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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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年中行事も対応します その2

 かき氷のシロップが、休憩室にいくつも運び込まれている。もしかしてお祭り用だろうかと思いながら、美優は一生懸命見ない振りをしていた。お祭りで食べるかき氷は、そりゃあおいしい。他人がかいてくれたものを、暑い最中に食べながら歩くのであれば。

 私が売るの、あれ?あとは焼き鳥とフランクとか言ってたっけ。誰が真夏に火の前に立ちたいっつーのよ。何か言い訳作って抜けらんないかな……ってか、超過勤つけてくれんでしょうね。

 工具店が市民祭りに出店する必要を、教えて欲しいもんである。商工会の一員としてとか言われたって、商工会に入っている会社がすべて屋台を出すわけじゃない。調子の良い叔父が、ノリで参加しているとしか思えない。売り子以外に休憩所の世話係と言われて、うんざりする。ちょっとだけ手伝って友達と待ち合わせなんて、できそうもない。


「二日間とも、ですか?」

「神輿が出るのは日曜だからね、土曜日は夕方から出てくれればいいや」

 下準備と片付けを免除されたらしい。祭り当日は店舗の方は客が少なすぎて商売にならないから、レジと接客ひとりで店を回すという。

「……特別手当とか」

「俺は給与に係ってないから、知らない。後でタイムカードだけ手書きして」

 タイムカードってことは、通常の時給で規定外の仕事をしろと?しかも休日出勤で?

「振替休日は」

「時給なんだから、休んだ分給与は減ります」

 なんだか、すっごい損な仕事のような気がする。


 毎年一緒にお祭りに繰り出す友人たちに今年は売り子だと告げると、買いに行くから安くしろと来たもんだ。待ってるから帰りに呑みに行こうとか、一緒に騒げなくて残念だとか言ってくれる人がいない。

「いや、実はさぁ、そのあと彼と会うんだよね。美優が不参加なら、私もパスしていいかなあ」

「大した祭りじゃないんだしさぁ、晩御飯代わりって感じじゃん」

 学生時代みたいに、お祭りだからと浮かれる人はいない。おしゃべりのために集まるのなら、いつでも集まることはできる。ただ友人たちが集まる場所に、一緒にいたいだけだ。売り手と買い手じゃなくて、自分も同じ方向から祭りを楽しみたい。

 なんで工具店が焼き鳥焼くのよ。ぜったい面白くない。



 そんなこんなで訪れた祭り当日。着せられた藍色の法被は、背中に凛々しく「伊佐治」の染め抜きである。腰で帯を締めるので、スキニーなボトムスで正解だった。普段の仕事用カーゴパンツのオジサンたちは、やけに腰がもたついている。店長の松浦だけは慣れているらしく、前掛け股引の職人装束だ。手伝いを頼んだ他店舗の社員たちと挨拶を交わしていると、交通規制の始まったアナウンスがあった。

「休みの日に悪いな、みー坊。デートの予定でもあったか?」

 悪いとも思っていないくせに、叔父がそんなことを言う。

「そうよっ!超ハイスペックなイケメンと、デートの約束してたんだから!キャンセル料の代わりに特別手当つけてねっ!大体、何のための屋台よコレ!」

 店内じゃないので、叔父にも普段の顔になってしまう。

「何のためって、顧客獲得のうちだぁ。ま、いればわかるさ」

 叔父はのらりくらりと答え、かき氷のカップを目の前に積んだ。

「特別手当だ。焼き鳥もかき氷も、好きなだけ飲み食いしていいぞ」


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