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蝶々ロング!  作者: 春野きいろ
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わからないときは、質問しましょう その5

 二日後、せっせと値付け作業を行っていると、客が入ってきた。常連じゃない客らしく、売り場をキョロキョロしている。

「靴下、どこ?」

 こちらですと案内して作業に戻ると、出している品物を興味深そうに眺めている。

「あのさ、アラミドの手袋ない?」

「アラミド、ですか」

「カッターとかでも切れないやつ」

 そんな手袋があるのかと、きょとんとした顔をする美優に、客は続けて言った。

「入れといてくれないかなあ。次に来たときに買うから」

「はい……わかりました」

 そう答えたあとに、カタログで探せと言うばかりでまったくアテにならない上司の顔が浮かんだ。どのカタログを見れば良いのかも見当がつかないのに、探し当てることは難しい。それならばいっそのこと、客に聞いてしまったほうが早い。

「えっと、メーカーとか品番とか、わかります?」

 それがあることを知っているのなら、自分よりも情報を持っているかも知れない。


「俺が使ってるのは、袋におかめ手袋って書いてあったけど、どこのでもいいや」

「おかめ手袋、ですね。わかりました、入れておきます」

 なんだ、こんな簡単な質問で手がかりができるのか。メーカーさえわかれば、発注先を調べれば良いのだ。美優はノートにおかめ手袋のアラミドと記入して、ふうっと安堵の息を吐いた。

 今のオジサンは親切に教えてくれたけど、店員がこんなことも知らないのかと、バカにする人もいるんだろうなあ。一昨日の作業着の人みたいに、お店番とかって言う人の方が多いんじゃないかしらん。だってさ、いたって役に立ってないじゃん。今日はたまたま品出しがあったけど、出した品物を買って行く人が来ない。お客さんの注文って、本当にカタログだけで来るんだろうか?

 値付けを終えた商品を棚に運びながら、一号店の売り場を思う。たくさんの商品とカラフルな色合いは、必要なものを買う場所というより、買い物を楽しむ店みたいに見えた。何も知らずに自分が入っても、何があるだろうかと見て歩く気がする。

 でもまさかそんな、作業着を楽しんで選んだりする?企業で揃えるものだけじゃない、っていうのは一昨日に覚えたけど、どうせ汚れるんでしょ?

 どうせ汚れるからって理由で服に好みを反映させていないのかといえば、大間違いである。自分はどうだ。アウトドアで遊ぶときに気に食わない服で行く、なんてわけがあるか。けれど自分の生活にないことを、すぐに考えることができるほど、人間は上等にはできていない。


 美優が時間を終えて帰宅したあとに、新しく入れた安全靴が二足ばかり売れたらしい。どうせなら買って行く人の顔を自分の目で確認したかったのだが、営業時間のすべてを見張っているわけにはいかない。(営業時間が朝の七時から夜の九時までなのだ)

 翌日の昼に訪れた人が、安全靴の棚を確認しながら言った一言を、美優は聞き逃さなかった。

「なんかどうも、ぱっとしねえな」

 ここだ、と自分の中に叫ぶものがあり、美優はカウンターの上にカタログを並べた。

「次までに揃えます。どんな靴が必要ですか?」

 何も知らないのかと叱られたら、謝ろうと決意しながら。




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