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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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手袋靴下安全靴!来勘って何ですか その3

 仏頂面でPOPをつけている美優に向けて、無駄に明るい声がした。

「はじめまして!私、アイザックの田辺と申しまーす!」

 推定年齢三十少し手前の女の人は、ほっそりとした身体つきをしている。

「えっと、はじめまして」

 人間相手が慣れない美優は、相手のハイテンションに呑まれてしまう。

「うわ、今度はずいぶん可愛らしい担当さんですね。ずうっと担当がいらっしゃらなかったから、お客さん喜んでるんじゃないですか?」

「あ、いえ、全然説明とかできなくて……」

「使う方が選ぶんだから、説明はいらないでしょう?今までは来ても店長さんに、新商品はわからないとか冷たく言われてたんだけど、担当さんがいてくれるんなら来る張り合いが出ます」

 そう言いながら、大きなキャスターバッグから靴を取り出した。

「今月発売の新商品です。スキッパーズのデザインですから、若干アメカジ風でしょ?」

 聞き覚えのあるブランド名が出た。


「スキッパーズって、下着メーカーじゃないんですか?」

 上質なコットンのポップな下着は美優も知っているが、安全靴もあったなんて、知らない。

「ライセンス生産してます。タウン用にも良さそうなデザインだと思いますが。」

 シンプルなハイカットスニーカーだが、靴紐を通す部分のくすんだシルバーが効いている。靴屋にこれが並んでいれば、自分でも手に取ってみるかも知れない。

「かっこいい、ですね」

 素直に言葉が出る。この場所で一目見て気に入るものがあるなんて、思わなかった。


 私、これ売りたい。この靴のデザイン好きだもの、これなら胸張って良いものを入れましたって言える。新商品入荷のPOP作って、階段上って一番先に目につく場所に置いて。

「いかがでしょう?白と黒、二色置くと映えますよ」

「両方入れたいです。一色だと選ぶ楽しみが半減する気が……」

 そこまで言ったとき、店長が持ち出した予算の件が頭を掠めた。今月の発注はしてはいけないし、来月の予算も削られてしまうかも知れないのだ。ここに売りたい商品があって、自分と同じ感性の人なら目に留めるって予感がするのに。

「でも、入れられないんです……」

 情けない声を出して、美優は肩を落とした。先刻確認した二号店の作業着売り場の売り上げは、先月の同日比で数万円しか変わっていなかった。降りてくる予算が限られていれば、優先するのは定番商品の充実だということは、美優にも理解できる。顧客の決まっている手袋や靴下を仕入れれば、靴を二種類増やす予算なんてない。

「今月の予算、もうないんです」

 そんな言葉をモノともせず、アイザックの営業はにっこり笑った。

「もう、二十日過ぎてますよね?ライカンにできますけれども?」

 ライカンって、何だ?


「ごめんなさい、知識がぜんっぜんないんですけれども。意味を教えていただいて、良いですか」

 ライカン、ライカンと頭の中で繰り返す。

「ごめんなさい、本当に入社したばっかりなんですね。伝票を翌月にまわして、商品だけ先に入荷させることができるんです。商品を先入れして月内に売ってしまって、請求が立つのは来月にすれば、先売りした分たけ当月の利益が増えるでしょう?仮仕入れしていただいて、マイナス在庫が月跨ぎしないようにできるはずですよ」

 言っている意味は、やはり半分くらいわからない。翌月の経費を今使ってしまったら、翌月に仕入れることができないのではないだろうか。けれど当月でこれが動きはじめれば、少なくとも先月より売り上げが上がるはずだ。

「それって、他の店舗でも普通にやっていることなんですか?」

「はい。皆様仕入れ経費は計画予算に沿ってますから、月末に新商品が欲しいときや定番商品が欠品のときに、そうなさるお店は多いです。まあ、売れちゃえば結果オーライですしね」

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