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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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揃いのユニフォーム承ります その3

 ジャンパーのサイズはM・L・LL・EL、カーゴパンツも同じくプラスワンサイズ揃える。二十三人の試着に対応するのは、どう考えたって自分だけでは無茶だ。揃えた枚数が少ないのだから、ズボンの裾をピンで留めていては足りない。折り返した長さを記録しなくては。

 名前を一覧表にし、サイズと股下を書き込めるようにする。頭を抱えて考え込み、結局熱田に電話してみたりする。

「二十三人のサイズ採るのに、ひとりは無理だわ。店長に人を貸してもらいなさいな。多分、カオスだよ」

「手際が悪いとかって、言われるかなあ」

「そうは言わないと思うけど……年配者の集団でしょ?せっかちさんと知ったかぶりさんは、想像より多いと思うわ。健闘を祈る」

 熱田に手伝ってもらえれば心強いが、他店舗の人間をペーペーに動かすことはできない。松浦に頼んで、一階から誰かを貸してもらわなくてはならないが、誰が来るのだろうと思うと怖い気がする。


 伊佐治の店員は、正社員の数名を除いてすべてパート・アルバイトである。二号店に於いては正社員は店長の松浦とレジの宍倉のみで、他はアルバイトなのであるが、全員四十代から五十代の独身者だ。誰にでも事情も過去もあるのだろうからステロタイプに言い切ることはできないが、独身で中年のフリーターだと認識すると結構納得しちゃう面子なのだ。

 自分が主導権を持ち、一覧表にサイズのメモだけをしてもらうことにしよう。ズボンの裾を折った状態で定規を当て、次に回すだけなんだから。それにしても、二十人超でそれをすると、ひとり五分としても二時間近くかかってしまう。本当に一度に来ちゃうの?

 サンプルを確認しメーカーの在庫を確認して、不安と闘いながら自転車で帰宅する。頭の中は翌日についてばかりだ。



 バスタブに新しい入浴剤を、ぽちゃんと落とす。ベリー系の甘い香りが浴室に広がり、美優の入れ込み気味な神経を少し宥めてくれる。実は、熱田がまた助け舟を出してくれるのではないかと、少々期待していたのだ。自分から叔父に頼むことは憚られるが、向こうから手を差し伸べてくれるかも知れないと思っていた。一階の人間をひとり貸してくれと松浦に頼んではあるが、動きを指示するのは自分だ。

 もしこれで、失注してしまったら。たとえば時間のかかり具合に怒り出す人がいたり、取り寄せたサンプルが気に入らなかったりするかも知れない。二十三本のズボンの裾上げは、どれくらい時間をもらえるだろう。翌日に引き渡して欲しいと言われても、サンプル以上の在庫はない。大丈夫だろうかと案じるだけで緊張する。


 リビングでクッションを抱え、テレビの前に座る。片手でスマートフォンを弄り回しながら、落ち着かないったらない。誰かにメールでもしようかなとか、これからお茶につきあってくれる人がいるかなとか考えながら、きっとそれも楽しめないんじゃないかと思う。

 失注しても、どれほどの被害はない。売上がなくなっても、マイナスを出すわけじゃないのだ。美優にとっては大きな金額でも、一階で機械が一台売れれば、それくらいの売上は日常的なものだ。時々階下から、二十万入りまーすなんて景気の良い声が聞こえてくる。自分には無縁だと思っていたその金額を、弾き出すことができれば。

 だって、熱田は美優の目の前で無造作に発注して見せたのだ。価格表を確認しながら電卓を叩いて、残り予算を睨みつつ発注する美優の前で、セールのための商品だと言いながら二号店に商品を貸す余裕を見せた。

 熱田から借りた商品は、いつの間にか三分の二程度に減っている。翌週返さなくてはならないそれの代わりの商品を、どうにか入荷させたい。伊佐治の作業服売場はちゃんと機能しているのだと、客に認識して欲しい。何にもないなんて、もう言われたくない。

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