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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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揃いのユニフォーム承ります その5

 裾上げの必要なカーゴパンツは十七本。ワーカーズなんて大手の作業服店を引き合いに出されて、焦るなと言う方が無理である。ぐったりしたまま突入した午後でも、そのまま気を抜いていられるわけじゃない。

 発注、しなくちゃ。


 気力を振り絞って集計し、発注書を開く。ジャンパーとカーゴパンツのサイズ毎に数量を記入し、次は手袋の卸問屋だ。サイズと数量と……

「うそっ!最低発注金額行かないじゃん!手袋しか扱ってない会社なのに、なんでニ万円以下で送料が必要になるのよー!」

 足りないと言えば足りない在庫だが、その卸問屋に頼む商品が思いつかない。カタログを開いて頭を抱える。何か売りやすい商品をと考えても、定番品は今在庫が揃っている。メーカーのお勧めがあるとか客からの注文があれば、これが欲しいのだと理解できる。しかし自分で決めろとか言われると、何が使いやすくて何を求められてるんだか、ちっともわからないじゃないか。


『鳶はスタイル』

 薄緑でない、茶や紫色の革手袋のアソートセットが目についた時、ふと言葉が浮かんだ。スタイルにこだわりのある人ならば、手袋や靴下も洒落たものを身に着けたいんじゃないだろうか。

 鳶はスタイルなんて、何の言葉だっけ。カタログに記載されているコピーだったか。少し考えて、オレンジ色が脳裏に広がる。鉄の言葉だ。鉄がそう言ったのだった。

「よし、これ扱ってみよう。売れなかったら次は入れないっ!」

 気合を入れて発注書を書くと、妙に筆圧の高い文字になった。


 

 翌日から用意できている順に裾上げを開始だ。裾を開いてチャコで印をつけ始めてから、長さだけでは誰のものかわからなくなってしまうことに気がつき、慌てて個人名を貼りはじめた。手際が悪いったらありゃしないのだが、慣れないことなのだから仕方ない。唇をぎゅっと結び、自分を激励しながらミシンをかけていると、はじめ待ち針を打ちながら慎重に見据えていた縫い目は、途中から急にスピードアップした。手の感覚で、歪んでいるか真っ直ぐに縫えているか判断できるようになる。徐々に慣れるのではなく、何かの境目でそうなったのが美優にも不思議で、一日目には五本がやっとのミシン掛けは、翌日届いた梱包を開けると数時間で終わった。肩と目はひどいことになったが。

 ジャンパーと組み合わせて紐で結び、遅れて届いた手袋と一緒に個人名を書いた袋に詰めていく。この作業が一番億劫だと思いつつ、二十三人分を整えて箱詰めしてストックヤードに運ぼうとした。


 一人で持てないじゃん、これ。服の他に手袋まで入ってるんだから(ゴム手袋は重いのだ)、台車に乗せるまではできたって、階段降りるのなんて無理。一階まで走り降りて店長に男手を貸してくれと頼むと、やっと一息吐いた。

 さて、売上伝票を起こして仕上がったと電話しよう。カウンターの中で意気揚々と受話器を握る。


 金額はざっくりで十六万弱、原価率は悪くない。私の売上だ。手袋や安全靴みたいに、売り場に置いていたら勝手に買われていったものじゃない。ちゃんと客の要望を聞いて、一緒に選んで商談を進めたんだ。疲れたけど。すっごく疲れたけど、堂々と言ってやれる。私が売り上げたんだからね、これ!

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