したくない。

「大丈夫、気にしないで。知ってる人が何人もいるから、花火楽しんでくる!」

 通話を終わらせて慌てて客の話を聞くが、頭の中ではすっごく落胆してるのである。花火だけ楽しんでとっとと帰って来ちゃおうなんて、顔には出さずにぶすったれる。


 普通の土曜日程度、つまり一時間に二、三人の来客者数だ。のんびり接客したり商品を整えたりする余裕のある日だが、時間を持て余すことも走り回ることもない。仕事的には良いペースで、毎日こんな感じなら充実するんだけどなーと思いながら、時間は過ぎてゆく。

 あんまり、夜のことは深く考えないことにしよう。てっちゃんとリョウ君がいるんだし、あの二人に誘われたんだと思うことにして……いや、一緒にバーベキューするほど仲良くしてないけど。


「みー、忙しい?」

 鉄が顔を出したのは、まだ五時を少々回ったあたりだった。

「終わるまでまだ、一時間くらいあるよ」

 美優の驚いた返事を、鉄は簡単にぶっちぎった。

「松浦のおっさんに借りるって断っといたから、もう出ても大丈夫」

「店長に?」

 階下まで行って確認すると、松浦は知っていたかのような顔で頷いた。

「早坂さんとこの花火でしょ?行っていいよ。毎年いろんな人招待してるんだ、あの会社。お客さんが混んでないなら、行けば?」

 美優の就業時間なんて、気にもしていないらしい。一昨日の混乱が今日でなくて良かったと思いつつ、美優はユニフォームから着替えたのだった。

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