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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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先行発注は三ヶ月前に行われます その2

 どのメーカーも、訪れた内容はほぼ一緒だった。その場で発注書を切るメーカーと、紹介だけして発注書を寄越せと言ったメーカーの違いだけだ。手元には色刷りのチラシが大量に残り、発注したものとかメーカーが推す理由とかのメモが記入されている。

 三度目のメーカー訪問から松浦はつきあってくれなくなり、美優ひとりで営業と対峙しなくてはならなかった。防寒服の他にヤッケやら厚い靴下やら、なんだかんだといろいろなものを紹介され、目が回る。

 あとから送られてきた計算書を見直し、頭がクラクラした。説明を受けているときには必要だと納得して発注したつもりだったのだが、本当にこんなに大量に必要なんだろうか。安全靴や手袋ほど、作業着はまだ動いていないというのに。


 送られてきた既発注の見積書を計算し直し、ヘンな声が出た。確かこっちは九月中に納品とか言ってたと思う。このメーカーは十月末とかって。慌てて記憶をひっくり返し、ざっくりと予定を書き込む。すべて同じ月に入荷すると、大変なことになりそうな気がする。ハンガーを吊る場所は余裕だらけだが、レイアウトは変えなくちゃならないだろう。いや、その前に先立つものを考えなければ、キャンセルすることに……いや、キャンセルなんてしたくない。説明を聞いたときに、売ろうと思ったものばっかりなんだから。


 予算、どうにか確保しなくっちゃ。売上アップして仕入予算上げてもらうだけじゃなくて、他の在庫を今から計画発注して、冬物が入る月に定番品の仕入れは最低限になるようにしよう。無くなりそうなものを拾って発注するだけじゃ、何が一番回転する商品か把握できないじゃないの。

 拳を握りしめ、自分が定番だと思っている商品を書き出してみる。手袋を全種類拾って一覧表にすると、自分でもびっくりするくらい商品数が増えていた。客に言われるがまま、メーカーに勧められるがままに仕入れて、その後動いているのかどうかなんて気にしないまま、空になったフックだけ補充を繰り返していた。

 自分が気に入って採用した、色のついた革手袋のアソートが動いていることは、知っている。売れろ売れろと念じながら気にしていたから、入荷後一ヶ月もしないうちに買い増したときに小さく万歳したのだ。


 やだ、もしかしたら売れもしないものを並べてるんじゃない?毎日欠品はチェックしてるけど、毎回同じものを発注してるだけだったりして。たとえば十個入荷して三ヶ月で一個しか売れてないとしたら、それって需要が薄いってことだよね?そんなものが何年もここに在って、それがやっと売り切れたのにフックが空いたってだけで同じもの発注したら、また何年もそこに掛かってるんじゃないのかなあ。

 売れない商品はそこで打ち切りにして、違う特徴の商品を入れれば売り場が回転する――つまり、売上アップにつながる。客も変わり映えのない売場じゃなくて、新しい商品を提案すれば注目する。


 適正在庫ってやつ、だよね。冬物が入ってくる前にそれを完成させて、商品の回転率計算しながら入れれば、必要な在庫を確保しながら予算が残せるかも知れない。いや、何が何でも残さなくてはならない。だってもう発注しちゃったんだもん!多分インナーと小物と、普段の作業服もいるんだよね?売上が上がり調子になってきてるから、夏服をどこでストップするのか熱田さんに聞いてみないと。

 考えることが、急に増えた気がする。そんなに大量に入れていない夏服でも、残ってしまえば利益は翌年まで持ち越しになる。経理に携わらない美優は、利益まで頭は回らない。持ち越しになるのは仕入予算であり、今必要なのはそれだ。

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