先行発注は三ヶ月前に行われます その3
たまたま空いたフックの手袋のデータを、POSから引く。一年分の動きを見て、一月にだいたい五双前後は動くものだと安心して、発注書を切る。ただしそれはMサイズだ。他のサイズも当然動くのだろうと、何気なくLサイズLLサイズと続けると、動きが全然違う。Lはそれなりに動いているが、LLについては全然ダメだ。それでも在庫がある。年度を変えてチェックすると、最終で販売したのが二年前、その後に出てきたデータは入荷日付。つまり、入荷してから一度しか売れてないのだ。
一種類だけでは最低発注金額にまったく満たないので、他のフックもチェックして少なくなりそうなものを一緒に発注するために、他のもののデータも引く。結局手袋だけじゃ全然足りなくて、まだ在庫はあっても動きの良い安全靴を一緒に発注することにした。
ちょっと待ってよ……こういうの、他にもたくさんあるんじゃない?たとえば先週入荷したコレ。バーコードリーダーを当て、頭を抱えた。十双売るのに一年近く掛かった商品を、また十双も入れてしまった。
一号店や三号店では、この商品は出るんだろうか?たとえば二号店では一年に十双でも他の店舗にあれば、飾っておく分の二つや三つくらい移動伝票で回してもらえるよね?
伊佐治二号店は独立採算ではあるが、横繋がりのある場所なのだと思い出せたことを、褒めてやって欲しい。棚は常にフルセットで揃えておかなくとも、取り扱えるのだと提示しておくことが重要なのだ。大量に必要な人は先に発注してくるだろうし、普段買いの客の手は、通常二つだ。一時にいくつも手袋を使うことはない。
靴や服みたいに、同じものでも色やサイズを揃えなくちゃ売れないってわけじゃない。皮手袋も作業用手袋も、物が小さくて品数は多いけど意外に高価だ。たとえば一双六百円の手袋を十双控えれば、作業インナーならば三枚余計に在庫できる。
大手の作業服店ならば、三枚くらいのインナーで何が変わると笑うかも知れない。けれど少しでも予算を増やしたい美優には、それは結構大きな違いだ。在庫が圧倒的に足りないと客につつかれているのだから、置いてあれば――置いてあると認識させれば――購入したい人がいるはず。
書き出した手袋を全部POSに照会し、一年の動きを書き入れる。多分靴下も同じ作業が必要だろうし、他にも何か考えることがあるかも知れない。ただニコニコして綺麗な服を売っていると思っていたブティックの店員さんたちも、もしかしたらこんな地味な作業をしているんだろうか。
ううん、あっちは流行を追わなくちゃならない分、もっと大変かも知れない。それに入荷した段ボール開けて品出ししてディスプレーって、お店の形が違っても同じことするんだよね?
「あれ?みーがまだいる」
作業着でない鉄が階段を上ってきて、慌てて時計を見れば就業時間はとっくに過ぎていた。相変わらずわからないセンスのTシャツである。その深いVネックのシャツは、胸筋を見せびらかすためのものかと突っ込みたくなる。それに加えてシルバーのペンダントのスカルは、一体何のためなのだ。
「なんだかムキになって在庫検査してたみたい。もう帰るけど」
カウンターの中でノートを閉じ、ペン立てにペンを立てる。
「帰んの?チャリ?」
「朝の天気予報で雨マーク出てたから、電車ー。結局降らなかったね」
鉄は車のキーをチャラっと投げた。
「送ってってやるよ。靴下買うから、ちっと待ってて」




