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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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季節商品お取扱い致します その4

 鳶はスタイル。鉄にはじめて会ったとき、その言葉を聞いた気がする。自分が会社勤めをしていたころ(とはいっても、今も勤めていることに変わりはない)仕事するための服などどうでもいい、なんて思ったことはない。似合うのか似合わないのか、流行から遅れていないか、季節が外れてはいないか――季節?仕事する服に季節って……

 うん、考えてた!美優はぽんと手を打つ。たとえノースリーブであっても夏にモヘアのニットは着ないし、オールシーズン対応の皮であっても冬にオープントゥのサンダルは履かない。仕事に行って帰るだけの日だって、季節のことくらい無意識に考える。


 ……おんなじ?同じなんだろうか。企業のお仕着せの作業着に、夏服と冬服はあったかしら。まだ手をつけていなかったカタログの、作業着のページを開ける。一番厚いアイザックのカタログの、美優が知っていた形の作業着のページを捲った。『通年モデル』そう記載されていて安心した次のページに、半袖の作業着が出ていた。商品の下に書いてあるのは『冬物対応モデル品番』の文字だ。

 あるんだね、やっぱり。じゃあ、売り場に堂々とかかっているボア付防寒ジャンパーって何?もしかしてあれは、今あっちゃいけないものなんじゃない?


 片付けてしまうと、きっとハンガーがスカスカになる。商品の少ない店でなんて、買い物したくない。仕入れるために予算が必要だが、実績のない今は予算なんてない。手袋と靴下と、揃え始めた安全靴で目いっぱいだ。美優はカウンターの中で溜息を吐いた。

 一号店の品揃えと二号店の売り場には、あまりに差がありすぎる。熱田に相談してみようか。伝票を翌月に付けるだけでは、全然足りない。本来なら店長に相談したいところだが、予算のことを持ち出したのは店長その人なので、話し難い。店の中に相談相手がいないってのも、しんどいもんである。



『あはは、そうねえ。じゃあさ、夏物と通年物に分けちゃったら?あ、通年物っていうのは、どっちかっていうと秋冬の厚い生地のものね。通年物の奥にこっそり冬物入れて、嵩増しして見せるの。それで季節品を仕入れる余裕ができたら、ちょっとずつ季節物メインに直してくのはどう?』

 なるほど、客もその方が探しやすい。麦わら帽子なんて言われるくらいなんだから、厚い生地のものを新たに求める人の方が少ないに違いない。

『あとね、いきなり定番で揃えようとすると経費が掛かるから、シリーズ決めないで何枚か仕入れて……』

 言いかけてから、ちょっと待ってねと話が途切れた。来客であるならば掛け直そうと思って待っていると、叔父に変わった。


『慣れてきたか、みー坊」

 能天気な声に、むかっとする。

「熱田さんしか頼る相手がいないんですけど」

『松浦も素人じゃないぞ?』

 素人でないことは知っていても、作業服売場そのものに興味がないことも知っている。

「店長は階下したで目一杯です。二階はずっと放置されてたんでしょ?」

『だから、みー坊が盛り返して』

「盛り返す材料がないんですっ!』

 アルバイト店員が社長に食って掛かるなんて、普通じゃ考えられない。身内だからこそである。とりあえずメシを食わせるから機嫌を直せ、なんて言われて電話を切る。


 程無く、熱田から逆に電話があった。

『美優ちゃん、社長とお昼食べたら、一号店に寄って。ちょっと考えたことがあるから』

 一号店の在庫数をもう一度見てくるのも悪くない。季節物をどれくらい置くものなのか、予算は天地でも、参考にできる部分はあるかも知れない。一も二もなく誘いに飛びついて礼を言った。二号店の売り場はまだ、店員がいなくても全然困らないレベルでしか動いていない。

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